「職場には残業代や休日出勤手当もなく『定額働かせ放題』という働き方。映画が好きでこの業界に入ったのに、映画を見に行く時間も体力もない」
四月二十九日に開かれた連合主催のメーデー中央大会。映画製作現場で働くフリーランスの女性は参加者にこう訴えました。
苦境に触れつつも「この場に参加させていただいていることが不思議」と居心地が悪そうでした。労働組合は雇用されて働く人が中心の組織で、フリーランスとは接点がなかったからです。
メーデーの発祥地は米国です。一八八六年、長時間労働と低賃金に苦しむ労働者たちは八時間労働を求め、五月一日を期してストライキを呼び掛けました。
参加者は約三十五万人に上ったといわれ、警官隊との衝突で逮捕者も出たそうです。資本家に搾取される怒りと人間らしい働き方への強い渇望がうかがえます。
この日は「国際的な団結の日」と定められ、労働者の団結を確認する記念日になりました。メーデー第一回大会は海外では一八九〇年、日本では一九二〇年に東京・上野公園で開催されています。
◆地盤沈下する労働組合
時代を経て職業は増え、働き方は多様化しました。働く人が抱える問題は多岐にわたります。
今年五月一日の全労連系のメーデー中央大会、東京・代々木で=は、八時間労働の確立と賃上げ実現、教職員の待遇改善、裁量労働制の適用拡大反対、消費税減税、社会保障制度の拡充など十八のスローガンを掲げました。
複雑化する社会の中で絡み合う課題を丁寧にほぐし、解決していくことは容易ではありません。
例えば、食品配達など単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」は個人が担っていますが、雇用されて働く人の権利を守る前提で整備された現行法の枠外です。どんな働き方でも、身を守る「盾」は必要なのに。
日本の労組は賃上げや雇用安定など役割を果たしてきましたが、好待遇の大企業の正社員を中心に組織が広がったこともあり、「正社員クラブ」「労働貴族」などと揶揄(やゆ)されてもきました。低賃金の非正規雇用が増えた今では「組合費を払える人しか加入できない」との批判も耳にします。
非正規や個人事業主を活用するなど、人件費などのコストを抑える雇用形態を次々と編み出す経営側の知恵に、労組側はなすすべがないようにも見えます。
労組の推定組織率は今16・9%。従業員千人以上の企業では約四割ですが、百人未満の中小企業では0・8%です。時代の変化から遅れ、硬直化する労組の地盤沈下は深刻です。
しかし希望の芽はあります。
フリーランス同士の連携を目的とした労組が近く発足します。企業別労組ではこぼれ落ちてしまう人の横のつながりができます。
◆輪のように運動つなぐ
労組に頼らない動きも出ています。LGBTQや性別、障害、SDGsなど共通のテーマや特性、経験などを持つ職場の人たちが社会課題と向き合う「ERG(従業員リソースグループ)」の活動が注目されています。課題ごとに関心のある人が集い、理解を深めて職場や社会を変える試みです。
経済的理由で生理用品を購入できない「生理の貧困」や、職場で女性へのハイヒール着用強制に異を唱えた「#KuToo(クートゥー)」の運動もその成果です。コロナ禍では貧困問題に取り組む若者たちも現れました。
五月にはこうした社会運動を輪のようにつなげ、労働運動を担う人材を育てようと、弁護士や研究者、ジャーナリストらの呼び掛けで「次世代オルガナイザープロジェクト」が始動しました。
呼びかけ人の竹信三恵子・和光大名誉教授は、利益優先で情報公開に消極的な米フェイスブックを批判した元従業員のある言葉に共鳴したそうです。IT企業に社会的責任を担わせるのに必要な「公共の筋肉」という言葉です。言葉は、意識を呼び覚まし、社会を変える行動力にもなります。
竹信さんはこう言います。
「社会に潜む問題の存在を知ると、『おかしい』と声を上げ、解決に向けて体が動く」「課題に気付き、体を動かす技術を身に付けることで鍛えられる」
声を上げる若者たちをつなげ、支援し、芽吹き始めた新しい動きを社会を変える力へと育みたい。「公共の筋肉」の「筋力」をどう強くしていくのか、試行錯誤は始まったばかりです。