昼前から雪が降りだした。家にいても身動きとれないし、夜にはシアター・ドラマシティである演劇『大人は、かく戦えり』を観るので早めに梅田に出ることにした。時間つぶしは5月の開業を目指して工事が進んでいる大阪駅の周辺をウロウロと見てまわることと、こちらの方のどの本屋に行っても置いていない『お順』の下巻を手に入れるため大型書店に行くついでに本のジャングルをさまようこと。
大阪駅のホームの上にできた連絡通路に初めて行ってみた。雪とまだ工事中ということもあり思っていたほどの景色ではなかった。しかし、工事現場をぐるりとまわってみてきたが完成したらずい分感じが変わるだろうなと実感した。
本屋はでかすぎて、本に出会うという悠長な心構えにはなれなかった。『お順』の下巻を見つけた後は興味のあった『よむ、詠む、読む』を検索コーナーで調べて狙い撃ちしただけであった。ブラブラ見て歩くだけでも刺激になったが本との思わぬ出会いはなかった。程好い時間になったのでシアター・ドラマシティのすぐ近くにある“家族亭”でいつものように腹ごしらえをすることにした。(ここから先の文章は少しきどっている。家族亭でほろ酔い気分で時間待ちしながらリアルタイムに書きつけたからである。)
私はこういう場面が好きである。開場の1時間前に劇場のすぐ近くの食堂に入る。中はガランとしている。「お一人様、7番テーブルです。注文待ちです。」と元気の良い店員の声。料理とグラス一杯の焼酎をお湯割りで注文。ちびりちびりと飲みながら、さっき買った本を読む。店員のキビキビとした声がとびかうようになる。「三人様こちらへどうぞ」「2番テーブル注文をうけました」「おまちどうさま」「毎度ありがとうございます。10番テーブルさん御会計です。」目を上げて見渡すといつしか店は満員になっている。大半はこれから始まる演劇を待つ人たちであろう。何となくこれから始まる異空間への期待に満ちたはなやかさがある。見ず知らずの所で毎日を生きている人たちが偶然、雪をものともせず、ここに集まってくる。私のまわりにはたくさんの会話がとびかう。そのすべてが心地よいBGMとなる。奥に厨房が見える。客のくつろいだ空気とは違って、真剣なまなざしと無駄のない動きがある。客と店員と料理人のハーモニーが店には欠かせない。開場の時間が近づくとそそくさと席を立つ人が増える。もう1杯おかわりもしてすっかりほろ酔い気分になった私もふらりと立ち店を出る。開場を待つ人の行列ができている。全席指定なのになぜか人は並ぶ。女性トイレの前にも長蛇の列。いつもの光景だがないとさみしい。座席のシートに身を沈め、幕が上がるのを待つ。大竹しのぶと段田安則。秋山菜津子と高橋克実の演じる2組の夫婦による会話劇に思いをはせる。開演前の会場はヒソヒソとした話し声のつつまれる。この幕が上がるまでの空気の流れも観劇の醍醐味の1つである。
1時間20分の一幕。4人の男女のからみあいに心をくすぐられ、大いに笑いました。星田駅からチラチラと雪の降る中、すべらないように雪をふみしめて帰る。自動車もめっきり少なく静かな夜である。最後にある70段の階段。いつもと感じが違い、ロマンチックな気分で登る。今日はバレンタインデーでもあった。万葉集より2首。
ひさかたの 月夜を清み 梅の花 心開けて 我が思える君
雪の上に 照れる月夜に 梅の花 折りて贈らむ 愛(は)しき児(こ)もかも
大阪駅のホームの上にできた連絡通路に初めて行ってみた。雪とまだ工事中ということもあり思っていたほどの景色ではなかった。しかし、工事現場をぐるりとまわってみてきたが完成したらずい分感じが変わるだろうなと実感した。






ひさかたの 月夜を清み 梅の花 心開けて 我が思える君
雪の上に 照れる月夜に 梅の花 折りて贈らむ 愛(は)しき児(こ)もかも