以下は今日の産経新聞に掲載された古森義久の定期連載コラム「あめりかノート」からである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
米中対立は文明の衝突なのか
米国と中国の対立は最近の両国高官の一連の会談にもかかわらず、険しさを増している。
特に米側では両国の対立は民主主義と全体主義という政治理念のぶつかり合いだけではなく、文明の衝突だとする新たな見解が議会や中国研究界の有力者から表明されるようになった。 「文明の衝突」論とは米中両国はそもそも歴史、文化、伝統、社会、民族などを総合した文明が異なることが衝突の主因だとする考察である。
米国の民主主義から中国の共産主義に対して個人の自由や人権の抑圧を非難するというイデオロギーの衝突だけではない、とする主張だ。
その差異には人種の違いまでが含まれるため断層の認識は格段と深く、険悪な色をも帯びる。
米国で最近、国政レベルで中国との対立を「文明の衝突」と定義づけたのは上院有力メンバーのマルコ・ルビオ議員だった。
共和党の論客として上院外交委員会で長年、活躍し、2016年の大統領選ではドナルド・トランプ氏に挑戦した政治家である。
ルビオ議員は今年舂、ワシントンの大手研究機関「ヘリテージ財団」における対中新政策発表の集会で基調演説し、以下の骨子を強調した。
「私たちは今の世界で人間関係のあり方をめぐる衝突に直面している。米国が建国以来、最大の価値としてきた個人の自由や創意に対し中国はその種の西洋的文明は資本主義とともに終わりつつあると断じて挑戦してきた」
「中国の共産党政権は個人の創意や批判を抑え、服従を強いる。この中国型モデルはいまの政治や政策を超え、中国の歴史そのものに由来する。国家や人間のあり方のこの種の挑戦は文明の衝突以外のなにものでもない」
ルビオ議員は以来、議会での対中政策論議などでこの「文明の衝突」論を表現を微妙に変えながらも繰り返してきた。
その見解が中国研究の大御所とされるマイケル・ピルズベリー氏に支持されたことも注目に値する。
同氏は中国の軍事戦略にとくに詳しく、米国の歴代政権の対外戦略、対中戦略の重要な地位に就いてきた。
ピルズベリー氏は現在はヘリテージ財団の中国研究の中心にあり、「新冷戦に勝つ 中国に反撃する計画」という長大な政策勧告書を発表した。
ルビオ議員が演説したのはその発表の集会だった。
ピルズペリー氏はその場でも「文明の衝突」に同意した。
同氏に直接、その点の見解を尋ねてみると、以下の答えが返ってきた。
「ソ連との対立はイデオロギーが主因だった。だが、ソ連とは宗教も含めて、西洋文明や歴史認識などといった共通項があった。一方、中国とは文明が異なる。民族、社会、歴史、文化、伝統などの総合という意味で、文明が異質なのだ」
「中国側でも習近平国家主席らが『中国は西側とは異なる例外的な文明を有しているのだ』とよく述べている。
その文明の相違は人種という要素をも含むため、細かな神経の配慮を要することにもなる」
この意見が現実の反映だとすれば、米中対立は政府高官の対話の推進などでは解決はほど遠いということになろう。
(ワシントン駐在客員特派員)