[注釈]
* m’attachant toujours a` ce bout de pain trempe’ : je restais immobiles という状況からすると、s’attacher a`... は、「…に集中する」と理解するのがいいでしょう。
* ce furent les e’te’s (...) qui firent irruption dans ma conscience, : みなさんしっかり読めていましたが、ce furent... qui の強調構文であることに注意して下さい。
* Alors je me rappelai : (…) : Moze さんが指摘されるように、rappelai の後の : が抜け落ちてしまっていました。ぼくが使用している安手のスキャナーは、ドゥ・ポアンなどがなかなか読めないようです。
[試訳]
私はじっとしていた。少しでも動けば、なんだか分からないけれども、私の中で起っていることを遮ってしまうのではないかと不安だった。そして数々の奇跡のような出来事を生み出しているように思える、紅茶に浸されたあの一切れのパンにずっと集中していた。すると突然、私の記憶の仕切りががたがたと揺すられ、動いた。そして私の意識に突然現れたのが、さっき話題にした田舎の家で過ごした夏だったのだ。夏の数々の朝とともに、膨らみ続ける至福の時間が隊列を組んで、私の意識に忽然と現れたのだ。それで想い出した。毎日寝間着を着替えると祖父の部屋へ降りて行ったのだった。祖父は起きるなり、紅茶を飲んでいた。ビスコットを一枚紅茶に浸して、私にすすめてくれたのは祖父だった。そして、そうした夏が去ると、紅茶に浸され柔らかくなったビスコットの感覚が、死んだ時間の - 知性にとっての死んだ時間 - 隠れ家となり、そうした時間がそこに身を潜めていたのだ。雪に凍えて帰って来たあの冬の夕べ、もしお手伝いが私に紅茶をすすめてくれなかったら、その時間を私は永遠に見出すことはなかったであろう。時間の蘇生は、私が知らずに結んだ魔法の契約によって、紅茶と結びついていたのだった。
……………………………………………………………………………………..
プルーストは、サント=ブーヴが作家の実人生のあり方とその作品とを安易に結びつけて考察するその方法を、厳しく批判していました。それが、Contre の意味するところだ、と言っていいでしょう。
「一冊の書物とは、私たちが習慣や、社会や、悪癖において明らかにする自己とは異なる、もうひとつ別の自己が生み出したものである」(『サント= ブーヴに反論する』)
プルーストは、文学創造とは、作家が内的な自己を再発見、再創造する営みである、と考えていたようです。
Shoko さん、冷え込む朝に、布団の温もりを犠牲にして訳文を送って下さったのですね。ありがとう。でも、眠りや夢を大切のするというは、プルースト文学の本質に適ったありかたです。とはいえ、ぼくは、睡眠時間を人並みにもう少し減らせば、もっとたくさん本を読めるのにという反省を、学生時代から今に至るまでくり返しているという始末ですが…。
さて、次回からは、趣をがらりと変えて、フランス国立人口統計所の前所長へのインタビュー記事を読むことにします。少子化対策に成功した、フランスの福祉政策の核心が語られます。週末までには、テキストをお送りするようにします。
Smartcel
* m’attachant toujours a` ce bout de pain trempe’ : je restais immobiles という状況からすると、s’attacher a`... は、「…に集中する」と理解するのがいいでしょう。
* ce furent les e’te’s (...) qui firent irruption dans ma conscience, : みなさんしっかり読めていましたが、ce furent... qui の強調構文であることに注意して下さい。
* Alors je me rappelai : (…) : Moze さんが指摘されるように、rappelai の後の : が抜け落ちてしまっていました。ぼくが使用している安手のスキャナーは、ドゥ・ポアンなどがなかなか読めないようです。
[試訳]
私はじっとしていた。少しでも動けば、なんだか分からないけれども、私の中で起っていることを遮ってしまうのではないかと不安だった。そして数々の奇跡のような出来事を生み出しているように思える、紅茶に浸されたあの一切れのパンにずっと集中していた。すると突然、私の記憶の仕切りががたがたと揺すられ、動いた。そして私の意識に突然現れたのが、さっき話題にした田舎の家で過ごした夏だったのだ。夏の数々の朝とともに、膨らみ続ける至福の時間が隊列を組んで、私の意識に忽然と現れたのだ。それで想い出した。毎日寝間着を着替えると祖父の部屋へ降りて行ったのだった。祖父は起きるなり、紅茶を飲んでいた。ビスコットを一枚紅茶に浸して、私にすすめてくれたのは祖父だった。そして、そうした夏が去ると、紅茶に浸され柔らかくなったビスコットの感覚が、死んだ時間の - 知性にとっての死んだ時間 - 隠れ家となり、そうした時間がそこに身を潜めていたのだ。雪に凍えて帰って来たあの冬の夕べ、もしお手伝いが私に紅茶をすすめてくれなかったら、その時間を私は永遠に見出すことはなかったであろう。時間の蘇生は、私が知らずに結んだ魔法の契約によって、紅茶と結びついていたのだった。
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プルーストは、サント=ブーヴが作家の実人生のあり方とその作品とを安易に結びつけて考察するその方法を、厳しく批判していました。それが、Contre の意味するところだ、と言っていいでしょう。
「一冊の書物とは、私たちが習慣や、社会や、悪癖において明らかにする自己とは異なる、もうひとつ別の自己が生み出したものである」(『サント= ブーヴに反論する』)
プルーストは、文学創造とは、作家が内的な自己を再発見、再創造する営みである、と考えていたようです。
Shoko さん、冷え込む朝に、布団の温もりを犠牲にして訳文を送って下さったのですね。ありがとう。でも、眠りや夢を大切のするというは、プルースト文学の本質に適ったありかたです。とはいえ、ぼくは、睡眠時間を人並みにもう少し減らせば、もっとたくさん本を読めるのにという反省を、学生時代から今に至るまでくり返しているという始末ですが…。
さて、次回からは、趣をがらりと変えて、フランス国立人口統計所の前所長へのインタビュー記事を読むことにします。少子化対策に成功した、フランスの福祉政策の核心が語られます。週末までには、テキストをお送りするようにします。
Smartcel