ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

ワシントン・ブラック

2021-07-18 17:37:02 | 読書
 エシ・エデュジアン『ワシントン・ブラック』




 情報量の多い帯を外すと、突然静謐な空間が現れる。

 漂う煙の奥に広がるのは、スタイリッシュなSFなのか?


 「ワシントン・ブラック」とは、残忍な農園主の下で働く奴隷少年の名前。

 この生活を抜け出すには死ぬしかなく、生まれ変わって解放されると信じている。

 そこへ農園主の弟ティッチが現れ、少年を手元に置く。

 兄のような残酷さはないようで、風変わりな作業の手伝いを少年にさせる。

 1830年代にはまだ珍しい気球の製作。

 ティッチは少年をバラスト代りに考えているが、奴隷ではない1人の人間として接しているようにも見える。


 物語は、突然先の見えない世界に突入する。

 そして最後のページまで、目の前に何が出てくるのか見当もつかない。

 結果として、なんとか生き延びた少年だが、常に心に引っ掛かりがあって、生きていることに満足できない。

 命があるだけいいじゃないかと思ってしまうのは、少年の負った心の傷、黒人が生きる辛い社会を、ぼくが理解できていないからだろうか。


 カバーを覆うスマートなSF感からは想像できないほど、無骨な冒険と生きる力に満ちた物語だ。


 装丁は水戸部功氏。(2021)