以下は8/19に産経新聞に掲載された、杉山晋輔前駐米大使へのインタビュー記事からである。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。
強烈な遺功 後継者の試金石に
安倍晋三元首相の評価は国内で定まっていないようであるが、外交官として対外政策のお手伝いをした観点からだけは言えることがある。
事実の問題として、国際社会であれだけ知名度があり、信頼され、存在感を示した人は稀有だ。
「自由で開かれたインド太平洋」も日米豪印の「クアッド」も、もともとは安倍氏のアイデアだ。
安倍氏なくしてこの話はなかった。
構想力発信力、外交力で非常に光った存在だった。
私が「やっぱり安倍さんはすごい」と思ったのは2014年6月にベルギーの首都ブリュッセルで開かれたサミット(先進7力国首脳会議)だった。
その年3月にロシアがウクライナのクリミアを併合し、会議はウクライナ一色だった。
私は外務審議官として同席したが、オバマ米大統領(当時)が突然、事前の根回しもなく対露制裁強化を含む提案をした。
他の首脳が「なんだ、いきなり」と反発して大げんかになった。
安倍氏は45分間ぐらいメモを書きながら黙っていたが、手を挙げて「オバマ大統領のやり方は乱暴だが、言っていることは正しい。みんなの話を聞いていると、4点ぐらいだったら合意できるのではないか」と説明し始めたのだ。
その上で「一番大事なのはG7の結束を保つことだ。この点数で結束を保とう」と呼びかけると、ドイツのメルケル首相(同)が「シンゾーの言うりだ。もう終わり。これをG7の合意事項にしよう」と。
みんな安倍氏に握手を求め、オバマ氏は「サンキュー、シンゾー」とハグした。
域外の日本が欧州のウクライナの問題をまとめ、G7の合意を作った。
しかも事務方が用意した案ではなく首相が目分で考えてやった。
あれは一生忘れない。
トランプ前米大統領が2016年11月の選挙で勝利した直後に米ニューヨークでトランプ氏と会ったことも決定的だった。
まだ就任前で、オバマ氏が現職大統領だったから、外務省だけでなく、ほとんどの人が反対だったが、安倍氏は「自分はやる」と。
後にトランプ氏の最側近から聞いたが、「あれで自分は外交もできるといえたんだ」と語っていたそうだ。
安倍氏は日本の外交力や発信力は決して捨てたものではないことを示した。
合理的なことを言うので外国政府も話に耳を傾ける。
日本が考えているよりも頼りにされているし、尊敬されている。
リーダーがそれを象徴する。
岸田文雄首相は外相時代にお仕えしたが、大変しっかりされている。
ただ安倍氏ほど国際的に名前が売れている人はいない。
その跡を継ぐのは大変だ。
安倍氏と同じぐらいのイニシアチブをとって存在感を示さないと「安倍はすごかった」で終わってしまいかねない。
だが、これは首相にとってチャンスでもある。
岸田カラーを出して、G7広島サミットを成功させれば、安倍氏のような国際的な指導者になるのではないか。
(聞き手 杉本康士)
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