エネルギーは実体か?

2008年08月14日 | 心の教育

 過去の記事「この世界には実体は存在しない:諸法無我」(2005.12/25)に対して、最近、以下のようなコメント・質問をいただきました。

エネルギーは実体ですね。
「実体」の3条件
①それ自体で存在することができる。
②それ自体の変わることのない本性・本質をもっている。
③いつまでも・永遠に存在することができる。
を満たしているから。そうすると、私や、色々な物体もエネルギーという実体を抱えている(エネルギーの塊)から空ではないのでないでしょうか。お釈迦様の時代には、"エネルギー不変"という概念は無かった(そんな科学が無かった)から止むを得ないと思います。
でも、未だに「すべての存在は非実体である」と言うのはおかしいのではないでしょうか。勿論、質量もエネルギーの一種です。又、エネルギーは形式を変え、分散したり、集中したりします。でもトータルのエネルギー量は変わりません。私はお釈迦様の教えは正しいとおもいつつ、この事で非常に悩んでいます。良きご指導のほどをお願いします。(後略)

 それに対して、コメント欄にはまず以下のように書かせていただきました。


 とても重要なご質問有難うございました。
 とても重要なので、ご質問をその答えを読者のみなさんと共有したく、本文記事でくわしくは書かせていただきます。
 ただ一つだけ、ここでお答えしておきますと
 阿含経などを読んでみても――私の解釈では――仏教においては教えはどこまでも方便だ、と思います。
 それは、「縁起」や「空」といった仏教の基本的教えでさえそうだと思われます。
 ですから、とりあえず空というコンセプトが私たちの知るかぎりのほとんどすべてに当てはまるということで納得し、後は空体験をしてマナ識、アーラヤ識の浄化を進めていく、という修行実践にとりかかることが肝要かと思いますが、いかがでしょうか。


 しかし、私の考えをもう少し詳しく書かせていただき、読者のみなさんと共有したほうがいいと思いましたので、続きを含め記事欄にしました。

 ゴータマ・ブッダの教えの基本線は非常に妥当性が高いと思いますが、ご指摘のとおり、現代のような科学が――自然科学だけでなく、社会科学も人文科学とりわけ心理学も――なかったのですから、足りないところがあって当然です。

 ですから、ブッダの教えと現代科学の理論が万一矛盾したとしても、あまり悩まれる必要はないのではないか、と思いますが、いかがでしょう?

 私たちは、「多くの聖者・賢者が絶対に正しいことを知っていて、それを私たちに教えてくれる。その結果、私たちも絶対に正しいことを知っている人間になれる」ということを期待しがちですが、そういう姿勢は必然的に「~原理主義」に陥って、独善性・排他性を生み出すので、何教、何主義にかかわらず「原理主義」は避けたほうがいい、と私は考えています。

 しかしそれはそれとして、エネルギーは「実体」ではないのか、という問いは理論的にはとても重要だと思いますので、私の考えを書かせていただきます。

 私の知るかぎりの現代科学の考え方では、宇宙はただ一つのエネルギーの塊である以前は物質でも空間でも時間でも、エネルギーでさえない時があった、その状態はもはや「無」と呼ぶほかない(ビレンキンの説)ということになっているようですから、その無から――それとの関わりで――創発したという意味で縁起的であり(①の否定)、無だったものがエネルギーに変化したのですから変わらない本性はなかったというべきでしょう(②の否定)。

 ですから、エネルギーも「実体」とは言い切れないのではないでしょうか。

 ただ、最近の宇宙膨張の観測によれば、私たちのこの宇宙はほぼずっと拡大しつづける――永遠に?――ということになったようですから、無だった過去はともかく未来に向かってはずっと存在するのかもしれませんから、③は当てはまる?ような気もしますが、しかし薄くなり続けるのですから、やはり無常といったほうがよさそうです。

 お答えになったでしょうか?

 さらにしかし元に戻ると、ブッダにとって、仏教にとって、私たちにとってより重要なのは、縁によって生まれてきた形あるさまざまな存在(諸法)、特に私たち人間のこの体と心の形が「空」であり、ということは、すべて形ある存在は実はつながりあっていて一つであるということであり、さらに私たちがそういう言葉で表現されたことそのものを言葉を超えて直接体験することによって、安らかな心になり、他者と自己とが区別はできても分離していないことに気づいた柔らかな心になることだ、と私は捉えています。

 もしすでに修行をしておられるようでしたら、ぜひ理論に滞らず、行を深めていただきたいと思いますし、まだでしたら、よき師を求めて修行をお始めいただけるようお祈りしております。




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コメント (2)
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