橋本倫史『東京の古本屋』
何年か経って2020年を振り返るとき、記憶に残る一番大きな出来事は、新型コロナに関連したことだろう。
店がどこも開いていなかった、誰にも会わなかった、ずっと家にいた。
そのとき古本屋はどうしていたのだろう。
東京に緊急事態宣言が発出されたとき、古本屋は休業要請の対象だった。
2019年末から2021年夏まで、10軒の古本屋を訪ねた記録。
それぞれ3日間、著書はスタッフの一員となって働きながら話を聞く。
古本屋には、本を読んでのんびり1日が過ごせる仕事という幻想を抱いてしまう。
そんな安易な考えが打ち砕かれる。
本を仕入れなくてはいけないし、汚れを落とし、それを売らなくては生活できない。
コロナ渦でも、シャッターの下りた店の奥で、ネット販売用に入力を続ける店主がいた。
カバーは、暗い通りの中で灯りのともった古本屋の写真。
ふらっと立ち寄るように、つい手に取ってしまった本。
口絵と本文にも写真が豊富に入っている。
あの頃、この人たちはマスクをしながら働いていたのだ。
少しいびつな日常であっても、変わらず人がいることに安心する。
カバー写真は著者、装丁は川名潤氏。(2021)