「iPS細胞」 八代嘉美著 (平凡社新書) 定価:660円
【この本を読んだ理由】
このところ脚光を浴びている“iPS細胞”の基礎的なことを知りたいと思っていたとき、たまたまこの本に出合った。
【読後感】
著者の紹介:裏表紙より。
“1976年愛知県生まれ。
東京大学大学院医学系研究科博士課程(病因・病理学専攻)在籍中。
研究テーマは造血幹細胞の老化・ストレスに関わる分子機構の解明。
医科学の発展に伴う生命観、社会意識の変遷に興味を持つ一方、生物科学を社会にわかりやすく伝えたいと考えている。”
(32歳の新進気鋭と見た)
この本の“はじめに”の中から、この本を読んで特に勉強になった箇所を拾ってみた。
その①:
“それは2007年、11月21日にはじまった。
「ヒトの皮膚から万能細胞/本格的な再生医療に道」(日本経済新聞)
・・・・・・・・・・・・・・
「ヒトの皮膚から万能細胞/再生医療本人の細胞で」(毎日新聞)
「ヒトの皮膚から人工「万能細胞」/受精卵使わず・・・多様に分化」(東京新聞)
朝刊各紙はほとんど同じ見出しを並べ、テレビ各局も大きく特集を組んだ。この日が<人工万能細胞>一色に染まった一日だったのは間違いない。”
その②:
“今回話題となった「人工万能細胞」。
それは京都大学再生医科学研究所・山中伸弥教授が発表したもので、正式な日本語では「人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cell)」、略して「iPS細胞」という。
多能性という難しそうな言葉は、私たちの体を構成する、いろんな性質をもったあらゆる種類の細胞になることができる、という意味であり、iPS細胞とは「大人の人間の細胞を原料に、いろいろな細胞になれる細胞をつくることができた」ということを示す名前なのだ。”
その③:
“私たちの身体は60兆のさまざまな種類の細胞で形づくられている。
・・・・・・・・・・・・・・・
たとえば脳の細胞は人間が生まれてから死ぬまで生き続けるが、腸の細胞は2~3日、皮膚の細胞は約1ヶ月の周期で入れ替わる。1日に死んでいく細胞は約15兆といわれ、その細胞を新しく生まれる細胞が補っているのだ。”
その④:
“ただ、細胞に再生する能力があるといっても、私たちの皮膚がいきなりほかの種類の細胞になれるわけではない。人間による操作を経なければ皮膚は多能性を得ることはできないからだ。”
その⑤:
“この分野に興味はあってもあまりにも前提となる知識が難解で理解できない、という声をよく聞く。なるほど再生医療の研究の最前線は専門用語にあふれている。医学、分子生物学、生化学。多岐にわたる分野の専門用語がごった煮のように用いられ、気がつけば研究者たちの会話は英単語だらけ。
その上、研究者たちは一般の人たちへ情報伝達を行うのが得意とはいえない。”
その⑥:
“つまり再生医療の現在を知るということは、生命の本質というロマンを知ることにもつながっている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
これまで治療することが難しかった病気に対して新しい選択肢を提供する、これが最も大きな成果となるだろう。そしてその果実はこれからの時代に新しい価値観や世界観を芽生えさせる種子になっていくはずだ。”
そして、“まえがき”の最後で、著者は、
“生命科学の最前線に、ようこそ。”
と前置きして、iPS細胞を理解する上で、その基礎となっている“ES細胞の研究”の紹介から本文に入っていくのである。
本文中で、勉強になった箇所も拾い出してみた。
その①:
“ES細胞。正式名称は“Embryonic Stem Cell”日本語で<胚性幹細胞>”。
難しい言葉だけれど、ES細胞の成り立ちを端的に示す名前であり、そしてその成り立ちはES細胞がなぜ万能といわれるのか、どんな問題点をもっていたのかを物語っている。”
その②:
“がん細胞は、本来46本あるはずの染色体の数が多かったり少なかったり、あるいは遺伝子のDNA配列が壊れてしまうなどの原因で正常な機能を失った細胞で、体内で異常な速度で分裂・増殖し、正常な細胞を押しのけて生体の機能を壊してしまう。”
その③:
“幹細胞は細胞分裂によって自分自身を増やしながら、分化した細胞をつくっていく。その性質は木の幹が枝葉を増やしていくさまに似ている。
・・・・・・・・・・・・・・
体性幹細胞は、おのおのが属している組織を構成している細胞をつくり出すことはできる。しかし、一つの幹細胞に種々の組織が入り組んだ複雑なものを構成する能力はない。
あくまでも組織を形づくる<細胞>レベルの再生であって、手の再生のような複雑な再生はできないことである。”
このように、長々とES細胞と幹細胞の紹介があった後、ようやく“iPS細胞の研究”の紹介に移って行く。
“6章 iPS細胞が誕生した!
2007年11月のヒトiPS細胞の成功は世界中に大きな衝撃を与えた。たった四つの遺伝子を導入するだけで分化した細胞が<多分化能>を取り戻すことができたからだ。
では、倫理的な問題をはらむ胚を使わずに、どうやって多分化能をもつiPS細胞をつくることができたのだろうか?”
第六章でのiPS細胞の解説をまとめてみると、
・まず、山中教授による、ES細胞のみが持っているタンパク質を解析すると言うアプローチが紹介される。
・そして、分化を維持する遺伝子"Nanog"の発見及びES細胞の機能の本質に係る4つの遺伝子(山中ファクター)の特定。
・更に、Nanogと山中ファクターの組み合わせによるiPS細胞の誕生。
“四つの遺伝子を組み込むことでできてくる細胞は多能性をもっているということができる。マウス人工多能性幹細胞、iPS細胞の誕生であった。
・・・・・・・・・・・・・・・
つまり、iPS細胞は生殖細胞を含むすべての細胞をつくる能力をもっていることも示された。こうして、iPS細胞がES細胞とほぼ同等の性質をもっていることが確かめられたのである。彼らの発見した四つの遺伝子は<山中ファクター>と呼ばれるようになった。”
ここのところが最も知りたいところであったが、ES細胞や幹細胞の紹介の場合より、さらに私にはその説明が理解し難かった。
ただ漠然と分かったことは、iPS細胞による実用面での研究は、まだまだこれからであるということ。
そして、iPS細胞の倫理上の問題は無いようであるが、がんの発生などの安全性の問題がある。
ということか・・・?
最後にもう一つ気になったことは、
表紙の帯でSF作家の筒井康隆氏の推薦があることだ。
筒井康隆の作品は、「七瀬ふたたび」(NHKドラマ)を昨年観た。
SF小説はあまり好きではないので、この作品もあまりいい印象がなかったことを思い出した。