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中国が歪める「アルバニア決議」

2024年11月29日 18時10分27秒 | 全般
以下は、本日の産経新聞「正論」からである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。

中国が歪める「アルバニア決議」
渡辺 利夫  拓殖大学顧問
中国と台湾をめぐり  
「アルバニア決議」と通称される第26回国連総会2758号決議が成立して50年が経つ。
近年、中国は、この決議をもって国際社会が「1つの中国」を認めた証しだと強調するようになった。
中国が台湾への武力行使を決断した場合、中国はこれを「一つの中国」内部の”内戦”として喧伝し、武力行使が国際的に非難さるべき問題として扱われるのを極力避けたいという思惑がうかがわれる。
アルバニア決議とは何かといえば、国共内戦に勝利して大陸を実効支配するにいたった中華人民共和国(中国)が、内戦に敗れて居を台湾に移した中華民国(台湾)に代わって国連の代表権をもち、かつ国連常任理事国たるべきだ、という内容の国連総会決議のことである。
核心部分はこうである。  
「中華人民共和国の代表が国連における中国の唯一の合法的な代表であり、中華人民共和国が国連安全保障理事会の五つの常任理事国の1つであることを承認する。中華人民共和国のすべての権利を樹立して、その政府の代表が国連における中国の唯一の合法的な代表であることを承認し、蒋介石の代表を、彼らが国連とすべての関連組織において不法に占領している場所からただちに追放することを決定する」 
表現は台湾にとっていかにも厳しい。
しかしこの決議は、国連における中国の代表権問題に決着をつけるためのものであって、台湾が中国の一部であるという「1つの中国」原則を認めたものではない。
アルバニア決議に対する台湾外交部の立場は、「中華民国台湾は主権独立の民主国家であり、中華人民共和国とは互いに隷属していない。台湾の民主的選挙によって選ばれた政府のみが、国連体系を含む国際社会において台湾に住む2350万人の人々を代表する権利を有する」である。 
牽強付会とは、事実や道理に合わないことを自分に都合のいいようにこじつけることの意である。 

牽強付会な中国の主張 
アルバニア決議をもって「一つの中国」原則を国際社会が認めたものだという中国の主張は、牽強付会以外の何ものでもない。
”戦わずして勝つ”ための中国の三戦の一つ「法律戰」のつもりなのであろうが、ここまでくれば乱用である。 
この点で思い起こすことがある。
1972年の日中共同声明発出に際して、台湾が「中国の不可分の一部」であるという中国の主張を日本は「理解し、尊重する」というにとどめ、「1つの中国」を認めることはなかった。
その理由として、当時、共同声明の作成に加わった外務省条約局の栗山陽一氏は後に、「もし日本が(一つの中国)を認めてしまえば、台湾に対する中国の武力行使は国際法上(内戦)の一環として正当化され、他方、台湾防衛のための米国の軍事行動を我が国が支持する法的な根拠が失われてしまう」 (霞関会会報、2007年10月)と述べたのだが、現在までを見据えた慧眼であった。 
牽強付会というより、存在するかしないか不分明なものを存在すると決めつけ、これを確定的なものとして相手に迫るという強引な手法も中国に固有のものであろう。
典型例が「1992年コンセンサス」(「九二共識」)であり、これが現在の中国の「1つの中国」原則の最も重要な柱となっている。 

中国の法律戦に対抗を  
「九二共識」とは、92年10月に香港で開かれた海峡交流基金会(台湾側窓口機関)と海峡両岸関係協会(中国側窓口機関)による会議において合意されたものだという。
中台双方が「一つの中国」を認めるものの、その解釈については中国側が中華人民共和国を、台湾側が中華民国を意味する、というものであったらしい。  
「らしい」というのは、九二共識には合意文書は存在せず、当時の台湾総統の李登輝氏も台湾側代表として香港での交渉に当たった辜振甫氏もその存在を認めていないからである。
この「幻の合意」について中国側は、これこそが両岸交流の基礎であり、これを認めなければ両岸同胞の利益は大きく損なわれる、という立場を崩していない。
重要文書である2021年11月の六中全会における「歴史決議」では「我々は一つの中国原則と92年コンセンサスを堅持し、台湾独立をもくろむ分裂勢力活動に断固として反対する」と、中国の態度を鮮明に表明している。 
中国の法律戦といえば、いかにも強面のイメージがあるが、国際的な合意、決議、声明などについて中国独自の解釈を加え、この解釈を国際社会や相手国に強引に浙し付けるといった場合が多い。
戦狼外交とは、中国の外交官による攻撃的な外交スタイルのことである。
中国の台頭はもはや不可避のものであり、これに抵抗してもかなうものではない、中国の主張はこれを受け入れるより他あるまい、という傲慢不遜の外交である。
中国の法律戦に対抗する法律戦をわが方も構えねばならないということであろう。


2024/11/29 in Kyoto

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