@賢い「悪巧み」とは、決して本人が表に出ない仕掛けで事をなす事である。まさに敵を知りその敵に誰を仕向けたら成功するのかを作り上げて仕掛けることである。この小説の老中と家老の戦いはまさに恨みを持つものを仕組み、やらせる方法である。現代、特に政治家の「企み」は、自分は直接関与したとは絶対に言わないまでも「誰がこれで得する」を考えると自ずと首謀者が浮かぶが、政治家の殆どは「法の罰」を受けることはない。「権力と金」、それと政治力が裏で動いているのは誰でも想像できるが、このまま腐った政治をいつまでも許してはおけない。 大物の政治家の「悪巧みが発覚」(スクープ)された時には、過去必ずそのニュースをかき消す他の事件(主に芸能人スキャンダルなど)が起こるのは偶然だろうか。 今回の「桜の会」の裏には「沢尻逮捕」がある。偶然にしてはあまりにも不思議なメディア報道である。
『暗殺の年輪』藤沢周平
- 第69回(昭和48年度上半期) 直木賞受賞 武家の非情な掟の世界を端正な文体で描き、直木賞を受賞した表題作。ほか処女作「溟(くら)い海」など海坂藩士・葛西馨之介は周囲が向ける愍笑の眼をある時期から感じていた。18年前の父の横死と関係があるらしい。久しぶりに同門の貝沼金吾に誘われ屋敷へ行くと、待っていた藩重役から、中老暗殺を引き受けろと言われる―武士の非情な掟の世界を、端正な文体と緻密な構成で描いた直木賞受賞作と他4篇。
- 「黒い縄」娘が殺され、娘と親しかった男が殺しの下手人とされ男は逃亡した。ある時江戸に舞い戻ってきたが、それは殺した張本人を探し出すためだった。 その結果、これを追っていた岡っ引きが真犯人だと判ったが、訴えれば男が下手人だとされることが分かった以上諦め江戸を去ることにした。ところが岡っ引きは自分が下手人とされることを消すため待ち伏せし捕らえようとしたが、逆に男に殺されると言う事件になってしまった。
- 「暗殺の年輪」藩を仕切る老中とその家臣が、藩で評判のある家老を殺害しようと企てる。ある武士が暗殺を図るが失敗、切腹となった。その切腹した武士の息子に老中からその時の家老を再び暗殺しろと言う下命がでた。それは母との家老の密接な関係を持たされたとの噂から襲い掛かるが、実は老中とその家臣が家老の暗殺後に自分を抹殺し、父、子共に恨みで暗殺を仕掛けたのだと分かった。が時すでに罠の中で、最後にはこそから逃げることで難を逃れようとした。
- 「ただ一撃」ある藩で士官を求めて試技をしたところ、一人の浪人者が藩でも腕の立つ4人を負かした。藩主としては藩の面目にかけて誰か相手にするものを探したところ既に60歳を超えた元武士を相手に再度試合をさせることにした。元武士は10日間の余裕をもらって昔の体作りで鍛え直し、一撃で相手を倒した。藩として面目を保つことができたが、その裏には犠牲もあった。元武士の嫁に対しての無惨な自刀であった。
- 「溟い海」晩年の「冨獄三十六景」絵師葛飾北斎の生き様である。新生「東海道五十三次」絵師絵田川広重の出現で自作品が売れないと知る。それは広重の繊細な描写、人物の捉え方、無数にある風景の中から人間の哀愁が息づく風景を、人生の一部をもぎとり、さらりと書き上げた技を見た時である。弟子たちの感想からなぜ「東海道五十三次」が売れるのかを聞きながら時代の流れと歳を感じ取っている。
- 「囮」男の仕事は彫刻師であるが、夜は岡っ引きの見張りの仕事をするようになる。ある時岡っ引きから言われた見張りは、殺害した男が舞い戻ってくるであろうある女(囮)を見張ることであった。いく日か日が経ってその女に恋心を奪われ、ある時その女に誘われ料理宿を指名され行くがいつまで経っても現れない。女の家に向かうと岡っ引き等が殺害した男を捕らえる現場に出会した。その女は見張りの男を別の場所におびき寄せ、その隙に殺害した男と待ち合わせを企んでいたが、いち早く岡っ引きが発見、捕縛した。女は彫刻師の男ではなく、殺害した男を強く思っており、女に騙された格好になった。