天と地の間

クライミングに関する記録です。

大崩偵察

2010年08月18日 | 開拓
お盆休みを利用して小川山でもと思っていたがメンバーが揃わず断念。
ならば、秋のシーズンを見越して岩探しでもしようと一人、大崩に入ることにした。

14日(土)
11時まえ、登山口着。
今日、偵察に入る対象の壁は登山口上部南面に立ちはだかる岩壁。全体像を把握するために林道を上がり、双眼鏡で覗くと、所々にルーフ
があり、しかも垂直に近い。


通称「馬の背」の全容。でかい。
ルートはまだない。

実はこの壁、登山口から近く、その大きさにもかかわらず、手付かずである。
私が岩を始めてまもなくのころ、クラブの先輩にその壁にどんなルートがあるのか尋ねたことがある。そのときに先輩から、単独でルート
開拓をしていた人が亡くなったと聞いた。30数年前のことである。そういう理由で足が遠のいたということもあるだろうが、他にもアプロ
ーチ、強い傾斜などがあげられるだろう。そして、近年ではショートルートとボルダーの波におされてマルチを開拓する人がいないという
のが実態だろう。

で、今はどうかというとボルダー全盛というのは云うまでもない。しかし、なぜだか、たまにマルチをしたいという人も増えてきているよ
うに思う。おそらく、飽きもあるだろうし、気分転換もあるだろう。しかし、その背景には人工壁があるのではないだろうか。
 人工壁がない時代は、うまくなるためには難しいムーブが凝縮されたルートやボルダーをするのが精一杯で、ロングには目がいかなかっ
たように思う。今はというと、人口壁をやっていれば基礎的な筋力は落ちることはない。気持ちに余裕が生まれるだろう。これは大きい。
今後、やることが欧米化し、いろんなことにチャレンジする人が出てくるだろう。発想は別にしても。
私はどうかというと、別にマルチ志向というわけではなく、傾斜の強い大きな壁を見ると血が騒ぎ、きれいなラインを見ると登りたくなる
のである。そしてなによりも、行ってみなければ分からない、行ったときに、これまで培ってきた業をすべて駆使する、そんな登りが好き
なのである。

 
 肝心の壁の取り付きは昔のクラブの先輩におおよそのところを聞いたのみで心もとないが、地図を片手に11時過ぎ、登山口を入る。15分
ほど登った場所、非難小屋のちょっと前の小さな沢から入り、直ぐに尾根へと上がる。
5分ほど上がると黄色テープのマーキングに出くわした。ピークまで地元の山岳会が付けたマークがあると聞いていたがそれであろう。そ
のマークをたどって行くとうまい具合に壁の端に出ることができた。ここまでおおよそ40分。意外に近い。
位置は左端、高さは中間部あたりだろうか。ここから、下部がチムニー状で上部がルーフクラックになっている場所が見える。おおいに食
指が湧く。開拓するとすれば、先ずはここからだろう。



黄色い部分の上部、やや左にルーフがある
ここが目当てのルーフクラック。

 壁の全体像を見極めるために下降し、樹林帯をトラバースしたが樹木に覆われ壁が良く見渡せない。ちょっと上がれば見渡せそうな場所
があったが空身のためそれもままならず、とりあえず、右端まで行くことにした。
すると、緩やかなスラブから9mmのフィックスロープが垂れている場所にでた。おそらく、30年前のものだろう。被覆が裂け、中の芯
が見えるところがあるが、下のほうは未だに赤い色素が残っている。試しに体重を掛けてみると切れない。これには驚いた。このロープの
先を追って見たが、どこまで延びているのか定かではない。私には天にまで延びているようにも思えた。


真下から。このあたりに30年以上前のロープが下がっていた。

 ここから先はほぼ可能性はないため、下りること決めた。下降はセオリー通り、元の道に戻るべきだろうがかなり下降気味にトラバース
してきたためにそれも億劫であり、まだ日が高いと理由から、そのまま下降することにした。
これがいけなかった。 ある程度は予想していたが、壁が行く手をふさぎ、それをかわすと滝に出くわし、またかわすと壁が現れるという
厄介なことになってきた。枝に縋りながら下り、登山口に着いたときには登りの倍ほどの時間を要してしまった。

車に戻るとすぐに近くの温泉「美人の湯」に行き、汗を流した後、登山口近くにテントを立てビールを飲む。最高のひと時だ。ここは標高
600を越える。下界の酷暑が嘘のように涼しい。簡単な食事を済ませた後、ビール片手に積読になったままになっていた文庫本を開く。
たまの一人キャンプも良いものだ。

 15日(日)
 今日はかねてより気になっている小積、中央稜ルート左のクラックをのぞく予定。


小積谷への分岐点。
正面を進むとすぐに小積の沢の入る。


小積谷の沢。ここを少々つめて、左の沢へと入る。


小積遠景。右手に露出している岩が湧塚。

 8時過ぎ、出発。予定通り、ほぼ1時間半で中央稜ルートの基部に着く。すぐに「蜘蛛の糸」をのぞくとかなりのコケが付いている。こ
のところの気象の変化があるかもしれないが、登りに来る人もあまりいないのであろう。


「蜘蛛の糸」1ピッチ目下部のチムニー。
時期的に登る人がいないのか、コケが多い。

 さて、目的のラインであるが中央稜ルートのすぐ左に位置する。50mは優に超えてクラックが続いている。下部はオフィズス、中間部
はワイド、そして最後はうすく被ったクラックとなっている。 蜘蛛の糸を登るたびにこのラインを目にし、いつかはと思っていたが、こ
こまで来てくれるメンバーに恵まれず、また、ショートルートに力を入れてきたために、機会がないまま今日に至ってきた。


目標のクラック。50mを超えて途切れず続いている。


上部がやや被っている。
右のクラックに行くルートも取れる。

 この日、改めて来たのは、ラインを見て開拓の意欲が今でも湧くか見極めるためである。
 結果は、下部の1ピッチでもやりたくなった。その上のピッチをやるかどうかは後で決めればよい。
 時計を見ると11時過ぎ。まだ時間がある。視点を変えて他の岩を見ようと袖ダキに行く事にした。

 袖ダキ。大崩山頂に至る登山道沿いにあり、足元は小積谷へとスパッと切れ落ちた岩でなっている。小積の北壁を真正面に見ることがで
きるロケーションの良いところである。


小積北壁。袖ダキから撮影。真正面に望める。

 双眼鏡を取り出し、袖ダキの東面をのぞくと、ショートルートができそうなすっきりしたクラックが何本か見える。下界にあればすぐに
でも開拓したいところであるが、ちょっと遠い。湧塚方面も岩塔があったり登攀意欲をかきたてられる壁が見える。ほとんどがその遠さゆ
えに手付かずである。


湧塚。写真では分かりにくいが、手前左側に見える岩は
巨大な岩塔。湧塚はワイドクラックの宝庫である。


袖ダキより撮影。右は広タキ。左の壁は今回行った馬の背。

登山口に下りるとまだ3時。時間があればボルダーでもしようとマットを持ってきたが、疲れているうえ、一人では気分が乗らない。引き
上げることにした。

お盆というのに、どこも登らずに過ぎた。もったいないことであるが、今回、大崩を巡って開拓の可能性を再認識するとともに、開拓意欲
も湧いてきた。来た価値はあった。

コメント
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