以下は23日に発売された週刊新潮の掉尾を飾る高山正之の連載コラムからである。
本論文も彼が戦後の世界で唯一無二のジャーナリストであることを証明している。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。
国威は消えた
教育水準の高い、例えば日本などを除いた国々ではエリートというと軍人を意味する。
なぜなら、どの国も「暴力装置」を握る軍人がヘンな思想や宗教にかぶれてもらっては困る。
豊かな常識人、国際人であってほしいと思う。
だから一般大衆の学校を作るのを措いてでも軍人の教育には惜しみなく予算をつぎ込む。
奴隷と先住民殺しで国をつくった米国ですら思いは同じで、建国間もなくウェストポイントに陸軍士官学校をつくり、まともな軍人を育て始めている。
成績がいい者には山本五十六が米国留学したように積極的に海外に送って見聞を広めさせている。
それでいい成績で卒業すれば、将軍はもとよりアイゼンハワーのように大統領にもなれた。
アルゼンチンではもっと徹底して海軍士官学校卒がこの国のエリートの必須要件になっている。
ここを出ないことには外交官にも高級官僚にもなれないのだ。
だから立派な軍人養成機関を持つ国では、指導者が暴政でも敷こうものなら軍人が懲らしめに立つこともままある。
いいクーデターもあるのだ。
中米コスタリカはその見本みたいで、悪い為政者ばかり出て、その都度クーデターが起き、新しい指導者が出てまた悪さをしてまたクーデターという悪循環を繰り返してきた。
そしたら何度目かの指導者がよくできたワルで、政権を取るとすぐに軍隊を廃止してしまった。
これならどんな悪さをしてもクーデターで倒される心配はないからだ。
朝日新聞はそんなコスタリカを、あの国も軍隊を放棄した、9条仲間だ、いい国だと大はしゃぎする。
日本人はあんな新聞を読んではいけない。
実はイスラム革命をやったイランのホメイニ師もまともな国軍を恐れた。
彼はまともな国だったイランを改変し、女に袋を被せ、酒を禁じ、不倫したら死刑にした。
いつクーデターが起きても不思議ではなかったからホメイニ師は将軍と名のつく者をみな銃殺した。
同時に軍人教育もやめた。
おかげで今までクーデターは起きていない。
そのイランとサウジアラビアとの間にペルシャ湾が広がる。
いや、その呼び名は不当だとサウジが言った。
確かに紀元前のアケメネス朝の時代からペルシャがこの辺の覇権を握ってきた。
ギリシャの学者プトレマイオスもここを「ペルシャ湾」と呼んだ。
しかし7世紀、勃興したアラブのイスラム軍団がついにペルシャを倒し、立場は逆転した。
アラブ人は以後ペルシャ湾をアラビア湾と呼んできた。
対してイランは歴史を盾にペルシャ湾の名を主張し続けた。
そこで戦争が起きたとき、米軍は「ペルシャ湾」でも「アラビア湾」でもなく単に「湾岸戦争」と呼んだ。
どっちにしても話がこじれるから名無しのガルフだけにした。
国際感覚を弁えた判断だと評価された。
その米軍がこの9月の米韓軍事演習の場所について「日本海」でなく「東海でやった」と広報した。
日本は大いに怒った。
日本海を囲む国々に日本並みの国家があったか。
みな分裂と野合の繰り返しで国名もなかったではないか。
そこで日本はロシアに勝った。日本海海戦と呼ばれる世界史的大事件だ。
三韓征伐も朝鮮征伐もみな日本海を押し渡っていった。
翻って韓国にはそんな派手な歴史はこれっぽっちもない。
まともな米軍は何を以て日本海を消し、歴史もない国の主張を容れたのか。
元幕僚長が言った。
いやいや日本の国威は軍隊を失った時点で消え始めた。
今では取られた竹島を取り返す意欲もない。
国威はとっくに失せたと思えと。
だから米軍も「日本海」を躊躇いなく捨て、埒もない国の言い分を通した。
世界はそれを日本の終わりと見たか。
円は今、底なしに売られている。