ほんの手すさび手慰み。
不定期イラスト連載、第百二十八弾は「地獄太夫」。
「死に来る人の堕ちざるはなし」。
(死なない人がいないように、私を抱いて惚れない者はいない)
自信過剰。
傲岸不遜。
そう受け取られても不思議じゃない詩歌の作者は、源氏名を「地獄」と名乗った。
生没不明。
室町時代の遊女とされる。
幼い頃、山賊に捕らえられた美女が流れ着いたのは、花街の闇。
前世の因果を呪い、春を売って生きる自らの境遇を嘲(あざわら)うかのように、
地獄絵図を描いた打掛を纏い、念仏を唱えながら、仏像の前に客を迎えた。
一方で、心で仏名を唱え、風流な歌を詠み、人気を博したという。
その特異な遊女に興味を抱いた人物が「一休禅師」・・・「一休さん」だ。
時の仏教界に反旗を翻す風狂な破戒僧でもあった「一休さん」。
堂々と遊郭へ足を運び、太夫を前に歌を贈る。
「聞きしより 見て恐ろしき 地獄かな」
(地獄の評判は耳にしていたが、会ってみると噂以上に美しい)
これに対する返歌が冒頭の一節。
つまり、完成形は両方を合わせて味わわねばならない。
「聞きしより 見て恐ろしき地獄かな 死に来る人の堕ちざるはなし」。
やがて時が流れて江戸末期。
「地獄太夫」は、読本や歌舞伎に取り上げられ、浮世絵の題材になる。
明治・大正時代にかけても、多くの絵師や小説家がモチーフにした。
つまり、皆、彼女の魅力に抗えず、恋に堕ちてしまったと言えるかもしれない。
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