ふわり・舞う・毎日

気持ちに余裕がないと、心の泉が枯れちゃうもんね。

ドキュメント0401~その3

2009年04月11日 | 極私的記録
「その3 LDRの長い一日の始まり」

病院に到着した私は、さっそく処置室へ入り内診を受ける。
「子宮口は4センチ開いてますね。産道も柔らかくなっているし、このまま入院してください」
とのこと。
いよいよ始まる。

渡された病衣を着ると、とたんに患者の気分になる。
でも相変わらず痛くない間は、自分が何故病人のような格好をしているのかがわからないくらいの気楽さだった。
3部屋あるLDRはどれも空室で、そのうち洋室仕様で私が密かに狙っていた「さくら」の部屋に自分の名札がかかっている。
心の中で「ヤッタ」とにんまりしながら、荷物を運び入れる。

さくらのLDRには、入ってすぐに二人がけのソファー、産婦専用のトイレ、そしてベッド、脇にはカバーのかかった分娩台が置かれていた。
私はさっそくベッドに横になり、先に言われていた通りB群溶連菌の母子感染を予防するための点滴をされる。
と同時にNSTを使っての胎児の心拍モニタリングや、血圧脈拍チェックなどの処置をされる間も、陣痛は遠くも短くも強くも弱くもならず、同じ強さで同じ間隔で繰り返しやってきていた。

一通りの処置が終わって、ただベッドの上で陣痛が強くなるのを待っていた午前4時過ぎ。
静かだった病棟が、不意に騒がしくなった。
と思ったらいきなり間近で、
「ハイ、深呼吸! はぁ、はぁ、はぁ、よ! まだいきまないで!」
「深呼吸しないと、赤ちゃんに酸素がいかないわよ!」
という臨場感あふれる声が響いてきた。
それに合わせて苦しそうな妊婦さんの声。
さっきまで誰もいなかったはずの隣のLDRから聞こえてくる。
妊婦さんの叫び声を聞いていると、こちらまでお腹が痛くなってくる。
と同時に、こんなに外まで声が漏れるんだ、とちょっと不安にもなる。
後で知ったのだが、そのLDRに運ばれてきた妊婦さんは、病院に着いた時点で子宮口が全開、車椅子で病棟まで連れてこられたらしい。
そんなわけで準備も慌しく、本来なら閉まっているはずのLDRのドアが開いたままになっていて、隣の部屋の私たちのところまで声が響いてきたようだ。
廊下にあるトイレに行きたい穂和も、隣のドアの前を通り過ぎることを躊躇して部屋から出られない。

「もう少しで頭が出るからね!」
「ハイ、いきんで!」
そして突然、フギャーッという、元気な赤ちゃんの声。
音だけ聞いていた私まで、思わず涙ぐみそうになる。
午前4時45分。
運ばれてきて一時間も経たないうちに、隣部屋の出産は終わった。
赤ちゃんが運び出された後、ようやくLDRのドアは閉じられたらしく、病院内には急に静けさが戻った。

あんな風にしてことは進むんだ……。

ちょっぴり不安なような、もうどうせならさっさと来て欲しいような、複雑な気分だった。


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その2 いざ入院へ」へ
その4 まだ続くLDR生活」へ
その5 ようやく出産へ」へ
その6 援護射撃」へ
その後 入院生活編」へ


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