日本は出来るだけ早く、かつ顕著に自衛隊と海上保安庁を強化し、中国への抑止力としなければならない
2021年11月04日
以下は、本日発売された週刊新潮の掉尾を飾る櫻井よしこさんの連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義する国宝、至上の国宝である事を証明している。
自民大勝利、立民共産大惨敗の意味
衆議院議員選挙で岸田自民党は予想外に善戦し261議席を獲得した。
その岸田文雄首相と選挙前の10月29日、「言論テレビ」で対談した。
岸田氏はコロナ、経済、安全保障を三つの重要政策として訴えたが、焦眉の急は安全保障問題だ。
日本維釿の会が41議席と大躍進し、公明党も32議席をとり3党で憲法改正に必要な3分の2以上も獲得した。
自衛隊の強化、改憲などの公約を自信をもって進める力を得た。
10日程前、中露両海軍の10隻の艦隊が日本をほぼ一周した。
専門家は中国人民解放軍が投入した新型艦艇、レンハイ級ミサイル巡洋艦「101(南昌)」に注目する。
レンハイ級101は射程2000㌔を誇る中国版トマホークを搭載していた。
この演習について、中国国防省報道官の譚克非氏は「より実戦的になり対抗性が大幅に向上した」と語った。
最新鋭艦レンハイ級101の投入で艦隊全体の威嚇力が大幅に強化されたと誇ったのだ。
従来のミサイルより射程の長いトマホーク型の搭載に加えてレンハイ級101はより強力な垂直発射システム(Vertical Launching System)を備えている。
VLSについてはミサイルを縦に入れる「セル」が幾十も集合して積載されている形をイメージすると分かり易い。
攻撃のとき、ミサイルはセルから次々に発射される。
セルの数は、日米のイージス艦の96発分に較べてレンハイ級101は100を超える3桁の規模だ。
セルには艦対空、艦対地、艦対艦のどの種類のミサイルも積める。
中国はこのタイプの巡洋艦を8隻建造中で、一番艦の就役式にはわざわざ習近平国家主席が出席して現場の士気高揚をはかった。
岸田首相には言論テレビで日々深刻化する中国の脅威について尋ねた。
極超音速ミサイルに地球を周回させ、相手国の防御態勢の薄い角度からミサイルを撃ち込む構えの中国にどう対処するかと問うた。
「私が外務大臣だった2013年の年末に、現在の国家安全保障戦略が作成されました。そのときから今まで約8年間、中国の状況は随分と変わりました。極超音速ミサイル、変則軌道、超低空ミサイルなど、技術はどんどん進歩している。SFの世界だった宇宙やサイバーが、現実の安全保障の重要なポイントになっています。東シナ海、島嶼防衛のあり方について、日本は色々と考えなくてはいけない」
考えた上で具体的に何をするのか。
「中国の位置づけからはじまって見直すべきところは沢山ある。国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防は今のままでよいのか。国家安全保障会議において、既に私から見直しと改定の議論を始めるよう指示を出しました」と、首相は答えた。
首相の指示は理に適っている。とても重要なことだ。
日本人は長い間軍事のことなど殆ど考えないで暮らしてきたが、中国の果てしない軍事力の構築と軍事的恫喝は、間違いなくこれからさらに酷くなる。
中国はより横暴になる。
中国に勝手な行動をさせないためには、日本の側が冷静で強くなければならない。
凄まじい軍拡
しかし、私たち一般国民が、そして政治家が、軍事についてきちんと理解しておかなければ正しい判断などできない。
そこで今更ではあるが、大事なことを肝に銘じたい。
わが国の安全と国民の命を守るのは、わが国政府と自衛隊だという厳正な事実だ。
日米同盟は、日本が一方的に米国に頼るものではない。
わが国を守るのはわが国でしかないということを、国民全員が共有しなければならない。
これは口にするのも恥ずかしい程、当然のことだが、この当然のことが共有されていないために、わが国は憲法改正も未だに実現できていない。
岸田首相が改定を指示した国家安全保障戦略は日本の安全保障の方向と枠組みを示すもので、わが国の国防戦略の土台である。
安全保障戦略を実現するための大枠の政策が防衛大綱だ。
防衛大綱を実地に進める具体策、たとえば武器装備など、現場の軍事力を整えるのが中期防衛力整備計画(中期防)である。
これらは5年10年単位で計画される。
現時点で策定済みの計画はあと2年間分残っている。
平時なら、そのまま行けばよい。
だが今は平時ではない。
中国は前代未聞の凄まじい軍拡をやめない。
台湾海峡上空に何十機もの爆撃機を飛行させ、恫喝を続ける。
尖閣領海に我が物顔で侵入し続け、艦隊を組んで日本を周回する。
このような状況だからこそ、日本は出来るだけ早く、かつ顕著に自衛隊と海上保安庁を強化し、中国への抑止力としなければならない。
中国を深刻な脅威と位置づけて、その考え方をわが国の安全保障戦略に反映させなければならない。
究極の事例
岸田氏は、このような状況を見て取り、3つの戦略戦術についての見直しを指示した。
では、いつまでに見直すのか。
国家安全保障戦略の修止は深い思慮と覚悟をもって、しかも猛スピードでやり遂げなければならない。
防衛政策は急には変えられないため、早く始めることが大事だ。
令和3年も終わりに近い今、令和4年は既定路線で行くしかないというのが専門家の考えだ。一方で国家安全保障戦略以下中期防までの計画は来年冬までに根本的に見直して、令和5年には防衛力強化に力強く踏み込むのが日本を守る道だ。
今回の衆院選では日本共産党が力を落とした。
共産党と共闘した立憲民主党は惨敗した。
日米同盟の廃棄及び自衛隊の事実上の消滅を党綱領で公約し、中国とは話し合いで問題を解決せよという志位和夫氏と共産党を有権者は拒否したのだ。
日本が今、どうしてもしなければならない安全保障戦略の見直しや防衛費の顕著な増額を国民は支持してくれるだろう。
いまこそ私たち国民は軍事に対する理解を進める時だ。
日本国民と日本国の守りには日本国そのものが責任を持たなければならないことは先述した。そこでひとつ、究極の事例を思い出そう。
東日本大震災の時、3月16日以降、米軍は福島第一原子力発電所から半径50マイル以遠で活動し、米国民に退避を勧告した。
当時の民主党政権は米国が日本を見捨てたのかと動揺した。
しかしこれは当たり前のことだと元航空支援集団司令官の廣中雅之氏は強調する(『軍人が政治家になってはいけない本当の理由』文春新書)。
一国の政府の最大の責任は国民の命を守ることで、米国は当然のことをしたまでだ。
本論文も彼女が最澄が定義する国宝、至上の国宝である事を証明している。
自民大勝利、立民共産大惨敗の意味
衆議院議員選挙で岸田自民党は予想外に善戦し261議席を獲得した。
その岸田文雄首相と選挙前の10月29日、「言論テレビ」で対談した。
岸田氏はコロナ、経済、安全保障を三つの重要政策として訴えたが、焦眉の急は安全保障問題だ。
日本維釿の会が41議席と大躍進し、公明党も32議席をとり3党で憲法改正に必要な3分の2以上も獲得した。
自衛隊の強化、改憲などの公約を自信をもって進める力を得た。
10日程前、中露両海軍の10隻の艦隊が日本をほぼ一周した。
専門家は中国人民解放軍が投入した新型艦艇、レンハイ級ミサイル巡洋艦「101(南昌)」に注目する。
レンハイ級101は射程2000㌔を誇る中国版トマホークを搭載していた。
この演習について、中国国防省報道官の譚克非氏は「より実戦的になり対抗性が大幅に向上した」と語った。
最新鋭艦レンハイ級101の投入で艦隊全体の威嚇力が大幅に強化されたと誇ったのだ。
従来のミサイルより射程の長いトマホーク型の搭載に加えてレンハイ級101はより強力な垂直発射システム(Vertical Launching System)を備えている。
VLSについてはミサイルを縦に入れる「セル」が幾十も集合して積載されている形をイメージすると分かり易い。
攻撃のとき、ミサイルはセルから次々に発射される。
セルの数は、日米のイージス艦の96発分に較べてレンハイ級101は100を超える3桁の規模だ。
セルには艦対空、艦対地、艦対艦のどの種類のミサイルも積める。
中国はこのタイプの巡洋艦を8隻建造中で、一番艦の就役式にはわざわざ習近平国家主席が出席して現場の士気高揚をはかった。
岸田首相には言論テレビで日々深刻化する中国の脅威について尋ねた。
極超音速ミサイルに地球を周回させ、相手国の防御態勢の薄い角度からミサイルを撃ち込む構えの中国にどう対処するかと問うた。
「私が外務大臣だった2013年の年末に、現在の国家安全保障戦略が作成されました。そのときから今まで約8年間、中国の状況は随分と変わりました。極超音速ミサイル、変則軌道、超低空ミサイルなど、技術はどんどん進歩している。SFの世界だった宇宙やサイバーが、現実の安全保障の重要なポイントになっています。東シナ海、島嶼防衛のあり方について、日本は色々と考えなくてはいけない」
考えた上で具体的に何をするのか。
「中国の位置づけからはじまって見直すべきところは沢山ある。国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防は今のままでよいのか。国家安全保障会議において、既に私から見直しと改定の議論を始めるよう指示を出しました」と、首相は答えた。
首相の指示は理に適っている。とても重要なことだ。
日本人は長い間軍事のことなど殆ど考えないで暮らしてきたが、中国の果てしない軍事力の構築と軍事的恫喝は、間違いなくこれからさらに酷くなる。
中国はより横暴になる。
中国に勝手な行動をさせないためには、日本の側が冷静で強くなければならない。
凄まじい軍拡
しかし、私たち一般国民が、そして政治家が、軍事についてきちんと理解しておかなければ正しい判断などできない。
そこで今更ではあるが、大事なことを肝に銘じたい。
わが国の安全と国民の命を守るのは、わが国政府と自衛隊だという厳正な事実だ。
日米同盟は、日本が一方的に米国に頼るものではない。
わが国を守るのはわが国でしかないということを、国民全員が共有しなければならない。
これは口にするのも恥ずかしい程、当然のことだが、この当然のことが共有されていないために、わが国は憲法改正も未だに実現できていない。
岸田首相が改定を指示した国家安全保障戦略は日本の安全保障の方向と枠組みを示すもので、わが国の国防戦略の土台である。
安全保障戦略を実現するための大枠の政策が防衛大綱だ。
防衛大綱を実地に進める具体策、たとえば武器装備など、現場の軍事力を整えるのが中期防衛力整備計画(中期防)である。
これらは5年10年単位で計画される。
現時点で策定済みの計画はあと2年間分残っている。
平時なら、そのまま行けばよい。
だが今は平時ではない。
中国は前代未聞の凄まじい軍拡をやめない。
台湾海峡上空に何十機もの爆撃機を飛行させ、恫喝を続ける。
尖閣領海に我が物顔で侵入し続け、艦隊を組んで日本を周回する。
このような状況だからこそ、日本は出来るだけ早く、かつ顕著に自衛隊と海上保安庁を強化し、中国への抑止力としなければならない。
中国を深刻な脅威と位置づけて、その考え方をわが国の安全保障戦略に反映させなければならない。
究極の事例
岸田氏は、このような状況を見て取り、3つの戦略戦術についての見直しを指示した。
では、いつまでに見直すのか。
国家安全保障戦略の修止は深い思慮と覚悟をもって、しかも猛スピードでやり遂げなければならない。
防衛政策は急には変えられないため、早く始めることが大事だ。
令和3年も終わりに近い今、令和4年は既定路線で行くしかないというのが専門家の考えだ。一方で国家安全保障戦略以下中期防までの計画は来年冬までに根本的に見直して、令和5年には防衛力強化に力強く踏み込むのが日本を守る道だ。
今回の衆院選では日本共産党が力を落とした。
共産党と共闘した立憲民主党は惨敗した。
日米同盟の廃棄及び自衛隊の事実上の消滅を党綱領で公約し、中国とは話し合いで問題を解決せよという志位和夫氏と共産党を有権者は拒否したのだ。
日本が今、どうしてもしなければならない安全保障戦略の見直しや防衛費の顕著な増額を国民は支持してくれるだろう。
いまこそ私たち国民は軍事に対する理解を進める時だ。
日本国民と日本国の守りには日本国そのものが責任を持たなければならないことは先述した。そこでひとつ、究極の事例を思い出そう。
東日本大震災の時、3月16日以降、米軍は福島第一原子力発電所から半径50マイル以遠で活動し、米国民に退避を勧告した。
当時の民主党政権は米国が日本を見捨てたのかと動揺した。
しかしこれは当たり前のことだと元航空支援集団司令官の廣中雅之氏は強調する(『軍人が政治家になってはいけない本当の理由』文春新書)。
一国の政府の最大の責任は国民の命を守ることで、米国は当然のことをしたまでだ。
うろたえたわが国の政治指導者には当事者意識が不足していた。
米国は同盟国だが、日米同盟は運命共同体ではない、との指摘こそ正しい。
国民の信任を得た岸田首相は大いなる気概を持ってわが国の安全保障政策を改め、自立国家への道を歩くのがよい。
米国は同盟国だが、日米同盟は運命共同体ではない、との指摘こそ正しい。
国民の信任を得た岸田首相は大いなる気概を持ってわが国の安全保障政策を改め、自立国家への道を歩くのがよい。
2021/4/30 in Nara