「隣組」ほうふつ国民500件通報/政界地獄耳
改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づき、休業要請に応じないパチンコ店に対して大阪府知事・吉村洋文は店名公表にかじを切った。同様の措置に出る自治体は、今週増えそうだ。知事としては法にのっとり「協力要請」「要請」「指示」の3段階、「要請」と「指示」の場合は施設名が公表されるという手順を踏んでの執行なので手続き上の問題はない。少し古い数字だが、店名公表前の20日までに大阪では、休業要請を無視して「対象の店が営業している」といった通報が、府のコールセンターに500件以上あったという。特措法成立時、政府の緊急事態宣言発令で国民生活への強制力が強まり、自由の制限への危険性が国会でも懸念された。立憲民主党に所属してきた衆院議員・山尾志桜里は首相が宣言を発令する前に国会での事前承認が不可欠と訴えたが、同党に聞き入れられず離党に至った。ただ宣言発令後も国民への強制力がない分、パチンコ店などの問題が発生する。問題はこちらにあった。国民の500件からなる通報だ。「隣組」をご存じだろうか。先の大戦中、政府は国家総動員法、国民精神総動員運動、選挙粛正運動とともに、内務省訓令第17号「部落会町内会等整備要領」(隣組強化法)を制度化。思想統制や相互監視が健全な国民の使命とうたった。つまり、「ちくり」を奨励したのである。まさに、正しいことをするために間違うことの典型だ。
昨今「こんな時に批判するな」「今は一致団結するとき」と著名人がネットで呼びかけることも、一連の思考に近いものがある。政府に協力することが悪いのではない。同調しない、または何らかの事情があることに耳を貸さず、一方的に批判したり差別することも厳に慎むべきだ。協力と強制の意味合いを、いま1度考える時だ。(K)※敬称略
松田公太氏(C)日刊ゲンダイ
松田公太氏「外食産業は家賃支払いモラトリアム法が必須」
新型コロナウイルスで世界経済が未曽有の危機にある中、日本政府の対応は後手後手に回り、曖昧な緊急事態宣言で休業補償もしない。松田公太氏(51)は銀行員を経てコーヒーチェーン「タリーズ」を創業後、政治家も経験。いま再び外食産業に身を置く実業家が見る政府のコロナ経済対策の問題点――。
――自粛要請中ですがどのような日常生活ですか。
外出は控えてほとんど自宅です。ただ私の会社では本部社員の半分以上は出社せざるを得ません。多くの企業ではテレワークが成り立たないんです。
――2月の時点でいま経営されているレストランの従業員にマスクを配布されたそうですね。
危機意識があったので数カ月分の消毒液も確保しました。タリーズを創業したとき最初の数年間は店舗に張り付き、現場を知り尽くしていたので、状況は見通せました。
――そのお店も厳しい状況だそうですね。
3月になって売り上げが激減しました。まず東京、大阪から厳しくなり、自治体が感染者を発表するたびに臨時閉店が続きました。政府の緊急事態宣言は中途半端です。店を開いてもいいが、お客さんは呼ぶなと言う。飲食店に補償をしたくないから、閉めろと言わずに詭弁を弄する。そうすると商業施設から閉めざるを得ないと言われて店子にしわ寄せが来ます。われわれは細々とテークアウトを中心にやっていくしかない。
■テークアウトでは飲食店の危機は解決しない
――テークアウトで事業は持ちこたえられますか。
無理です。マクドナルドや吉野家などは大丈夫でしょうが、うちはイートイン向けの店がほとんど。こういう店はいま、前年比でせいぜい10%の売り上げしかいかない。マイナス90%の飲食店は他にもたくさんありますが、これから売り上げゼロになります。1カ月程度なら、なんとか持ちこたえられますが、この状態が半年続けばどんなに努力をしても無理です。
――飲食業界全体が危機的ですね。
一刻も早く手を打たないと。日本の就業者数は6600万人で小売りを含めた飲食業の就業者数は1100万人。外食産業の規模は26兆円で、料理小売りを含めると33兆円です。4兆円の家電、11兆円のコンビニ、17兆円の自動車販売の3つを合わせてようやく同等です。このままだと半年で4分の1の飲食店が潰れます。雇用がどれだけ失われるか。これまで人件費上昇、原価高騰、消費増税と三重苦が続いてきましたが、トドメを刺されます。2008年のリーマン・ショックで自殺が増えたが、いまはもっと悪い。年間1万人以上自殺者が増えます。東日本大震災でも一部のエリア以外は動いていましたが、いまはすべての人が止まっている。銀行も貸し剥がしに動く可能性もあります。
――飲食業はいずれにせよ必要なのに潰れたら元も子もない。
インバウンド経済で日本の文化は素晴らしいと評価されていますが、要は「食」です。私も世界中のいろいろなものを食べてきましたが、なぜ海外に旅行したいかといえば、食べ物。安くておいしいものを食べたいんです。東京はミシュランの星の数が世界一ですが、それは日本の外食産業では全員がライバルと捉え、切磋琢磨してきたからです。飲食業界は新陳代謝が激しく、競争原理が働いています。ちょっと値上げするだけで売り上げがガクンと落ちる。だからこそ、日本の「食」は強くなった。その自由競争の業界に突然、政府が休業要請をして止めに来た。
――効果的な対策もないですね。
飲食業には政治家の利権が少ないからでしょう。議員になった当時はさまざまな業界の利権を排除したかったのですが、経済産業委員会では政府の経済対策が製造業や電力事業者に偏重する姿を何度も目の当たりにしました。外食産業には日本フードサービス協会という業界団体が一応ありますが、自由だと聞いています。結託して規制を強くする必要もないからです。
――そこで家賃モラトリアム(家賃猶予)を主張されています。
小売業も含めて、とにかく家賃猶予法案を通さないとまずい。特に東京では賃料が月400万円などざらなのです。しかし仲介業者は不動産オーナーと仲良くしたいし、お金にならないから店子の側に立ってオーナーと交渉してくれない。店子も銀行やオーナーとどう直接交渉したらいいのかわからない。交渉に全く応じないオーナーも多い。そこで家賃猶予法を作って、店子が家賃交渉を行えるよう国に打ち出してもらいたい。リーマン・ショック後に施行された中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)は一定の効果があったと思っています。あれでガイドラインが出され、95%の銀行が返済猶予に対応しました。本当だったら倒産すべきゾンビ企業も延命してしまったのは事実ですが、多くの優良企業も生き残り、いまや納税者になってくれています。とにかくいまは与野党一緒になって協力してほしい。国会議員の仕事は法案作り。早く動くべきです。

国会議員の歳費はいまなら5割削減すべき
――現金給付に反対し飲食業で使えるバウチャー券を主張されていました。
最初政府は1万2000円を出すと言い始めました。リーマン・ショック時にも一律1万2000円の現金給付をしたのですが、意味がないと思いました。貯金に回ってしまうからです。今回もネットやスーパーの買い物に使われるだけと思っていましたが、局面が変わりました。休業させられている人も多く本当に苦しんでいる。スピード感が必要です。飲食業界の立場で言えばバウチャーですが、いまは現金給付。1人20万円に増やしてもいい。
――都民として小池都知事の動きの評価は。
よくやっている方だと思いますが、外食産業にとっては非常にマイナスな発言をされている。また、都はかなりの頻度で小池さんが出演する広告を流していますが、いまなら無償で協力してくれる芸能人もたくさんいます。そういう人たちが交互に出演してメッセージを出してくれたほうが若者に響きます。小池さんは政治的パフォーマンスを脇に置いて、もう少し周辺の自治体と事前に連絡を取り合ったらどうでしょうか。そもそも日本の首長からは危機感を感じません。イタリアの首相は路上に出て叫んでいましたよ。
――国会議員は歳費を削る方向ですが。
年間歳費1500万円のうちの2割でしょう。期末手当を含まないから削減率はせいぜい7%。消費税率より低い。ふざけるなって。国会議員は文書交通費なども合わせれば年間4500万円くらいもらっていて、秘書給与も出て、都心の議員宿舎も普通なら家賃60万円はする部屋を7万円で借りている。1人当たりに合計1億円以上の税金を使っています。国会議員時代は歳費3割、期末手当5割削減を主張し、日本で初めて政党交付金の返納を実現しました。平時でも3割なのだから、いまなら5割削減すべきです。
――マスコミ報道に対して何か言いたいことは。
間違った情報を流布すべきではないし、気をつけてしかるべきです。特に軽い情報番組に出演している人たちです。以前、うちのサラダについて誤った情報が流され、売り上げが前日比で30%も落ちたことがあります。また最近は、スーパーやドラッグストアが従業員に特別ボーナスを配ったというニュースが続いています。美談でいいのですが、スーパーは売り上げが前年比30%増ですから3億円なんてたやすいこと。いまは外食産業はじめ生きるか死ぬか、瀬戸際の会社が多く、それでも頑張っている従業員に何も報いてあげられないので心苦しい気持ちでいっぱいという業種や会社が多いことも考えてほしい。美談はコロナが終息してからで十分間に合います。テークアウトのニュースが出れば、それで大丈夫だと思われてしまいますが、全然大丈夫じゃなくて9割以上が苦しんでいます。情報は垂れ流しではなく、「とはいっても、売り上げは前年比10%にしかなっていない」とか一言付け加えてほしいですね。
(聞き手=平井康嗣/日刊ゲンダイ)
【写真】緊急事態宣言から2週間…街はどう変わった?
▽まつだ・こうた 1968年生まれ、東京都出身。5歳から高校卒業までの多くを海外で過ごす。筑波大学卒業後、銀行員を経て97年にタリーズコーヒー日本1号店を創業。翌年にタリーズコーヒージャパン㈱設立、2001年株式上場。320店舗超のチェーン店に育て上げ、07年同社社長を退任。10年参院選初当選。16年に議員任期満了後は、飲食チェーン「Eggs’n Things」の世界展開や自然エネルギー事業など活動中。企業の社外取締役、東京2020オリンピック・パラリンピック組織委員会顧問も務める。