羊飼いの想い(ジェイムズ・リーバンクス 早川書房)
イギリス湖水地方において酪農業を営む著者のエッセイ第2弾。
前作は、羊を中心とした酪農家の蘊蓄がとても興味深かった。同じような内容を期待したのだが、本作は、大型化・効率化を進めようとする農業政策や化学肥料の多用に対する批判が中心で、意地悪く言うと著者のぼやきのように聞こえなくもなかった。
同じ作物を作り続けると地中の栄養分が不足する。別の作物を栽培して輪作する、という方法はあるものの、効率が悪かった。これを画期的に解決したのが窒素化合物などの化学肥料で、世界人口の爆発的増加の要因となったという。しかし、化学肥料も使い続けると地味が痩せてしまう。
本書で著者も述べているが、除草剤の効果はものすごくて、雑草を除くという重労働から農家を解放してくれることは間違いない。しかし、一方でこうした化学物質を多用すること地中の微生物が死滅したりして、農地の多様性、豊かさが失われてしまう。
農業に限らず、新技術とその副作用のせめぎ合いは、どんな世界にもある。副作用が行きすぎて元に戻れなくなる限界点はどこなのかは、新しい技術だけに誰にもわからない。革新的イノベーションから生まれる効率性・経済性の追求をどこで止めたらいいのか、永遠の課題だ。