つばた徒然@つれづれ津幡

いつか、失われた風景の標となれば本望。
私的津幡町見聞録と旅の記録。
時々イラスト、度々ボート。

ダビデの星の下に生まれて。

2021年11月03日 09時09分09秒 | 手すさびにて候。
                   
「須賀しのぶ」著、「また、桜の国で」は、史実を元にしたエンターテイメント小説。
平成28年(2016年)に出版された。
注目を集めた作品だけに、ご存じの方も少なくないだろうが、
僕はごく最近はじめてページを繰り、感慨を抱いた。

今回は、この本に登場するヒロインを想像して描いてみたもの。
ほんの手すさび 手慰み
不定期イラスト連載 第百八十六弾「ハンナ・シュロフシュテイン」。



小説「また、桜の国で」は、カッコいい男たちの物語である。

・主人公、日露混血の若き外務書記生「棚倉慎(たなくら・まこと)」。
・戦争回避、日波(※1)友好に尽力する駐ポーランド大使
 「酒匂秀一(さこう・しゅういち)」。
・棚倉の先輩で情熱家の「織田寅之助(おだ・とらのすけ)」。
・強い意志を持ったユダヤ系ポーランド青年「ヤン・フリードマン」。
・日本への強い愛と恩義を抱き、対独ゲリラ指揮官となる「イエジ・ストシャウコフスキ」。
・真実を見極めるためなら危険を顧みないアメリカ人記者「レイモンド・パーカー」。

彼らが集うのは、中欧「ポーランド」の首都「ワルシャワ」。
ある時はヨーロッパ有数の大国となり、
ある時は他国に蹂躙されて地図上から消え、
「分割と統合」「消滅と復活」を繰り返し歴史を紡いできた国は、
20世紀半ばもまた、激動のうねりの中にあった。

昭和14年(1939年)夏。
西から“最凶独裁者”「ヒトラー」率いる「ドイツ第三帝国」。
東から“獰猛な赤熊”「スターリン」率いる「ソビエト連邦」。
2つの大国が共謀し挟み撃ちにしてきた。
ワルシャワは破壊と殺戮の舞台となった。

前述したカッコいい男たちは、巨大な歴史の渦に抗い奮闘する。
国家とは何か、民族とは何かを自問自答しながら。
血にまみれ、死と直面し、憎悪や暴力に呑み込まれそうになりながら。
ラジオから流れる「ショパン」を心の支えにして。

そんな極限にあって友情を確認しあう場面などは、
BLとまでは言わないが、実に美しく描かれている。
「少女小説」でデビューした書き手の嗜好なのかもしれないなと考え読み進めた。
その演出が少々気になり始める中、作者は2人の印象的なキャストを登壇させる。

一人は「マジェナ・レヴァンドフスカ」。
豊かな栗色の髪。
ふっくらした稜線の顔には、緑がかった榛色(※2)の瞳、肉付きのいい唇。
人目を惹く肉感的なプロポーションの持ち主で、凄まじい大食漢。
明るい振る舞いの裏に孤独を宿したポーランド女性である。

そして、もう一人が「ハンナ・シュロフシュテイン」。
くせの強い巻き毛は黒。
小柄でやせ型、尖った顎、意志の強そうな鷲鼻。
濃い影を落とす睫毛に縁どられた、大きな漆黒の瞳。
女性らしいやわらかみに欠け、少年のような印象を与える23歳。

それぞれ異なる魅力を備えているのだが、
容姿やキャラクターから考え、作品に華を添える役割は前者の方が相応しい。
また、大戦末期「ワルシャワ蜂起」のさ中に命を落とす点も、
“悲劇のスパイス”として味わいがある。

だが、僕は、後者こそがヒロインだと考える。
やはり、彼女がユダヤ人という点は大きい。
民族の特徴を色濃く反映した造作を与えられて、
この時代、この国で生きる辛さは推して知るべし。
地獄のゲットー(※3)を逃れ、レジスタンスに身を投じ、
狙撃兵となりナチスの頭蓋めがけてトリガーを引く「ハンナ」。

その生き様は、どの男よりも烈しく象徴的に思えるのだ。

(※1「日波」は、日本とポーランド(波蘭))
(※2「榛色(はしばみいろ)」は、緑と薄茶の中間色。榛はヘーゼルナッツ)
(※3「ゲットー」は、強制隔離居住区画)

さて、小説「また、桜の国で」は、第156回直木賞選考に於いて
「恩田陸」氏の「蜜蜂と遠雷」の後塵を拝した。
しかし、高校生が直木賞候補作の中から「自分たちの一冊」を選ぶ
「第4回高校生直木賞」ではグランプリに輝いている。

『若い方に読んでいただきたいという思いが特に強かったのでとても嬉しい』
---と語る「須賀」氏。
オッサンも随分楽しませてもらった。
この読書体験をキッカケに、自分なりに近現代史を掘り下げてみたいと考えている。
                        

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2 コメント

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Zooey様へ。 (りくすけ)
2021-11-10 23:40:45
早速、コメントありがとうございます。

「須賀しのぶ」氏、読み応えがあります。
ポーランド側に視点をおいた小説と対極、
ある意味で対を成す作品、
ナチス側を舞台にした「神の棘」もあり。
近々読んでみようと思っています。

小説中「ハンナ」の行く末は不明のまま。
戦争を生き延びたのか?
どんな戦後を生きたのか?
気になるところで、色々想像してしまいます。

ネットがないころは、
辞典で読み方、意味を調べ、
色見本帳で色を探しました。
今と比べて時間はかかりますが、
苦労した分、覚えているものです。

では、また。
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Unknown (zooey)
2021-11-10 21:45:00
須賀しのぶ氏、こうしたエンタメ小説も書かれていたのですね。
「ハンナ・シュロフシュテイン」のイラスト、カッコいいです。
ハシバミ色の瞳という表現が、子供の頃に読んだ児童文学によく出てきて
どんな色?と聞いては周りの大人を困らせたものです。
あの頃、今のように簡単にネットで調べられませんでしたものね。
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