ジャン=ポール・ディディエローラン『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』
エッフェル塔の足元から朝日が上る。
太陽は、高架を走るメトロの先頭車両と重なり、素晴らしい1日が始まる予感に満ちる。
美しいカバーの写真。
読み進めると、長いタイトルから想像した世界とは、かなり様子の違う物語だとわかる。
朝の通勤電車の中で、仕事前のひとときを一人楽しむ姿を思い浮かべたのだが、それが黙読ではなく音読だとは。
周囲の乗客が、主人公ギレンのその声を心待ちにしているあたりから、ファンタジーの匂いがしてくる。
ギレンが通う工場では、本の断裁をしている。
まるで生き物のような恐ろしい破壊機。
嫌いな上司と横柄な後輩から離れ、ギレンが束の間の安息を得られるのは、読書をする守衛の隣でランチをとること。
戯曲好きの守衛は、演劇の台詞のように話すちょっと変わった人。
少し変わった人は、そのあとも次々と出てきて、夢を見ているような空間を作り出していく。
わずかに角度を変えて眺めると、それは明るく綺麗な色に溢れた日常だと気づく。
もしかしたら、ぼくの単調な毎日も、ファンタジーになるのかもしれない。
写真はJulien FROMENTIN、装丁はbookwall。(2021)