5月中旬~6月にかけて山を歩くと、コナラの木の枝先にリンゴの実のような形をしたものが
できている不思議な光景を目にすることがあります。
もちろんコナラの果実ではありませんが、このリンゴのようなものは、その名もナラメリンゴフシ
(楢芽林檎五倍子)と言って、実はナラメリンゴタマバチという、極小さな蜂の虫嬰(虫こぶ)です。
秋に交尾を終えたナラメリンゴタマバチの雌は木の根元に虫嬰を作り産卵を行います。
この時に根元にできる虫嬰のことをナラネタマフシ(楢根玉五倍子)と言います。
その後、この根元の虫嬰で育った雌の幼虫は冬に羽化し、枝先の冬芽に産卵を行うことによって、
このリンゴのような形のナラメリンゴフシ(楢芽林檎五倍子)が形成されるわけです。
外国でも同じような例があるようで、英語ではオークアップル(oak apple)と呼んでいるようです。
北アメリカ東部原産でモクレン科のユリノキです。
日本に渡来したのは明治初期で、原産地では60㍍を超える高木もあるそうです。
この木は、公園樹や街路樹として植栽されることが多く、ちょうど今が花期となっています。
花の直径は6~7㌢ほどですが、咲いているのが、高い木の梢であることと、花が
黄緑色の地味な色で、生い茂る若葉の色に埋没しているため、多くの人は咲いている
ことにあまり気付かないことが多いようです。
双眼鏡などで観察すると、花弁は6個で、基部にあるオレンジ色の斑紋がチャームポイントとなって
中々お洒落な雰囲気の花であることが判ります。
花の位置が低いものでも最低7㍍ほどあったので、残念ながら上向きに咲く花の内側の
様子までは撮ることができませんでした。
この花の英名は「チュリップツリー」で、チューリップに似た花が咲くという点で、この花に
相応しい名前と言えますが、和名が「ユリノキ」となったのは、皇太子時代の大正天皇が
小石川植物園でこの木をご覧になった時に「ユリノキ」と命名されたという経緯があるそうです。
ユリノキ <モクレン科 ユリノキ属> 落葉高木
蚕蛾の幼虫、カイコに絹糸を造らせる養蚕業は、明治以降「外貨獲得産業」として重要視され、かつて
我国は世界でも有数の養蚕国でした。
しかし、第1次世界大戦後の世界恐慌を境として、国際的な絹の需要が落ち込み養蚕業はその後衰退
の一途を辿ることになり、現在に至っています。
養蚕業が盛んだった頃、カイコの餌として栽培されたのが、この桑の木で、我が城陽市でもその当時の
名残りと思われるものが、木津川河川敷周辺の樹林のあちこちに見られます。
養蚕が行われなくなった現在、桑の木は人々の生活にとって存在意義を失ってしまったようですが、
近年、この桑の葉の成人病に対する薬効が注目されています。
特に、若葉に多く含まれるDNJと呼ばれる成分は、腸内の糖分分解酵素の働きを抑制する働きがあり
中性脂肪による高脂血症や糖尿病に効果あると言われ、「桑茶」などの製品も市販されています。
ヤマグワ <クワ科 クワ属> 落葉高木 別名クワ
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すでに果実を付けていますが
7月頃に赤から黒く熟すと生食
でも美味しく食べることができ、
ホワイトリカーに漬けてリキュール
を楽しむこともできます。
葉には苦みや癖がなく、天麩羅に
すると美味しく食べられます
ヤマモモは関東以西の山地に生える常緑高木です。
6~7月に熟する果実は直径15㍉程の大きさで、生食すると甘酸っぱい味がしますが、少し癖があり、
取り立てて美味しいと言える味ではありません。
等量のグラニュー糖に水を加え、煮詰めてジャムにするか、果実酒にするのが良いようです。
この木は雌雄異株で、雌株には雌花序のみ、雄株には雄花序のみが付きます。
花は風媒花で、雄花序は大量の軽い花粉を広範囲に飛散させるため、すぐ近くに雄株のない場合でも、
雌株のほとんどは受粉して結実します。
ヤマモモ <ヤマモモ科 ヤマモモ属> 常緑高木
← 雌花序は小さく、よく注意して
見ないと咲いているのが
わかりません。
花と葉の位置関係を見ると、
周囲の葉は空中を浮遊する
花粉を捉えるのに都合よく
配置されているようです
← 雌花序の詳細
← こちらは雄花序です
雌花序に比べて大きく
かなり目立ちます。
花粉は多く、軽いので
10Km以上も離れた
場所でも、雌花は受粉
が可能です。
← 雄花序の詳細
コブシは山野に自生するモクレン科の小高木で、3~5月に枝先に6~10㌢の
芳香のある白い花を咲かせます。
この花より少し早く咲く、中国原産のハクモクレンと花の形は似ていますが、大きさは
ハクモクレンよりずっと小さく、花の下に葉が1枚付くのが特徴です。
モクレンやハクモクレンとのもう1つの大きな違いは、花の向きです。
モクレンやハクモクレンが全て上を向いて咲くのに対して、コブシは枝の伸びる方向に
忠実に花を開きます。
山で見る、よく似た樹木にタムシバがありますが、コブシと違って花の下に葉が無いことと
やや疎らに花が付くことで見分けられます。
コブシ <モクレン科 モクレン属> 落葉小低木
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山を歩くと、コブシやタムシバなどのモクレン科の花が見られる季節になりましたが
仏事によく用いられる、このシキミ(樒)もモクレン科で、今ちょうど花期を迎えています。
この植物は、日本特有の香木で、樹皮や葉から抹香や線香が作られ、実際に葉を切って
嗅いでみると抹香や線香の香りがします。
株全体が有毒で、特に9~10月に実が熟して飛び出す種子は猛毒です。
和名は漢字で「樒」ですが、「シキミ」という呼び名の語源には諸説あって、実のところ
よく分かっていません。
古語で実が多く、重なりあうことを重実(しきみ)と呼んでいたことに由来すると言うのが
有力ですが、その他では、種子が猛毒であることから「悪しき実」とする説や、
土葬が行われていた時代に埋葬した遺体が動物などに依って掘り荒らされないように、
遺体の上に有毒の樒の葉を敷き詰めたことから「敷き身」が語源とする説などがあります。
シキミ <モクレン科 シキミ属> 常緑小高木
花弁と萼片は共に線状披針形で
12個づつあります
名は桜でも桜に非ず
谷の源頭や風化花崗岩質の崩壊地で見られる落葉高木です。
名前だけを聞くとサクラの仲間のようですが、バラ科でもサクラ属でもありません。
この樹木は一科一属で、フサザクラ科/フサザクラ属/フサザクラとなります。
この花には、花弁や萼が無く、画像の赤く新芽のように見えているのは、多数の雄蕊で、
葯の長さは6~7㍉ほど、雌蕊も多数あり、柱頭はゴルフのクラブのように膨らみます。
谷や崩壊地など、不安定な場所を好んで生えますが、土石流などで埋もれると、そこで
地上茎を伸ばして再生する強さを備えています。
果実はニレの果実に似た扁平な翼状で、種子は1個、黄褐色に熟すと風に飛ばされます。
フサザクラ <フサザクラ科 フサザクラ属> 落葉高木
イワナシは山地~亜高山帯の礫質土壌の崖などに生えるツツジ科の小低木です。
関西での花期は通常4月末~5月中旬なので、この個体は少し早咲きということになります。
左の葉が虫食い状態でかなり傷んでいますが、これは去年の葉で、この時期は残念ながら
葉が全て無傷で揃っているものはほとんどありません。
和名は夏に熟する直径1㌢ほどの果実が、梨の味に良く似ていることによります。
イワナシ <ツツジ科 イワナシ属> 常緑小低木
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葉は革質で固く、縁に褐色の
剛毛があります。
花冠は淡紅色で釣鐘形、縁は
5裂しています。
茎は地面を這って伸び、上に
は伸びませんが、低いながら
樹木(木本)に分類されます
モクレンとハクモクレンは、同じモクレン属で日本の山野に自生する、コブシやタムシバと異なり、
中国が原産地の渡来品種です。
渡来した年代は定かではありませんが、元禄時代に出版された園芸書「花譜」には
既にモクレンに関する記述があるそうですから、江戸時代前期かそれ以前と考えられます。
画像はハクモクレンで、この木は成長すると、大きいものでは10~15㍍の大木になります。
花には花弁が6個と、萼片が3個ありますが、花弁と萼片はどちらも長さ7~8㌢で
区別するのがちょっと困難です。
蕾の先が必ず北を向くという意味から、コンパスフラワーと呼ばれるそうですが、同じ木で
特定の方向に揃って咲く傾向は見られるものの、必ず北を向くということでもないようです。
因みに、この木ではほとんどの花が南を向いていました。
ハクモクレン <モクレン科 モクレン属> 落葉高木
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山野の早春に咲く花木の代表とも言える花です。
本州以南なら何処ででも見られるツバキ科の普通種ですが、中世にはこのヤブツバキから
明石潟(あかしがた)、聚楽(じゅらく)、抜筆(ぬきふで)京唐子(きょうからこ)などの
美しい園芸種が作られました。
最近では、洋種ツバキなども加わり、園芸種のツバキはかなり種類が豊富です。
しかし、そういった人間の手を加えずとも、別名ヤマツバキとも呼ばれるこのヤブツバキ、
珍しくはないものの、気品をそこなわず、華美に流れず、普通に美しい花です。
普通であることをもって至上とするならば、この時期、これほど美しい花はないでしょう。
もうすぐ春爛漫と咲く桜もいいですが、早春の里山で人知れず咲くこの花の奥ゆかしさが
私は好きです。
昔、聞かされた歌にこんなのがありました・・・
「見よ 深山の奥に花ぞ咲く 真心尽くせ人しらずとも・・・」
ヤブツバキ <ツバキ科 ツバキ属> 常緑高木
日本の鎖国時代、日本に西洋医学を
伝授したドイツ人医師、シーボルトは
一方では、大変なプラントハンターで
帰国する際に、日本産のツバキを
何種類か持ち帰りましたが、当時
のヨーロッパではツバキ科の植物に
馴染がなかったので、日本産のバラ
として紹介していたそうです。