僕が少年だった頃、
映画の周辺情報を入手するツールは雑誌だった。
「キネ旬」や「映芸」は敷居が高い。
小遣いをはたいたのは「スクリーン」か「ロードショー」。
「スクリーン」(1947年創刊)は、映画評論の読み物や企画が充実。
後発の「ロードショー」(1972年創刊)は、くだけた誌面で読み易い。
好みは分かれるだろうが、どちらにも共通する読者の呼び水はグラビア。
多くの映画スターが誌面を飾った。
その中に、独り異彩を放つ美女がいた。
ほんの手すさび、手慰み。
不定期イラスト連載、続く第百二十弾は「ナスターシャ・キンスキー」。
零れ落ちそうな大きな瞳。
高く通った鼻筋。
やや厚みのある唇。
大ぶりのパーツがバランスよく配置された顔は、
非の打ちどころがない。
しかし、どこか仄暗い影を宿した物憂げな印象。
「フィービー・ケイツ」。
「ブルック・シールズ」。
「ソフィー・マルソー」。
同時代に活躍した彼女らが太陽なら、
「ナスターシャ・キンスキー」は、夜空に浮かぶ月である。
昭和36年(1961年)1月24日、旧西ドイツ・西ベルリン生まれ。
幼少期は母親と共にヨーロッパ~南米を転々とし、
母国語以外に英語、フランス語、イタリア語、ロシア語を操る。
コスモポリタンにしてマルチリンガルの少女は、
子役として早くからカメラの前に立ってきた。
僕が最初に観た主演作は『キャット・ピープル』。
役柄は、人間と愛し合うと豹に変身してしまう獣人族の女。
つまりは「物の怪」だ。
目を見開き、牙をむいて獲物を狩る。
しなやかでセクシーな肢体を惜しげもなく披露する。
「愛しているの、殺して」
「もう一度抱いて、本当の姿で生きるわ」
そんな台詞を口にし、男を誘って激しいベッドシーンを繰り広げた。
『キャット・ピープル』は、よく「B級ホラー」だと言われる。
展開が鈍重、中途半端などと評されたりもする。
だが、ヒロインは壮絶なまでに美しい。
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