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再選の藤井浩人氏が語る 「美濃加茂市長収賄事件」の真実
出直し選で市民との信頼関係を再構築
全国最年少の28歳という若さで市長に当選し、注目を集めた1年後、突然、受託収賄罪などで逮捕、起訴という最悪の体験をした藤井浩人氏。1審の名古屋地裁では無罪判決を勝ち取ったが、2審・名古屋高裁で逆転有罪判決を受け、「信を問いたい」と首長を辞職。今年1月の出直し選に挑んだ結果、8割以上の得票率を得て圧勝した。市長の任期満了日が6月1日と迫る中で出直し選を行うことの是非や、「司法判断を選挙争点にすべきではない」といった否定的な意見もあった中で、あえて出直し選に挑んだ動機は何だったのか。
■事件についての情報は常にオープン
――出直し市長選で再選されたことをどう見ていますか。
まず、曲がりなりにも3年半、市長職を務めてきたことに対して一定の評価をしていただけたのではないかと感じています。市長に初当選した時期はちょうど、ソニーが市内の子会社の工場を閉鎖したり、工業団地の企業誘致がなかなか決まらなかったり、と経済的な課題を抱えていました。当市は人口5万6000人の小さな町です。その中で、「現場第一主義」を掲げて一つ一つの課題解決に取り組んできた結果、うまい具合にソニー跡地に進出する企業も、工業団地の企業誘致も決まり、大きな課題はクリアできました。こういう地道な姿勢が評価され、今後の期待につなげていただいたのではないか。――裁判が選挙に影響しませんでしたか。
当然ながら、裁判で逆転有罪判決が出た影響があったことは否めません。ただ、私は逮捕の段階から車座集会などで市民と向き合い、直接、説明をしてきました。裁判の中身、経過については主任弁護人の郷原信郎先生のブログを通じて詳しい情報を取れるようにしましたし、市民から「話を聞きたい」という話があれば、時間の許す限り、自分の話せる範囲で説明してきました。どういった経緯で逮捕、起訴されたのか、1審で無罪判決が出た時も、2審の有罪判決の時もそうやって情報を常にオープンにしてきたつもりです。その結果、多くの方々からご理解を得られたからこそ、あれだけの得票になったと思います。
――市民の間では、出直し選に対する批判的な意見もあったと聞きました。
確かに5月に市長選があるのだから、辞めなくてもいいじゃないか、との声はありました。他方、有罪判決が出た市長がこのまま首長職にとどまっていいのかとの意見もありましたし、司法判断を選挙争点に持ち込むのはおかしいとの論調もありました。ただ、私自身が選挙戦で市民に対して有罪、無罪の判断の是非を問うたことは一度もありません。――賛否両論がある中で、それでも、選挙に踏み切った理由は何でしょうか。
私が政治家として大事にしているスタンスは、市民の方々と直接会話をして、一つ一つの問題をクリアしていくことです。格好いい言い方かもしれませんが、要するに政治家と市民双方の信頼関係が重要なのです。とりわけ、我々のような小さな町ほど必要で、信頼関係があってこそ、市政運営もスムーズに進めやすく、多くの成功事例を積み上げることができると考えています。それが今回、私が有罪判決を受けたことで市民との信頼関係に「曇り」が生じてしまいました。
――市民との信頼関係にひびが入ったと。
例えば、よく支持者から、こんな声を多く聞きました。「私は市長を応援している。信じているから、このまま市長を続けてほしい。でも、私の周りの他の人がどう思っているか分からないから(表立って)応援しづらい」と。なるほど、有罪判決が出た市長が果たしてこのまま仕事を続けられるのか、と思うのは当然です。この言葉を聞いた時、信頼関係をあらためて構築するには、やはり出直し選挙が必要だと判断しました。あえてそういう厳しい声が出ている逆風だからこそ、選挙しなければいけないと思ったわけです。 恫喝・恐喝の取り調べはドラマよりも壮絶
――ところで、警察の取り調べで「美濃加茂市を焼け野原にする」と言われたそうですね。実際はどういう状況でしたか。
ファイルを机にたたきつける。耳元で大声で怒鳴りつける。取り調べはある意味、恫喝・恐喝でした。テレビドラマの取り調べよりも壮絶なものでした。そもそも警察は「藤井さんが話をしなくても証拠はすべてそろっている。あなたが何を話そうが、話すまいが、関係ありません」と言っていたにもかかわらず、毎日何時間も恫喝・恐喝まがいの取り調べをずっと続けるわけです。こういう捜査は非常に問題があると思ったし、何かおかしいなと思っていました。
――特に印象に残っている場面はありますか。
警察は「藤井さんの支援者は経営者が多い。警察が捜査で会社に行くっていうのは、それだけで経営者にとっては迷惑だし、場合によっては困ることがあるかもしれません。あなたが話をしないとそういうところにも捜査は行くんですよ」と。さらに私が手掛けていた塾について「捜査官が子供たちのところに行かなければいけない。それをやめさせたいのであれば、あなたが罪を認めるしかない」と言われたことです。長時間の取り調べで、精神的に不安定な状態が続く中、「証拠が全部そろっていて、おまえはどのみち有罪になるのだから早く話せ」と迫るわけです。支援者や子供たちにも影響がある―─と言われた時は、つらかったし、怖かったですね。
■逮捕・起訴は「国家によるイジメ」
――2審の逆転有罪判決に対してはどう思いましたか。
正直、裁判長の方から懲役1年6月、執行猶予3年と言われて一瞬、何も考えられなくなりました。ただ、警察が証拠もないのに私を逮捕し、裁判所もスムーズに勾留を決めた経緯を思い出し、「まだ戦わないといけないんだな」と思いました。
――大阪地検特捜部の証拠改ざん事件などで、捜査当局の「筋書きありきの捜査」が問題になりました。今回の経緯を聞いていると、体質は変わっていないように感じます。
正直、怖いですね。裁判(という手法)があるとはいえ、国家権力には抵抗のしようがありませんから。国家によるイジメみたいなものです。
――他方、大臣室で業者から現金を受け取り、秘書が公的な事業に“介入”しながら何らおとがめなしの国会議員もいる。今の司法は「法の下の平等」に反していると思いませんか。何ら証拠がない事件に執着する一方で、目をつぶっている事件があるとするならば、警察・検察としてぜひ、襟を正していただきたいと思います。私も警察官だった父親から、正しいことは正しい、不正は不正という正義感とは何かを背中で教えられてきましたから。
――逮捕、起訴から判決、出直し選に至るまでのメディア報道については。
私は地元記者とは良好な関係を築いていると思っていますが、時々、何か大きな力が働いたのではないか――と、驚くほど論調が百八十度変わることがありました。出直し選も、私は司法にモノが言いたかったわけではありません。あくまで市民との信頼関係の構築です。それなのに三権分立の原則に抵触する、という記事を大きく載せるわけです。報道機関は、もっと本質を読み解いていただいてほしいと思います。
――裁判を抱えた中で、今後の市政をどうかじ取りしていくつもりですか。今回の事件を通じて、若い世代から「自分の町について真剣に考えるきっかけになった」との声を聞きました。市民が本当に必要としているのは何か、そのために今、何をすべきなのか。これからの国、市の将来はどうあるべきか。30~40年後を見据え、市民の皆さんと考えて行動していける市政をつくることが私に求められていると思っています。(聞き手=本紙・遠山嘉之)