水平線(滝口悠生 新潮社)
両親が離婚して母の旧姓になった三森来未はパン屋の従業員。祖父の故郷の硫黄島の墓参ツアー(自衛隊機が運んでくれる)に参加する。彼女は祖父の末弟の忍(戦時下の硫黄島で死亡)と電話で昔の硫黄島の様子を話す。来未の兄:横多平は観光で父島にいく。平の元には母方の祖母の八木皆子(疎開して伊豆で旅館経営していたが故人)からメールが届く。時空を超えた血縁者との交流を通して来未と平は硫黄島から疎開した人たち、残留した人たちの暮らしと思いをたどる・・・という話。
「死んでいない者」もそうだったが、数多くの近親者が登場するので系図を書きながら読まないとストーリーがたどれなくなる。意図的にやっているのか、真面目に?読んでいないと人物の相関がわからなくなってくるが、系図を作っていくのは結構楽しい。
長い話を読んでいるうち、死者から電話やメールが来ることが、なんとなく不自然でなくなってくる。そんなこともあるかもね、と。人は死んだ後、誰からも思い起こされなくなって記憶から消えるとき第二の死を迎えるという。死んでからもたまには現世の人に電話やメールができたらいいな。第二の死を相当に延ばすことができるから。
硫黄島での戦闘はさまざまな作品で取り上げられていて、その記憶が簡単になくなることはなさそう。しかし本書で取り上げられたような、当時の民生や日常を目にすることはなかった。
サトウキビを原料とする製糖産業(忍の親戚?の百々重ルとサトウキビ絞りに使役される牛のフジの話がよかった)、徴兵逃れの手段、占いやまじないと一体化した生活スタイルなどが興味深かった。