リテラ > 社会 > 社会問題 > 国会審議で「総理は嘘つき」が“侮辱罪”にあたる可能性を政府は否定せず
三原じゅん子Twitterより
ネット上の誹謗中傷対策として侮辱罪を厳罰化し、懲役刑を科すことを可能とする刑法改正案が、ついに4月21日に衆院本会議で審議入りした。
本サイトでも既報でお伝えしたように、侮辱罪の刑罰強化の動きが活発化したのは『テラスハウス TOKYO 2019-2020』(フジテレビ)に出演していた女子プロレスラー・木村花さんの死を受けてのことで、今回の厳罰化について政府は「ネット上の誹謗中傷を抑止するため」と説明。ネット上でも賛同の声があがっている。
だが、この法改正はネット上の誹謗中傷対策になるとは言い難いシロモノだ。たとえば、侮辱罪における侮辱とは「公然と他人に対して軽蔑を表示すること」で、公然性が要件となっている。つまり、ネットやSNS上、あるいは街頭演説などは「公然」と認められても、ダイレクトメッセージやメール、LINEなどでおこなわれるいじめや誹謗中傷は処罰対象にはならないと見られているのだ。また、今回の厳罰化が誹謗中傷の抑止力になるという科学的根拠はない。日弁連はプロバイダ責任制限法の改正による発信者情報開示要件の緩和や損害賠償額の適正化など「民事上の救済手段の一層の充実を図るべき」と訴えているが、政府はそういった救済策にこそ注力すべきだろう。
しかも、国会での審議によって明らかになってきたのは、政府・与党政治家への正当な批判を「侮辱」として解釈し、気に食わない言論や表現への弾圧に利用しようという政府の魂胆だ。
本サイトでは既報で、侮辱罪の厳罰化を進めてきた自民党の真の目的がネット上の悪質な侮辱行為にかこつけた「権力批判の封じ込め」にあると指摘。その一例として、木村花さんの死を受けて安倍政権下の2020年6月に侮辱罪の厳罰化などを求める提言案を政府に提出した自民党内プロジェクトチームの座長である三原じゅん子・参院議員が「政治家であれ著名人であれ、批判でなく口汚い言葉での人格否定や人権侵害は許されるものでは無い」とツイートしたことを紹介。最初から木村さんの死を利用し、表現の自由を潰し、政治家への言論を規制する気が満々だったのだと伝えた。
そして実際、27日におこなわれた衆院法務委員会では、政府が驚きの答弁をおこなったのだ。
日本国憲法の施行から75年。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で戦後の国際秩序が大きく揺らぐ中、各党党首が討論▼憲法で「平和主義」を掲げる日本はどう向き合うべきか?今後の安全保障政策は?▼ロシアが「核兵器の使用」に言及、“核の脅威”に世界が直面するいま、「非核三原則」を掲げる日本は?“核なき世界”の実現に向け、唯一の被爆国・日本が国際社会で果たす役割は?憲法をめぐる今後の議論に各党はどう臨む?
「国際法が存在するのは国際法の教科書の中だけだ」
英国出身の人類学者アシュリー・モンタギューが、物理学者アインシュタインに言い放ちました。一九四六年六月のことです。
アインシュタインは米大統領に原爆開発を促す書簡を送ったことを悔いていました。ナチス・ドイツに先を越されることを恐れての行動でしたが、広島、長崎に投下される結果に。モンタギューとの対談では、原子力の利用を規制するには「国際法が第一の方策だろう」と語りました。
それに対する反論が冒頭の言葉で、国家間の条約は「ほぼ例外なく破られている」と続きます。アインシュタインは、しばし沈黙した後に「まったく正しい」と悲しげに同意したそうです。モンタギューが書き残しています。
七十六年後の今、私たちも国際法の限界に直面しています。ロシアのウクライナ侵攻から二カ月が過ぎ、罪のない市民の犠牲が増え続けています。それなのに国際社会は、ロシア軍を撤退させ、プーチン大統領に法の裁きを下す有効な手段を持ち合わせていません。
◆憲章は戦争を「違法化」
人類の歴史は戦争の歴史でもあります。多大な犠牲の末にたどり着いた一致点は戦争を「違法化」することでした。武力でなく、法による支配を目指すということです。それを明文化した国連憲章は武力の行使を禁じています。
憲章違反に対して、全加盟国を法的に拘束する制裁措置を決められる唯一の機関が安全保障理事会です。ところがウクライナ侵攻に関しては何も決められません。常任理事国ロシアの拒否権も憲章で認められているからです。
安保理決議がなくても米欧が集団的自衛権を行使して参戦することは憲章上は許容されます。ただそれは第三次世界大戦ひいては核戦争への道にほかなりません。
ウクライナの提訴を受けた国際司法裁判所(ICJ)は三月、ロシアに軍事作戦の即時停止を命じましたが、ロシアはこれに従っていません。ウクライナは安保理に訴えることもできますが、結局はロシアの拒否権に阻まれます。
国際刑事裁判所(ICC)の検察局はロシアの戦争犯罪を捜査しています。ジェノサイド(大量虐殺)を立証し、プーチン氏を訴追できるかどうかが焦点です。ただし、欠席裁判はできません。ICCが逮捕状を出しても、プーチン氏がロシア国内にとどまる限り、身柄拘束は不可能です。
国際法の限界を並べれば、世界は国家同士が軍事力で領土を奪い合った十九世紀に戻った、との見方が説得力を帯びてきます。
しかし、私たちはそんな世界を望んではいませんし、国際法は決して無力ではありません。
◆19世紀に戻らぬために
国連総会のロシア非難決議は、法的拘束力こそありませんが、各国の自発的な経済制裁に正当性を与えています。安保理での拒否権行使に説明を求める総会決議もロシアへの圧力になります。ロシアの孤立が深まれば、いつまでも戦費を賄うことはできません。
戦争犯罪の追及には、ロシア軍の暴走をけん制する効果が期待できます。逮捕状が出ればプーチン氏は外国を訪問できず、外交の表舞台に立てなくなります。そんな指導者は、国内での求心力維持も難しくなっていくでしょう。
こうした取り組みが直ちに実を結ばないからと言って諦めてしまっては、世界は本当に十九世紀に逆戻りです。しかも、一万発余りの核兵器がある十九世紀に。
ロシアは、同盟国も核兵器も持たない隣国ウクライナを侵略し、核による威嚇で他国の軍事介入を拒んでいます。核兵器は戦争の抑止力ではなく、威嚇の手段になってしまいました。こうした暴走を止めるのもやはり国際法です。
昨年一月に発効した核兵器禁止条約は、核保有国が参加せず、現時点では、実効性に乏しいことは否めません。
だからこそ、唯一の戦争被爆国である日本が核保有国と非核兵器国の間をつながなければなりません。国連憲章に沿い戦争放棄を憲法で誓った平和国家が、国際社会に「法の支配」を確立する役割を担うことは理想主義でなく、国益にかなう現実主義なのです。
安保理改革や核廃絶は極めて困難です。しかし、その実現を目指すからこそ、私たちは言いたい。「アインシュタインさん、国際法を諦めてはいけません」と。