コロナ危機 憲法から見る「損失補償」
25条に基づく国の責務
新型コロナウイルス感染拡大の危機のもと、個人と社会を保護する国の役割がかつてないほど鋭く問われています。いま多くの国民が「これほど政治を身近に感じたことはない」と口にします。
テレビのワイドショーでも、治療薬やワクチンの開発、PCR検査体制の強化や感染拡大防止策、医療体制の崩壊をどう食い止めるかが侃々諤々(かんかんがくがく)の議論となっています。
その中で、世論の関心が最も強いのが、人の移動制限、活動制限に伴う休業から生じたばく大な損失の補償問題です。
治療薬やワクチンが未確立なもと、人の移動そのものを制限し、感染拡大を防ぐしかない状況です。感染爆発が起きた欧米諸国では「ロックダウン」といわれる強制的都市封鎖も行われています。
移動制限は、社会経済活動の広範な制限をもたらし、休業にとどまらず大規模な倒産、失業が発生しつつあります。世界的にも大恐慌(1929年)を超える史上最大の経済危機=「大封鎖」が警告されています。
ところが政府は、国民への休業補償に一貫して後ろ向きで、4月30日に成立した補正予算でも一度きりの給付金(10万円)の支給などにとどまっています。安倍政権は4日、緊急事態宣言の延長を決めましたが、安倍晋三首相の会見では「追加措置」に言及したものの「状況を見極めて」というあいまいな表現にとどまっています。
命と健康を守る
国の責任をどのように考えるべきでしょうか。
憲法25条は、第1項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とし、第2項で「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めています。
第2項にある「公衆衛生」には伝染病対策が含まれます。新型コロナウイルスから国民を守ることは、国に課された大きな責務です。
感染拡大防止策のかなめが国民の移動制限です。移動制限のため皆が安心して休業するには、休業から生じる損失補償が必要です。
この点で補償は、感染拡大防止策(=移動制限)の実効性確保に必要不可欠であり、国民の命と健康を守るために必要な医療、検査体制強化の費用と性質は同じといえます。
また、新型コロナウイルスの感染拡大という社会全体を覆う禍(わざわい)で、国民の命と健康が直接脅かされ、経済と国民の生活・生存が危機にさらされています。このもとで、移動制限や自粛要請によらなくとも、感染の影響で経済活動がストップせざるを得ない状況で、現金給付を継続しなければ国民は生きていけないし、経済、文化の基盤は崩壊してしまいます。それを国が「保障」することは憲法25条の本来の要請ではないでしょうか。
また、財産権保障を定める憲法29条が、個別に財産権を収用する場合に「補償」(3項)を求めていることから、営業活動の自粛要請に「補償」の考え方を及ぼし、損失補てんを求めることもあり得ます。
こうした補償をしっかりやってこそ、国民の協力もより強いものになっていきます。
財界従属の体質
休業補償や医療支援に後ろ向きの政府の姿勢の根本には、憲法25条を無視し、医療、介護、年金の社会保障制度を削減、破壊してきた「構造改革」路線があります。巨大企業の利益最優先で、その税や社会保障負担をどんどん減らし、社会保障予算を削減してきました。この危機に際してなお、染みついた社会保障削減、財界従属の体質から抜けられないのです。
同時に、平時においてさえ、ぎりぎりでゆとりのない状況に追い込まれた医療体制では、危機に脆弱(ぜいじゃく)で、たちどころに医療崩壊しかねない危険も、深刻な現実として浮かび上がっています。
憲法25条を国づくりの根本に据え直す―。このことが大きく問われているのではないでしょうか。(中祖寅一)
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