チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『パープル・ハイビスカス』
カバーのイラストとタイトル文字の賑やかで明るい様子は、アフリカを舞台にした楽しい物語を想像させる。
描かれた女性の口元は花で隠され、彼女が笑っているのかどうかわからないのが気になる。
ナイジェリアに暮らす15歳の少女カンビリは、父が事業に成功し裕福な生活を送っている。
キリスト教に改宗した父は、宗教的厳しさを家族にも強いる。
それは時に、ありえないほどの暴力を伴う。
カンビリは愛されていると信じ、おとなしく父に従っているが、父の言葉は呪縛となり、彼女の心を固めてしまった。
そんな彼女を気遣うシングルマザーの叔母は、自分の家に招き、自由な空気を感じさせようと試みる。
兄のジャジャは、生気を取り戻すかのように活発になっていくのだが、カンビリは同い年のいとこと気軽に言葉を交わすことさえできない。
ナイジェリアの混乱が、家族と叔母の周りに押し寄せてきている。
父が経営する革新的な新聞社は、軍事政権から狙われ、別の工場は操業停止に追い込まれる。
職を失いギリギリの生活を維持するのも大変な叔母は、前向きに新しい生活を模索する。
イボ語と英語が混じる会話は、西欧化するナイジェリアの複雑な雰囲気を表しているが、ぼくには理解できないもどかしい思いが離れない。
恋をし、カンビリが少しずつ、周囲の人たちに思ったことを言えるようになっていく姿は、苦しい状況の中にあって将来への希望を感じさせ、暖かい気持ちになる。
装画は千海博美氏、装丁は鈴木成一デザイン室。(2023)