ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む

2021-12-20 17:14:01 | 読書
 ジャン=ポール・ディディエローラン『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』




 エッフェル塔の足元から朝日が上る。

 太陽は、高架を走るメトロの先頭車両と重なり、素晴らしい1日が始まる予感に満ちる。

 美しいカバーの写真。

 読み進めると、長いタイトルから想像した世界とは、かなり様子の違う物語だとわかる。

 朝の通勤電車の中で、仕事前のひとときを一人楽しむ姿を思い浮かべたのだが、それが黙読ではなく音読だとは。

 周囲の乗客が、主人公ギレンのその声を心待ちにしているあたりから、ファンタジーの匂いがしてくる。


 ギレンが通う工場では、本の断裁をしている。

 まるで生き物のような恐ろしい破壊機。

 嫌いな上司と横柄な後輩から離れ、ギレンが束の間の安息を得られるのは、読書をする守衛の隣でランチをとること。

 戯曲好きの守衛は、演劇の台詞のように話すちょっと変わった人。

 少し変わった人は、そのあとも次々と出てきて、夢を見ているような空間を作り出していく。

 わずかに角度を変えて眺めると、それは明るく綺麗な色に溢れた日常だと気づく。

 もしかしたら、ぼくの単調な毎日も、ファンタジーになるのかもしれない。


 写真はJulien FROMENTIN、装丁はbookwall。(2021)