@人として当たり前の知識と経験、それに人間として、大人としての基本的な資質を養う教育は不可欠であり、その教育を数百年継続している英国の名門校に理由が、この書を読み理解できた。 特に文中にある「教育で危険なことは目標が高すぎて失敗する事ではなく、低すぎる目標を達成する事だ」、失敗を学び、生かし工夫する力(考える力)が今の日本の教育制度に抜けている感がする。また、それは文芸のみならずスポーツ教育からも読み取れる「組織のリーダーになった時、輩下の感情・気持ちを理解し、努力する」なども教育の一環として外部のプロが経験と専門知識で教える機会を持っていることなど。さらに、業績、不評の先生も生徒・同僚からの評価により退職させる体制など日本の教育体制の見直しは奥が深いと感じさせられた。また英国では塾がない理由は生徒にやる気を出させるレベル別の工夫と綿密で考慮した時間配分を持って教育している。日本のそもそも「人間資質教育」(この英国の学校と比較すると)では基本的な資質を育てる工夫がない、それが今の社会のシステム「社員には決して強く叱ることなく甘えで育てる」(世界と競争できない)などとなりつつあるのではないだろうか。最後にある言葉「You have arrived here as boys, you leave as men=君たちは入学した時、物事の道理が分からない子供だったが、卒業するときは大人、つまり分別や理性を備えた人になる」。これは日本の教育指針にあるだろうか。
『英国名門校の流儀』松原直美
- 歴代首相からノーベル賞受賞者、名俳優まで輩出する英国パブリック・スクール。独特の礼儀作法、「文武」に加えて重視される「芸」、目に見える賞と罰、ずばぬけた教師陣―社会に資するリーダーの育て方。
「BookDataの出典」含む
第1章 パブリック・スクールとはどんな学校か
歴史ある名門校首相の7割を輩出イギリスの学校制度、高額な学費ハウス制度とは、13歳から18歳の5年制度、学費と寮費で年間6百万円、5年間で3千万円、入学テスト結果に基づく寮割、男子全寮制である。校内で養う4つの資質:勇気、名誉、謙虚、協力、さらに紳士の作法
第2章 学習意欲をどうやって伸ばしているか
科目ごとの習熟度別少人数クラスで能力を認め合う環境(スポーツ、音楽等全教科含めて同じ学年でも全てレベルに応じた習熟度クラスに分ける、一クラス9人)、詳細な通知表(教員からの所見コメントがある:どうすればさらに伸びるのか、どんな点が良いのか具体的に記述、さらに今後の指標、親の対策)イギリスの大学入学試験難関大学の入試生徒の向上心を刺激する方法(考える力を伸ばす記述方式が中心で、中高からの成績結果に基づき決定される:生徒同士の競争、他校とのコンペティッションに参加、生徒の学習成果の自由発表、他校・専門家との交流の場・読書の推薦など)。
研究者顔負けの取り組みとその海外研修経験を様々なソサエティ系、スポーツ系、ソサエティオリエンタル・ソサエティデリケートなど外部のプロフェッショナルを交えた問題も議論する「教育で危険なことは目標が高すぎて失敗する事ではなく、低すぎる目標を達成する事だ」
第3章 「文武」に加えて重視される「芸」
文武両道の実現スポーツのレベル分けラグビーサッカークリケット、3年間はスポーツ活動が義務つけられる(コーチは全て外部の文芸・芸術・演劇などを含めたプロフェッショナルが担当)「ラグビーはたとえ不服を感じても自分を律して感情を抑え、試合の続行に集中する品位が求められる」室内競技の数々その他のスポーツコンディショニング持久走教師や親も参加「今を最大限に生きて楽しめ」 有名俳優を輩出全員が演劇に参加シェークスピアは必須教養演劇の持つ意味、頻繁に開かれるコンサート聖歌隊優れた美術品で観賞眼を養うアートコンペティション美術ソサエティ「組織の上に立つ人になったときその成員の気持ちを理解する努力ができる人になれるようにする」
第4章 目に見える賞と罰
生徒名簿に記される奨学生生徒手帳を親にも配布、服装で示される生徒のリーダー、努力に対するさまざまなご褒美、口頭と紙面による表彰年報も発行わかりやすい罰則、素行不良の罰重い罰とは「努力の成果は表彰されて当然」(可視的な評価と賞罰制度) 先輩は後輩にとって良いお手本である事、他の生徒には配慮できることなど人間関係も大切にしている。努力に対する様々なご褒美、250種を超える賞、図書券ギフトなど、企業、卒業生、基金団体等からの寄付で賄う。居眠り、遅刻などでも罰する時は容赦なく場合によっては外出禁止、停学、退学もさせる
第5章 国を守る意識を教える
軍は身近な存在戦争の英雄を追悼する軍事教練は必修軍事パレードも社会奉仕、海外でのボランティア活動から近隣援助のボランティア(最低3年間に週に1~2回)にも参加自然保護活動(全員の協調性や自分の役割を果たす責任感を求める)。
第6章 目覚めから寝るまで続く人格教育
集団の中で育てる個討論大会も人気生徒全員参加のクイズ大会日々の時間管理、テスト期間中もつまっている予定厳しい校則と不文律教員にも適用される厳しいルール、ネクタイ姿で食事簡単にできない外出不文律の存在規則は個性を抑えない。人の話を聞く訓練静かに「待つ」訓練、私語厳禁TPOに応じたマナーの習得。食事のマナーも教育大人(外部の専門家等)との会話を学ぶ
第7章 教師たちが尊敬される理由
高い知力と強靭な体力多国語を操る語学教師校長は働き盛りの壮年生徒と教職員との近い距離、「思い出の品」展示会教員が教え合う仕組みロンドンに学習塾が少ない理由見事なオンとオフの切り替え、生徒による教員の評価学校全体で取り組むいじめ対策学習障害対策(校内のスタッフは700人、教員は非常勤講師を含めて150人、全生徒数820名、業績の悪い教師、生徒や同僚との人間関係で不都合を起こす教師は退職させられる)。教職の言葉「戦場では人間の最も美しい部分も醜い部分も露呈する。どんなに人間が品位を落とすかもわかる。しかし、人間が持ち得る最も素晴らしい勇気や思いやりも見ることができる)いじめ対策も外部の専門家の指導を受け対策マニュアルを精読させられる
第8章親はどうかかわるか
父母との距離感父母が参加できる行事も保護者面談で目立つ父親の姿パーティにも参加。卒業生の恩返し(この学校の場合、学業も最高峰を目指すが、スポーツや芸術にも力を入れ、寮生活で人間性を鍛えるという教育方針を理解した上で入学してもらう。学校では学業の成功だけではなく、多くの機会を与え、生徒が実りある人生を送れるよう資質や才能を引き伸ばし、社会に奉仕できる人に育てる、よってこの過程を経れば、タフな精神力が身につき、困難や不都合に遭遇しても早々「キレる」等な人物にはならない)。
終 章 己を知る教育
自信はあるが尊大にはならない低学年の不自由、上級生の責任一流の知性に出会う。仲間との強い絆習熟度別クラスでの真剣勝負年間何十種類もの賞教員たちの努力。(You have arrived here as boys, you leave as men=君たちは入学した時、物事の道理が分からない子供だったが、卒業するときは大人、つまり分別や理性を備えた人になる)。