つわものたちの夢の跡・Ⅱ
(22)FF式の暖房器
「血は争えない。やっぱり、親子だね。
この車を見た瞬間、すずも、君とまったく同じ言葉を口にした。
1人で旅するのには好都合でも、たしかに2人となると、少しばかり手狭になる。
朋花という女の子と旅した時は不都合を感じなかったが、すずと遠くまで
行こうと考えたら、やっぱりこいつは、少しばかり小さ過ぎたようだ」
「新婚さんなら、ぴったりと寄り添って居心地が良いでしょうね。
おじ様とお母さんでは、距離が近くなりすぎます。
でも、考えたらもったいないですねぇ、こうして手間と経費をかけて
キャンピングカーに仕立てあげたというのに・・・」
いつのまにか美穂の関心が、変って来た。
母のすずの心配から、こじんまりとした勇作のキャンピングカーに関心が移ってきた。
「面白そう~」と美穂が目を細める。
興味深そうな美穂の眼が、助手席から車内の様子を覗き込む。
「エンジンをかけているときは、暖房用のヒーターが使えます。
でも、停車しているときはどうするの?。
まさか、七輪を持ち込んで、練炭で温めるわけにもいかないでしょう。
一酸化炭素中毒で明日の朝になっても、目が覚めませんからねぇ」
「車と心中をするつもりは無いからね。
エンジンが停止していても、サブバッテリーの電気を使って動く
FFの暖房機器を、別に設置してある。
真冬になると車内の温度が、外気につられてどんどん下がるから、
こいつを装備しておかないとひどい目に会う。
クリーン仕様のFFヒーターは車内の空気を汚さない、優れものだ」
「それなら、安心して眠れそうです。
後部をフラットにしても、せいぜい畳1枚のスペースしか有りませんねぇ。
起きて半畳、寝て一畳。飯を食べても二合半、しょせん人間そんなもの。
そんな言葉をどこかで聞いたけど、このスペースでは、わたしでも無理みたい。
ねぇ・・・もう少しどうにかならないの。
もうすこし大きな車に変えて、また3人で1泊2日の旅行へ行きましょうよ」
「君は考え方まで、お母さんとそっくりだね。
小さすぎるから、わたしのために大きくしろと言う発想もまったく同じだ。
そのことなら、もう心配はない。
大きくするための段取りは、すでに手配が済んでいる」
「え、別の車に買い替えるの!。
もったいないわ。せっかくここまで細工しておじ様好みに完成させたのに」
「美穂ちゃん。言っていることがちぐはぐだ。
狭いから大きくしてくれと言いながら、新しく買ったら勿体ないという。
いったい、君の本音はどっちだ。
このままが良いのかい。それとももっと、大きな車のほうがいいのかい?」
「大きいほうが、良いに決まっているでしょ。
そうなれば、私が母とおじ様の間に、お尻を入れて割り込めるもの。
2人でいっぱいでは、私が入り込む隙間さえ無いでしょ。
で、当然そちらにも優秀なFFタイプの暖房機が、付いているんでしょ」
「おう。ばっちり装着がしてあるはずだ。
もっとも、美穂ちゃんが俺に寄り添ってくれれば、暖房機なんかいらないけどね。
身体どころか、心までぽかぽかと温かくなりそうだ」
「まぁ、呆れた。母が聞いたら、血相を変えるわよ。
ああ見えて意外に、男女関係に関しては免疫がありません。
わたしがボーイフレンドを紹介すると言っただけで、あたふたと動揺するんだもの。
間違いで私が生まれたけれど、母にとって男と呼べるのは、たぶん・・・
おじ様、ひとりだけだと思います」
(好きなんでしょう、いまでも、母のことがオジ様は?)
ウフフと美穂が、嬉しそうな目で勇作の顔を覗き込む。
(23)へつづく
『つわものたちの夢の跡』第一部はこちら
(22)FF式の暖房器
「血は争えない。やっぱり、親子だね。
この車を見た瞬間、すずも、君とまったく同じ言葉を口にした。
1人で旅するのには好都合でも、たしかに2人となると、少しばかり手狭になる。
朋花という女の子と旅した時は不都合を感じなかったが、すずと遠くまで
行こうと考えたら、やっぱりこいつは、少しばかり小さ過ぎたようだ」
「新婚さんなら、ぴったりと寄り添って居心地が良いでしょうね。
おじ様とお母さんでは、距離が近くなりすぎます。
でも、考えたらもったいないですねぇ、こうして手間と経費をかけて
キャンピングカーに仕立てあげたというのに・・・」
いつのまにか美穂の関心が、変って来た。
母のすずの心配から、こじんまりとした勇作のキャンピングカーに関心が移ってきた。
「面白そう~」と美穂が目を細める。
興味深そうな美穂の眼が、助手席から車内の様子を覗き込む。
「エンジンをかけているときは、暖房用のヒーターが使えます。
でも、停車しているときはどうするの?。
まさか、七輪を持ち込んで、練炭で温めるわけにもいかないでしょう。
一酸化炭素中毒で明日の朝になっても、目が覚めませんからねぇ」
「車と心中をするつもりは無いからね。
エンジンが停止していても、サブバッテリーの電気を使って動く
FFの暖房機器を、別に設置してある。
真冬になると車内の温度が、外気につられてどんどん下がるから、
こいつを装備しておかないとひどい目に会う。
クリーン仕様のFFヒーターは車内の空気を汚さない、優れものだ」
「それなら、安心して眠れそうです。
後部をフラットにしても、せいぜい畳1枚のスペースしか有りませんねぇ。
起きて半畳、寝て一畳。飯を食べても二合半、しょせん人間そんなもの。
そんな言葉をどこかで聞いたけど、このスペースでは、わたしでも無理みたい。
ねぇ・・・もう少しどうにかならないの。
もうすこし大きな車に変えて、また3人で1泊2日の旅行へ行きましょうよ」
「君は考え方まで、お母さんとそっくりだね。
小さすぎるから、わたしのために大きくしろと言う発想もまったく同じだ。
そのことなら、もう心配はない。
大きくするための段取りは、すでに手配が済んでいる」
「え、別の車に買い替えるの!。
もったいないわ。せっかくここまで細工しておじ様好みに完成させたのに」
「美穂ちゃん。言っていることがちぐはぐだ。
狭いから大きくしてくれと言いながら、新しく買ったら勿体ないという。
いったい、君の本音はどっちだ。
このままが良いのかい。それとももっと、大きな車のほうがいいのかい?」
「大きいほうが、良いに決まっているでしょ。
そうなれば、私が母とおじ様の間に、お尻を入れて割り込めるもの。
2人でいっぱいでは、私が入り込む隙間さえ無いでしょ。
で、当然そちらにも優秀なFFタイプの暖房機が、付いているんでしょ」
「おう。ばっちり装着がしてあるはずだ。
もっとも、美穂ちゃんが俺に寄り添ってくれれば、暖房機なんかいらないけどね。
身体どころか、心までぽかぽかと温かくなりそうだ」
「まぁ、呆れた。母が聞いたら、血相を変えるわよ。
ああ見えて意外に、男女関係に関しては免疫がありません。
わたしがボーイフレンドを紹介すると言っただけで、あたふたと動揺するんだもの。
間違いで私が生まれたけれど、母にとって男と呼べるのは、たぶん・・・
おじ様、ひとりだけだと思います」
(好きなんでしょう、いまでも、母のことがオジ様は?)
ウフフと美穂が、嬉しそうな目で勇作の顔を覗き込む。
(23)へつづく
『つわものたちの夢の跡』第一部はこちら