ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』と『果樹園の守り手』

2023-05-13 16:47:17 | 読書
 コーマック・マッカーシー『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』




 映像化された作品があまりに印象的だと、あとから原作を読んだとき失望することがある。

 この小説は「ノーカントリー」というタイトルで2007年に映画化されていて、
その強烈なイメージはいまだ頭から離れない。

 読み進めながら主役のハビエル・バルデムの顔がチラついてしまうのはどうにもできなかった。

 ところが、読み終えた後の感触は映画と少し違う。

 年月が経って映画の細部を忘れてしまったせいかもしれない。

 文字の中に潜む虚無感が、じわじわと頭の中に広がっていくのだ。

 徐々に追い詰められていく緊迫感を、鉤括弧を外したスマートな会話が効果的に昂めていく。


 一般市民のモスは、偶然、麻薬密売組織の大金を手に入れる。

 逃げる彼を追うのは組織だけでなく、冷酷な殺し屋シガー。

 そしてモスの身を案じる年老いた保安官。

 シガーの不気味な行動は、見ていると人としての正常な感覚を失わせる。

 ところが、合間に挟まれる保安官のモノローグは、生きているという安心に触れられる。

 タイトルの「オールド・メン」の存在の大きさを知る。



 この小説の前に、同じ著者のデビュー作『果樹園の守り手』を読んでいた。

 状況がわかりにくく、ストレスのかかる読書だった。

 やりたいことはわかる、でも上手くいっていない。後の偉大な作家に、偉そうに助言をしてみる。

 『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』は、それから40年後に書かれたもので、大きな成長のあとが見られる。

 続けることは大事だと、上から目線で語ってみる。

『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』

 装丁は國枝達也氏。

『果樹園の守り手』

 装丁は斉藤啓氏。(2023)