昨年出版された村上春樹さんの本2冊の感想です。
これまで私が読んだ自伝的小説の中で、最も衝撃を受け、心に残っている本は、三浦哲郎さんの「白夜を旅する人々」と、宮尾登美子さんの「櫂」です。それらと比較するつもりはまったくないものの、作品としては少々物足りなさを感じてしまいました。
本作は、村上春樹さんが初めてお父様について書いたエッセイです。おそらく村上さんは、亡くなられたお父様のとの関係について、心の中でまだ整理できていなかったのではないか、と思いました。
無理やり絞り出すように書かれた文章に、私は少々痛々しさを感じてしまいました。今の段階で本として出版する必要がはたしてあったのか、疑問を感じますが、出版社としては是非とも出したかったんだろうな。。。との事情も理解できます。
ちなみに「猫を棄てる」という物騒なタイトルは、村上さんが子供の頃、さる事情から飼っていた猫とお別れせざるを得なくなり、お父さんといっしょに猫を段ボール箱に入れて、自転車に乗せて海浜に猫を棄てに行くというエピソードからきています。
その後、家にもどると棄てたはずの猫が先にもどっていて、その後も飼い続けることになったという顛末なので、猫好きの方もどうぞ安心してお読みになってください。(=^・^=)
この本は、短編集で雑誌「文学界」で発表された7作品と、書下ろしの表題作が含まれています。最初の短編「石のまくらに」の冒頭の1パラグラフから ”春樹節” 全開で、思わずにやりとしてしまいました。
私は初期の頃の村上春樹さんの小説が好きでしたが、いつしか苦手だと感じるようになったのは (といいつつ新作が出るとつい読んでしまうのですが) 自分のものさしに合わない人を、冷ややかなことばで断じるところにカチンとくるのだと思います。
本作では特に、女性蔑視やルッキズムともいえる表現がそこここに散見され、正直言って、不愉快に感じる描写や作品もありました。このご時世に、よくぞこのまま出版にこぎつけられたと少々驚きもしました。
8編の短編の中で、私が一番気に入ったのは「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」です。村上さんの小説は、時にどうしようもなく死の気配を濃厚に感じるものがありますが、本作もそうしたタイプの作品で、不思議な余韻が残りました。
「謝肉祭 (Carnaval)」はストーリーとしては悪くないのだけれど、全編に貫かれたルッキズムに辟易。「品川猿の告白」は人間のことばを話す猿が登場する、シュールでちょっと気持ちの悪い物語。
なんだか悪口みたいにばかりになってしまってすみません。