東南アジア諸国連合(ASEAN)は、二月のクーデターで権力を奪取したミャンマー国軍のミン・アウン・フライン総司令官を来週の首脳会議に招かないことを、一部の慎重論を押し切って決めた。「内政不干渉」と「全会一致」が原則のASEANとしては異例の対応だ。国軍の暴走を止める足掛かりとなるか、注視したい。
ASEANは四月、総司令官も出た首脳会議で、暴力の即時停止やASEAN特使の派遣など五項目の議長声明をまとめたが全く実現していない。そのことへの失望が今回の決定につながった形だ。
国軍は、銃撃などで市民への弾圧を続け、犠牲者は千二百人に迫るという。民主派政権を率いていたアウン・サン・スー・チー氏は拘束されたままになっている。
徒手空拳の抵抗を続けていた民主派勢力は九月、方針を転換。少数民族とともに武装蜂起した。戦闘の激化とコロナ禍で国民生活は悪化の一途をたどり、二十万人以上が家を失ったという。
世界銀行によると、二〇二〇年度の経済成長率はコロナ禍でもプラス1・7%だったが、本年度はマイナス18%と予測されている。
膠着(こうちゃく)打破を目指し、国軍の孤立も狙った今回の決定だが、ASEANは一枚岩ではなかった。政変を非難しない中国寄りのカンボジアや、ミャンマー国軍に近いタイなどは「内政不干渉の原則に反する」と慎重だった。だが、結局、国軍総司令官の代わりに「政治的に中立な人物をミャンマー代表として受け入れる」との折衷案で調整が図られたもようだ。
「内政不干渉」と「全会一致」は、発展途上十カ国の寄り合い所帯が「結束」を最優先させるための知恵だった。それを曲げてまで不招致と決したことにASEANの苦悩と覚悟がにじむ。最悪の場合にはミャンマーの「離脱」にさえつながりかねないリスクもあった。
ミャンマー問題に関し、国軍との友好関係を重視する中国とロシアが国連の動きを妨げている中、ASEANの存在は大きい。
首脳会議には、「国軍とのパイプ」を強調しながら何らの影響力も発揮できていない日本も参加する。この問題での影の薄さを払拭(ふっしょく)する機会にしてほしい。
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