いちにち、古典(田中貴子 岩波新書)
朝、昼、夕、夜、真夜中のそれぞれの時間帯を描いた古典を引用して、その時代の時間感覚や習俗を紹介する。
・あかつきとは、午前3時ころ。平安時代、女性宅を訪れていた貴族が帰るころ。貴族が役所に出仕するのはかなり早朝で、あまり時間の余裕はなかったらしい。
・貴族は起き抜けに粥をすするくらいで、昼頃家に帰って食べるのが朝食だった。当時は朝食(実際には昼食だが)と夕食の2食。
・「朝には紅顔ありて夕には白骨となれる身なり」と言う有名な言い回しのオリジナルは和漢朗詠集の「朝に紅顔あつて世路に誇れども 暮には白骨となって郊原に朽ちぬ」。作者は藤原義孝とされるが真作と確認するのは難しい。
・昼間に葬式を行うようになったのは戦国期の頃からで、それまでは夜に行われた。
・月を見詰めると不吉なことが起きる、と言うのは竹取物語以来らしいが、これは女性に限ったことのよう。例えば「天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出し月かも」のように男性ではそんなことは言われていない。
・芭蕉の弟子の野沢凡兆の句「下京や雪つむ上の夜の雨」の初五ははじめなくて芭蕉らが協議?して「下京や」と決めた、と言う。この句をめぐる解説がとても面白かった。
・夜景というものが現れたのは、人口集中が進んで、灯火の燃料として比較的安価な菜種油が普及した江戸中期から。蕪村の「夜色楼台図」や葛飾応為の「吉原格子先図」が有名。