七夕の前日まで降りしきっていた雨が上がり、よく晴れ渡った今朝。
愛犬を伴って散歩にでかけた。
およそ1時間半の道行きの途中「津幡中央公園」に立ち寄る。
その一角で、「藤」が鬱蒼と生い茂っていた。
淡く青みがかった紫の花をつけた姿は可憐だが、
隙間なく葉を広げた姿は、逞しく美しい。
そこには早くも、若い莢(さや)がぶら下がっていた。
これから雨に打たれ、陽に焼かれながら成熟し、晩秋から冬にかけ中の種を飛ばす。
その様子を著した、こんなエッセイがある。
『昭和七年十二月十三日の夕方帰宅して、居間の机の前へすわると同時に、
ぴしりという音がして何か座右の障子にぶつかったものがある。
子供がいたずらに小石でも投げたかと思ったが、そうではなくて、
それは庭の藤棚の藤豆がはねてその実の一つが飛んで来たのであった。
宅(いえ)のものの話によると、
きょうの午後一時過ぎから四時過ぎごろまでの間に頻繁にはじけ、
それが庭の藤も台所の前のも両方申し合わせたように
盛んにはじけたということであった。
台所のほうのは、一間(けん)ぐらいを隔てた障子のガラスに衝突する音が
なかなかはげしくて、今にもガラスが割れるかと思ったそうである。
(中略)
それにしても、これほど猛烈な勢いで豆を飛ばせるというのは驚くべきことである。
書斎の軒の藤棚から居室の障子までは最短距離にしても五間(けん)はある。
それで、地上三メートルの高さから水平に発射されたとして
十メートルの距離において地上一メートルの点で障子に衝突したとすれば、
空気の抵抗を除外しても、少なくも毎秒十メートル以上の初速をもって
発射されたとしなければ勘定が合わない。
あの一見枯死しているような豆のさやの中に、
それほどの大きな原動力が潜んでいようとは
ちょっと予想しないことであった。(後略)』
作者の名は「寺田寅彦(てらだ・とらひこ)」。
明治11年(1878年)東京生まれ、昭和10年(1935年)没。
地震予防と防災の研究に打ち込んだ物理学者であり、「漱石」門下の随筆家。
文理両道の才人らしく、優れた観察眼で自然を捉え、表現豊かに著した文章だと思う。
…さて、もう少し観察を続けてみよう。
蔓と葉で出来た傘の下は薄暗く、ほんの少し冷涼に感じられた。
また、適度に湿り気もある。
暑気が強くなってきた光の下よりも過ごしやすい。
この環境に寄り添って生きる命を発見。
殻に閉じこもり雨を待つ「マイマイ」と、盛んに葉を食む「ウロウリハムシ」。
藤棚は、人と自然が一緒に創った小さな森のようなものだと思った。
愛犬を伴って散歩にでかけた。
およそ1時間半の道行きの途中「津幡中央公園」に立ち寄る。
その一角で、「藤」が鬱蒼と生い茂っていた。
淡く青みがかった紫の花をつけた姿は可憐だが、
隙間なく葉を広げた姿は、逞しく美しい。
そこには早くも、若い莢(さや)がぶら下がっていた。
これから雨に打たれ、陽に焼かれながら成熟し、晩秋から冬にかけ中の種を飛ばす。
その様子を著した、こんなエッセイがある。
『昭和七年十二月十三日の夕方帰宅して、居間の机の前へすわると同時に、
ぴしりという音がして何か座右の障子にぶつかったものがある。
子供がいたずらに小石でも投げたかと思ったが、そうではなくて、
それは庭の藤棚の藤豆がはねてその実の一つが飛んで来たのであった。
宅(いえ)のものの話によると、
きょうの午後一時過ぎから四時過ぎごろまでの間に頻繁にはじけ、
それが庭の藤も台所の前のも両方申し合わせたように
盛んにはじけたということであった。
台所のほうのは、一間(けん)ぐらいを隔てた障子のガラスに衝突する音が
なかなかはげしくて、今にもガラスが割れるかと思ったそうである。
(中略)
それにしても、これほど猛烈な勢いで豆を飛ばせるというのは驚くべきことである。
書斎の軒の藤棚から居室の障子までは最短距離にしても五間(けん)はある。
それで、地上三メートルの高さから水平に発射されたとして
十メートルの距離において地上一メートルの点で障子に衝突したとすれば、
空気の抵抗を除外しても、少なくも毎秒十メートル以上の初速をもって
発射されたとしなければ勘定が合わない。
あの一見枯死しているような豆のさやの中に、
それほどの大きな原動力が潜んでいようとは
ちょっと予想しないことであった。(後略)』
作者の名は「寺田寅彦(てらだ・とらひこ)」。
明治11年(1878年)東京生まれ、昭和10年(1935年)没。
地震予防と防災の研究に打ち込んだ物理学者であり、「漱石」門下の随筆家。
文理両道の才人らしく、優れた観察眼で自然を捉え、表現豊かに著した文章だと思う。
…さて、もう少し観察を続けてみよう。
蔓と葉で出来た傘の下は薄暗く、ほんの少し冷涼に感じられた。
また、適度に湿り気もある。
暑気が強くなってきた光の下よりも過ごしやすい。
この環境に寄り添って生きる命を発見。
殻に閉じこもり雨を待つ「マイマイ」と、盛んに葉を食む「ウロウリハムシ」。
藤棚は、人と自然が一緒に創った小さな森のようなものだと思った。