蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

水 本の小説

2023年07月14日 | 本の感想

水 本の小説(北村薫 新潮社)

小説や落語などの古典芸能などの蘊蓄を語るエッセイ。副題が「本の小説」となっているので、エッセイではなく創作(実は事実ではない・・・どこでしょうか?みたいな??)部分もあるということなのだろうか?

話題がハイブラウすぎてついて行けない感じのところもあるが、概ね、話題となっている小説や落語の内容を知らなくても楽しめように、丁寧に解説してある。

芥川龍之介が子供の頃に好きなものとして作文に書いたのは「蜘蛛」だったのか「雲」だったのか(同じエピソードを語っても、ある本では「蜘蛛」になっていて別のところでは「雲」という表記になっていたりするらしい)?という話題が面白い。しかもクリアカットな解決もあってよかった(著者の説だが納得性が高かった)。

漫談の大辻司郎さんは、(私は)全く知らないのだが、「胸に一物、手に荷物」とか「ならぬカンニング、するがカンニング」なんてギャグ?は今読んでも面白し、当時は大人気だったそうだ(なので例えば筒井康隆の作品にも引用?されているそうだ)。大辻さんは昭和27年の飛行機事故で亡くなられたそうだが、今となっては簡単にその音源などには触れられない。あと数十年もすると、ツービートとか爆笑問題の漫才を見聞きすることも難しくなるのだろうか?それとも電子データがあるから永久不滅なのだろうか??

昭和30年代のサラリーマンにとって必須の3つの「ゴ」があった。ゴルフと囲碁と小唄(三味線の伴奏で歌う短い戯れ歌)。え、オレギリギリその時代に生きていたけど実際に小唄を歌う場面なんて(時代劇以外では)一回もなかったけどなあ・・・

アイスマン(電気冷蔵庫がなかった時代の氷の配達人)には間男が多かった・・・という俗説?を知らなかった丸谷才一の誤訳の話がいい。著者が考えたアイスマンのダジャレも面白いのだが、何度も登場するのはちょっとクド買ったかな。

日本文芸カルタ(名作のキメフレーズ?でカルタをつくる)は、労作だし、素人でもある程度はわかるようなものも混ざっているのがよかった。

「そして私は質屋に行こうと思い立ちました」

「涙は追いつけない」

「鰯は待て」

などがよかった。

 

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空をこえて七星のかなた

2023年07月14日 | 本の感想

空をこえて七星のかなた(加納朋子 集英社)

小学校卒業間近の七星(ななせ)は父と石垣島を訪れる。そこで疎遠になっていた父方の祖母と会うが・・・という「南の十字に会いに行く」から始まって、天文観測とか星と関係がある短編が続く。それぞれの短編にストーリー上の関連性はあまりなくて、普通の短編集なのかな・・・と思っていると、6番目の短編「星の子」に七星が再登場して、私のようにぼんやり読んでいた者は著者のたくらみに見事にハマっていたことに気がつかされる。バラバラに見えた各短編には重要な共通点があり、本書はある人物の一代記であったことがわかる。

本書の仕掛けの重要なキーになっているのは、個人のある属性で、後から振り返ると、ちょっと不自然に思わなければいけないような書き方(初めて読んだ時は(私は)ほとんど気が付かなかったが)になっていて、それが伏線になっている。

ストーリーとしてはミステリではないのだが(多少、日常の謎的なものはある)、うまい叙述ミステリを読んだ後のような「やられたー」感があった。

ミステリ好きにも、そうでない人、あるいはほとんど本を読まないような人にもお勧めしたくなる良作。

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