コーマック・マッカーシー『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』
映像化された作品があまりに印象的だと、あとから原作を読んだとき失望することがある。
この小説は「ノーカントリー」というタイトルで2007年に映画化されていて、
その強烈なイメージはいまだ頭から離れない。
読み進めながら主役のハビエル・バルデムの顔がチラついてしまうのはどうにもできなかった。
ところが、読み終えた後の感触は映画と少し違う。
年月が経って映画の細部を忘れてしまったせいかもしれない。
文字の中に潜む虚無感が、じわじわと頭の中に広がっていくのだ。
徐々に追い詰められていく緊迫感を、鉤括弧を外したスマートな会話が効果的に昂めていく。
一般市民のモスは、偶然、麻薬密売組織の大金を手に入れる。
逃げる彼を追うのは組織だけでなく、冷酷な殺し屋シガー。
そしてモスの身を案じる年老いた保安官。
シガーの不気味な行動は、見ていると人としての正常な感覚を失わせる。
ところが、合間に挟まれる保安官のモノローグは、生きているという安心に触れられる。
タイトルの「オールド・メン」の存在の大きさを知る。
この小説の前に、同じ著者のデビュー作『果樹園の守り手』を読んでいた。
状況がわかりにくく、ストレスのかかる読書だった。
やりたいことはわかる、でも上手くいっていない。後の偉大な作家に、偉そうに助言をしてみる。
『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』は、それから40年後に書かれたもので、大きな成長のあとが見られる。
続けることは大事だと、上から目線で語ってみる。
『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』
装丁は國枝達也氏。
『果樹園の守り手』
装丁は斉藤啓氏。(2023)