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スノーデン 日本への警告/夜の谷を行く/革命前夜

2017年12月02日 | 

最近読んだ本から、感想を書き留めておきます。

エドワード・スノーデン他「スノーデン 日本への警告」

映画”スノーデン”は、これまで先進国では当たり前と思われていた個人の自由と権利を揺るがす内容で、大きな衝撃を受けました。本書は、昨年東京大学で開催された自由人権協会のシンポジウムの記録で、第1部が亡命先のロシアからインターネット経由で参加したスノーデン氏のインタヴュー、第2部が人権識者たちによる討論会となっています。

映画”スノーデン”で一番驚いたのは、日本のコンピュータシステムにはマルウェアが仕組まれていて、米国の同盟国でなくなった時にシステムダウンするよう設計されているということ。しかしあの映画が公開されてからも、日本で全く問題にならなかったのが不思議でした。日本はこの件に関して了承しているということでしょうか。

スノーデン氏はかつて横田基地にいた経験から、情報において日米は協力関係にあり、日本が米国からの要請で日本国内のムスリムの監視を行っていたことも明らかにしています。しかしこうした情報収集はテロ防止に役立っておらず、テロへの恐怖に乗じた重大な人権問題とされています。

同じように膨大な個人情報を収集することは犯罪の抑止力にはならず、人権活動家、弁護士、ジャーナリストの監視につながるとスノーデン氏は言います。こうした権力の暴走を止められるのは、本来ジャーナリズムの力ですが、日本のメディアは今、大きな脅威にさらされていると氏は警鐘を鳴らしています。

 桐野夏生「夜の谷を行く」

桐野夏生さんの小説は悪意がひりひりと感じられて苦手...といいつつ、これまでにいくつか読んできましたが、これはおもしろかった! 読み始めたら止まらず、一気に読み終えました。

主人公は40年前に連合赤軍に加わり、指導者の永田洋子とも行動をともにした西田啓子という架空の人物。ということで陰惨な場面があったら嫌だな...と心配でしたが、物語は主に現在の啓子の姿を描いています。5年間服役している間に両親は心労で亡くなり、親戚中から縁を切られ、今もつきあいがあるのは妹のみ。

啓子は過去を誰にも知られないよう、友人も作らず、都会の片隅でひっそりと息をひそめるようにして生活しています。そこに突然昔の仲間から電話があり、あるフリーライターが過去の事件に関して啓子と連絡を取りたがっていると告げます。どうして自分の居場所がわかったのか?以来、彼女の心に小さなさざ波が起こります...。

連合赤軍事件についてはほとんど知りませんし、正直理解も共感もできませんが、それとは別に何十年も自分と何の関係もない犯罪者とその家族を追い続けるもの好きがいるという事実に恐れを感じました。未曽有の東日本大震災は、啓子に過去と向き合う勇気を与えます。思いがけない結末は、啓子に差し伸べられた救いだと感じました。

須賀しのぶ「革命前夜」

東西ドイツ分裂時代の1989年、バッハに憧れて東ドイツ・ドレスデンの音楽大学にピアノ留学した眞山柊二は、世界から集まった個性豊かな才能に出会い、大きな刺激を受けるものの、自分の音を探し求めて苦悩します。そんな折、教会で出会った美しいオルガニスト、クリスタの音楽に魅せられます。

これほどの才能がなぜ眠っているのか、それは彼女がかつて西ドイツへの亡命を試みたことからシュタージから監視され、自由な音楽活動ができない立場にいたからです...。須賀しのぶさんの小説を読んだのは初めてですが、音楽と歴史がみごとに融合したドラマティックな世界を堪能しました。登場する音楽を聴きながらの幸せな読書体験となりました。

Cantilena - Josef Rheinberger (You Tube)

中でも一番心に残ったのは、クリスタが弾くラインベルガーの”カンティレーナ”。少々甘すぎると恥ずかしがるクリスタですが、私の中では彼女のテーマ曲となりました。東ドイツの監視社会については、映画”善き人のためのソナタ”を見た時の記憶が、イメージをふくらませるのに役に立ちました。

物語の終盤では、東ドイツで生きる人、自由な世界を目指す人、それを助ける人、あるいは阻止する人。激動の東ドイツ情勢と、愛と自由をかけた駆け引きがめまぐるしく交錯し、サスペンスフルな展開に引き込まれました。


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2 コメント

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読書は楽しい (ごみつ)
2017-12-03 21:22:58
こんばんは!

3冊、どれも興味深い内容ですね!

スノーデンのは、映画を見て「えええ~!」って思った人にはうってつけですね。
日本のメディアへの警鐘の内容が気になります。

桐野夏生は、これきっと夢中で読めそうですね。ただお話の背景が連合赤軍なのが重たい・・。メインテーマではないのでしょうが、きついんですよね、連合赤軍・・。

「革命前夜」も面白そう。東ドイツとシュタージが登場となると「善き人のためのソナタ」を思い出しますよね。
本の中に当登場する音楽をBGMで流すってグッドアイデア!
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☆ ごみつさま ☆ (セレンディピティ)
2017-12-04 09:45:58
ごみつさん、こんにちは。
どの本もおもしろかったです!

「スノーデン」は映画を見て衝撃を受けましたが
それを補完する内容で興味深かったです。
スノーデン氏は告発をThe Guardianに委ねましたが
日本には権力を監視するメディアがなく、かなり危機的な状況といえそうです。

桐野夏生さんの小説、私も連合赤軍と聞いて読む前はちょっと引いてしまったのですが
そんなにきつくなかったですよ。
桐野さん、だんだん柔らかくなられたのかもしれませんね。
どちらかというと一犯罪者のその後、という視点で興味深く読めました。

革命前夜はスケールの大きい、ドラマティックな展開を堪能しました。
情景が浮かぶような音楽の使い方もすばらしかった!
須賀しのぶさんの小説、続けて「また、桜の国で」を読みましたが
こちらもよかったです♪ 今、お気に入りの作家さんです。
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