からっ風と、繭の郷の子守唄(117)
「油断は禁物だぞと、入念に作戦を練る岡本と貞園」
「ありがとうございました。高価なプレゼント。
もう嬉しくてとことん舞い上がっています。なんなりと言いつけてください。
全力で、頑張りますから」
貞園がテーブルへ着くなり、岡本に頭を下げています。
岡本のほうはさりげなく店内の様子を見回してから、あらためて視線を貞園へ戻します。
「気にするな。堅苦しい挨拶は抜きだ。
静かで落ち着いたいいカフェだね。商店街の真ん中にこんな場所があったとは驚きだ。
まるで昭和へタイムスリップしたような、隠れ家的な雰囲気が漂っている」
「へぇぇ・・・・日本の昭和って、こんな暗い感じの雰囲気なのか。ふう~ん」
「そうか。昭和の時代は知らないか。もしかして、君は平成の生まれかい?」
「美術大学へ留学でやって来たのは、平成14年の春です。
あ・・・・またおじさまの、上手すぎる誘導尋問にひっかかってしまいました!。
まずいなぁ。私の本当の年齢がバレてしまいます。」
「ということは、俺の娘とひとつ違いだな。そうか、まだ若いんだな・・・・。
そろそろ肝心の本題に入ろうか。君が『君来夜』へアルバイトへ行くのはいつからだ?」
「15日からの一週間です。
君来夜(いえらいしゃん)の20周年記念で、実はそのままお店が閉店になります。
ママもそろそろお歳だし、不景気が続くご時勢だもの、ちょうどの潮時かもしれません」
「ということはその一週間のあいだに、多くの招待客に紛れて命を狙われている
幹部のヤクザと、それを付け狙っている実行犯が現れるということだな。
美和子の旦那だったという、あの、例の男が」
「押し入れに隠してあった拳銃が消えたということからも、ほぼ間違いは無いと思います。
でも、どうやったらうまくいくのかしら?
けが人や死人を出さずに、実行犯だけ確保をして海外逃亡をさせるためには」
「すべては、君次第になる」
「え・・・・。わたし次第?」
「君来夜の関係者で、事前に襲撃の情報をつかんでいるのは、君と俺たちだけだ。
君の準備のし方次第で、事がうまくいくかもしれないし、また逆にしくじる可能性もある。
襲撃に関してはいろいろなパターンが考えられるから、まずひとつずつ検証をする必要がある。
困難な仕事だが聡明な君なら、きっとうまくやれるだろう」
「まるでくのいちか、女スパイみたいな世界です。今から、ワクワクしちゃいます」
「こらこら。映画やテレビのつくり話じゃないぞ。
くれぐれも無理だけはしないでくれ。まずはお前さん自身の安全を守ることが大切だ。
いくつかの手順と約束事の説明をするから、よく聞いてくれ。
まず俺のところの若い者を、その一週間の間、近くの駐車場へ待機させておく。
お前さんの最初の仕事は、実行犯が顔を見せたらまず第一報を若い者へ連絡することだ。
それだけで、店の前へ移動して連れ出すための準備態勢に入ることができる。
これが『初動』のための重要部分だ。ここまでの事はできるな?」
「顔は覚えているから、すぐにわかると思うけど、
メガネやマスクをしていたら、すぐには確認が出来なくなるし、見破る自信もありません。
そんな時にはどうすればいいの?」
「そのあたりの心配なら大丈夫だ。
幹部も数人の護衛を連れて店に現れる。何人かは店の中へ連れて入るが
おそらく1人か2人を、店の前で警護の役に当たらせるはずだ。
入口で厳しく見張られているから、顔を隠すやつはまず最初にチェックをされる。
そこを無事に通り抜けるためには、あえて素顔のままというのが常道だ。
ましてや関係者に顔を知られていない実行犯のことだ。そのまま素顔で店内に入ってくると思う。
おそらくトイレあたりで覆面するか、顔を隠す細工などをするだろう。
だから、入店時に特別の危険性はない。
素顔のままで凶行に走るのは、腕に覚えのあるプロの連中だけだ。
なぜなら彼らは、絶対に結果をしくじらない自信があるからだ。
心理的に見ても犯行に自信のないやつほど顔を隠す傾向がある。それが犯罪者の心理だ。
実行犯が入店をして一度だけ姿を隠した瞬間が、凶行がこれから始まるという合図になる。
この時に、必ずお前さんにやってもらいたい、最も大事な仕事がある」
「もっとも大事な、お仕事って?」
「電気を消して、一瞬にして店内を真っ暗にすることだ」
「え?、電気を消す。なんでそんな簡単なことが、大切になるわけなの」
「お前さん。3月のときに、深夜の発砲の現場と犯人の顔を見たと言っていたよな。
そん時に、お前さんはどういう状態になっていたのか、身にしみてよく覚えているはずだ。
人間は想定以上の衝撃に出くわすと、呆然として身動きが出来なくなる。
おそらく途方もない恐怖心に襲われて、何もできずに狼狽えてばかりいただろう。
どうだ、記憶にあるだろう」
「たしかに身動きさえできなかったわ。
実行犯と目が合いそうになった時なんか、周りの酸素が消えそうなほど息苦しくなったもの。
何もできないどころか、何も考えることができなかった」
「それこそがパニック状態で、反射的に人間がとってしまう行動だ。
だがパニック状態がやってくる前に、突然電気が消されて、真っ暗になってしまったら
店内の様子は、いったいどうなると思う?」
「突然のことで驚いて悲鳴と怒号などで、上へ下への大騒ぎが始まるわ。
そうか。そうなると表から警備役が店内へ飛び込んでくるし、逃走用の経路にも隙が出来るわけだ。
どさくさに紛れて逃げ出して、迎えの車の中へ実行犯を押し込めば、事は片付けわけだ。
おじさま、さすがに頭がいいわねぇ!感心しちゃいます!」
「喜ぶのはまだ早い。
今の想定は、たまたま上手くいったらこうなるだろうという、プランのAだ。
当然、失敗をするケースはあるだろうし、想定外のハプニングなども発生をする。
プランBと、プランCも、当然ながらちゃんと用意してある」
「お~。ますますもって、デンジャラス!。
お話がいよいよ佳境に入ってきましたね。貞園、久々にゾクゾクとしちゃいます・・・・」
「こらこら話はまだこれからだ。大丈夫かよ。ほんとうに、お前さんは・・・・」
・「新田さらだ館」は、
日本の食と、農業の安心と安全な未来を語るホームページです。
多くの情報とともに、歴史ある郷土の文化と多彩な創作活動も発信します。
詳しくはこちら
「油断は禁物だぞと、入念に作戦を練る岡本と貞園」
「ありがとうございました。高価なプレゼント。
もう嬉しくてとことん舞い上がっています。なんなりと言いつけてください。
全力で、頑張りますから」
貞園がテーブルへ着くなり、岡本に頭を下げています。
岡本のほうはさりげなく店内の様子を見回してから、あらためて視線を貞園へ戻します。
「気にするな。堅苦しい挨拶は抜きだ。
静かで落ち着いたいいカフェだね。商店街の真ん中にこんな場所があったとは驚きだ。
まるで昭和へタイムスリップしたような、隠れ家的な雰囲気が漂っている」
「へぇぇ・・・・日本の昭和って、こんな暗い感じの雰囲気なのか。ふう~ん」
「そうか。昭和の時代は知らないか。もしかして、君は平成の生まれかい?」
「美術大学へ留学でやって来たのは、平成14年の春です。
あ・・・・またおじさまの、上手すぎる誘導尋問にひっかかってしまいました!。
まずいなぁ。私の本当の年齢がバレてしまいます。」
「ということは、俺の娘とひとつ違いだな。そうか、まだ若いんだな・・・・。
そろそろ肝心の本題に入ろうか。君が『君来夜』へアルバイトへ行くのはいつからだ?」
「15日からの一週間です。
君来夜(いえらいしゃん)の20周年記念で、実はそのままお店が閉店になります。
ママもそろそろお歳だし、不景気が続くご時勢だもの、ちょうどの潮時かもしれません」
「ということはその一週間のあいだに、多くの招待客に紛れて命を狙われている
幹部のヤクザと、それを付け狙っている実行犯が現れるということだな。
美和子の旦那だったという、あの、例の男が」
「押し入れに隠してあった拳銃が消えたということからも、ほぼ間違いは無いと思います。
でも、どうやったらうまくいくのかしら?
けが人や死人を出さずに、実行犯だけ確保をして海外逃亡をさせるためには」
「すべては、君次第になる」
「え・・・・。わたし次第?」
「君来夜の関係者で、事前に襲撃の情報をつかんでいるのは、君と俺たちだけだ。
君の準備のし方次第で、事がうまくいくかもしれないし、また逆にしくじる可能性もある。
襲撃に関してはいろいろなパターンが考えられるから、まずひとつずつ検証をする必要がある。
困難な仕事だが聡明な君なら、きっとうまくやれるだろう」
「まるでくのいちか、女スパイみたいな世界です。今から、ワクワクしちゃいます」
「こらこら。映画やテレビのつくり話じゃないぞ。
くれぐれも無理だけはしないでくれ。まずはお前さん自身の安全を守ることが大切だ。
いくつかの手順と約束事の説明をするから、よく聞いてくれ。
まず俺のところの若い者を、その一週間の間、近くの駐車場へ待機させておく。
お前さんの最初の仕事は、実行犯が顔を見せたらまず第一報を若い者へ連絡することだ。
それだけで、店の前へ移動して連れ出すための準備態勢に入ることができる。
これが『初動』のための重要部分だ。ここまでの事はできるな?」
「顔は覚えているから、すぐにわかると思うけど、
メガネやマスクをしていたら、すぐには確認が出来なくなるし、見破る自信もありません。
そんな時にはどうすればいいの?」
「そのあたりの心配なら大丈夫だ。
幹部も数人の護衛を連れて店に現れる。何人かは店の中へ連れて入るが
おそらく1人か2人を、店の前で警護の役に当たらせるはずだ。
入口で厳しく見張られているから、顔を隠すやつはまず最初にチェックをされる。
そこを無事に通り抜けるためには、あえて素顔のままというのが常道だ。
ましてや関係者に顔を知られていない実行犯のことだ。そのまま素顔で店内に入ってくると思う。
おそらくトイレあたりで覆面するか、顔を隠す細工などをするだろう。
だから、入店時に特別の危険性はない。
素顔のままで凶行に走るのは、腕に覚えのあるプロの連中だけだ。
なぜなら彼らは、絶対に結果をしくじらない自信があるからだ。
心理的に見ても犯行に自信のないやつほど顔を隠す傾向がある。それが犯罪者の心理だ。
実行犯が入店をして一度だけ姿を隠した瞬間が、凶行がこれから始まるという合図になる。
この時に、必ずお前さんにやってもらいたい、最も大事な仕事がある」
「もっとも大事な、お仕事って?」
「電気を消して、一瞬にして店内を真っ暗にすることだ」
「え?、電気を消す。なんでそんな簡単なことが、大切になるわけなの」
「お前さん。3月のときに、深夜の発砲の現場と犯人の顔を見たと言っていたよな。
そん時に、お前さんはどういう状態になっていたのか、身にしみてよく覚えているはずだ。
人間は想定以上の衝撃に出くわすと、呆然として身動きが出来なくなる。
おそらく途方もない恐怖心に襲われて、何もできずに狼狽えてばかりいただろう。
どうだ、記憶にあるだろう」
「たしかに身動きさえできなかったわ。
実行犯と目が合いそうになった時なんか、周りの酸素が消えそうなほど息苦しくなったもの。
何もできないどころか、何も考えることができなかった」
「それこそがパニック状態で、反射的に人間がとってしまう行動だ。
だがパニック状態がやってくる前に、突然電気が消されて、真っ暗になってしまったら
店内の様子は、いったいどうなると思う?」
「突然のことで驚いて悲鳴と怒号などで、上へ下への大騒ぎが始まるわ。
そうか。そうなると表から警備役が店内へ飛び込んでくるし、逃走用の経路にも隙が出来るわけだ。
どさくさに紛れて逃げ出して、迎えの車の中へ実行犯を押し込めば、事は片付けわけだ。
おじさま、さすがに頭がいいわねぇ!感心しちゃいます!」
「喜ぶのはまだ早い。
今の想定は、たまたま上手くいったらこうなるだろうという、プランのAだ。
当然、失敗をするケースはあるだろうし、想定外のハプニングなども発生をする。
プランBと、プランCも、当然ながらちゃんと用意してある」
「お~。ますますもって、デンジャラス!。
お話がいよいよ佳境に入ってきましたね。貞園、久々にゾクゾクとしちゃいます・・・・」
「こらこら話はまだこれからだ。大丈夫かよ。ほんとうに、お前さんは・・・・」
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多くの情報とともに、歴史ある郷土の文化と多彩な創作活動も発信します。
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