中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

略奪者の言い分

2009-02-27 10:40:04 | 中国のこと
 1860年の第2次アヘン戦争のときに、北京に乱入した英仏連合軍が、清朝の離宮だった円明園から略奪した「十二支動物像」のうちの2体がパリでの競売にかけられたことが論議を呼んでいる。

 競売にかけられたのは、西欧建築群のある円明園にあった噴水時計の一部だった銅製のネズミとウサギの頭部像で、高名なデザイナーの故イブ・サンローラン氏が所有していたものを遺産相続者が出品した。中国はかねてから清朝末のアヘン戦争などの歴史は欧米帝国主義諸国の中国蹂躙の国辱としていたが、この円明園の十二支像はその象徴としていて、この競売には反発して競売中止を求める訴訟をパリの裁判所に起こしたが却下され、競売は予定通り行われた。落札価格は予想を上回り、それぞれ1570万ユーロ(約19億5000万円)、計約39億円で競り落とされた。
          

 中国側は、中国にこの像の所有権があるのは疑いの余地がなく、海外に流出した文化財は中国に返還されるのが当然だと主張したが、オークション会社は「像は合法的に取引されたもの」と言い、所有者も「像を中国へ返還するつもりはない。中国政府はこのような問題にかかわるより、自国の人権問題に関心を寄せた方がよい」とか「亡命しているダライ・ラマをチベットに戻すならば返還してもよい」とコメントしたそうだ。

 19世紀末の英仏などの列強の帝国主義的横暴は目に余るもので、中国での自国の権益を拡大維持するために清朝に圧力を加え、果ては軍隊を送って威圧した。アジア諸国を植民地化してきたからアジアとその民族に対する蔑視もあったのだろうが、このイギリスやフランスなどの帝国主義国家の軍隊の品性はきわめて低く野蛮だったようで、貴重な美術品などの略奪を伴った破壊を行った。そのため中国の貴重な文化財が世界各地に流出した。円明園も徹底的に破壊、焼き尽くされ、それは屈辱の歴史を思い起こさせるために、今も廃墟のままで残されている。




 2体の像は「合法的に」取引されたものと言っても、本をただせば非合法な略奪品だ。最初はさほど高価なものとはみなされなかったかも知れないが、金持ちのマニアの間でやり取りされている間に高価なものとされるようになったのだろう。合法的とか何とか言っても、しょせんは故買の類としか思えない。

 まして現在の所有者の、「返還するつもりはない、中国はこのような問題にかかわるより、自国の人権問題に関心を寄せた方がよい」などという言い草は非常に驕慢なものだ。確かに中国には人権問題が存在していることは事実だし、その改善を求めていくことは必要だろう。しかし己の国の過去の、それもたかだか150年ほどの前の、近い過去の悪行には口を拭い、単なる金持ちが人権云々を言うのは笑止だし、盗人猛々しいと言いたくなる。個人が小荷物にして持ち帰れるようなものではないから、当時の英仏軍の、すなわちイギリスやフランスという国家の犯罪の証の品なのだ。彼らの中には今も抜きがたいアジア蔑視があるのだろう。

 西安の李真は中国の近代史は屈辱の歴史だから好きではないと言った。好き嫌いは別にして、清朝末の自国の歴史には屈辱を覚える中国人は少なくないと思う。そのような中国人の鬱積した感情は忖度しなければならないだろう。

 行ったことはないが、大英博物館など欧米の博物館には、貴重な世界の文化財が展示されているようだが、その中には帝国主義の時代に各地から持ち帰ったものもあるのだろうし、中には略奪品に等しいものもあるかも知れない。それでも現地にあれば破壊されたり盗まれたりする危険が多かった時代に、持ち帰って博物館に収納してこれまで安全に保管し、多くの人たちの目に触れることになったことは評価できる。だが、今回の清朝時代の像については、単なる個人の収蔵品で、しかも投機の対象になっているから、何か納得できないものがある。

 略奪された十二支像のうち、過去にも競売に出され在外の中国人富豪に落札され中国に寄贈されたものも5体あるようだが、いまだに5体は所在が分からないようだ。消滅してしまったのか、今も誰かが密かに個人所蔵し、1人で悦に入っているのかも知れない。