以下は本日発売された週刊新潮に掲載されている櫻井よしこさんの連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、至上の国宝である事を証明している。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
石破氏の北への大幅譲歩が心配だ
「恵子には、もう少し頑張って待っとけ、必ず救い出すから、といつも(心の中で)言ってるんです」
そう語っていた有本恵子さんの父、明弘さんが、2月15日、亡くなった。
96歳だった。
恵子さんの母、嘉代子さんも5年前、94歳で亡くなった。
そして42年前、英国留学中に23歳で北朝鮮に拉致された恵子さんはいま65歳のはずだ。
40年を超える歳月は、拉致被害者とご家族が日本国の能力の限界の前でも打ちひしがれることなく、国民の力を結集して闘い、それでも結果を出せずにきた苦しい日々だった。
横田早紀江さんは、誰よりも早くから恵子さん救出に向けて頑張ってきた有本さん夫妻に深い敬意を払う。
「お二人は私たちが家族会を結成する前から動いていました。地元の政治家(土井たか子氏)に、娘が平壌にいる、何とか救出してほしいと頼みましたが、(土井氏は)有本さんたちの訴えを無視しました。当時の日本社会党は拉致には極めて冷淡で、北朝鮮を賛美していましたから。外務省も人権委員会もまともに取り合ってくれず、お二人は孤立無援だったと思います。それでも私たちより前からずっと頑張ってこられました」
東京で開かれる拉致被害者救出を訴える集会に、明弘さんは遠くから駆けつけた。
私達は固い握手を交わしたが、娘の帰国を切望する父の手は、いつもとても冷たかった。
「お父さん、体を大事にしてくださいね」と心配して言うと、うんうんと頷く。
けれど日本国のふがいなさを訴える明弘さんの弁は、誰よりも熱かった。
そうした中、最初から有本夫妻の要請を真っ正面で受け止めたのが、若き日の安倍晋三氏だった。
総理となってからは、金正恩総書記との首脳会談を呼びかけ、米国の協力も仰いできた。
日朝関係の最大の課題は全拉致被害者の一括帰国を実現することであり、国交正常化はその後だと、安倍氏は心に定め、その目標に向けて一歩一歩詰めてきた。
本当に時間がない
他方、一部の国会議員は日朝国交正常化推進議員連盟を軸に、別の路線をとってきた。
彼らの目標は日朝国交正常化であり、拉致された国民の救出は事実上二の次で、安倍氏とは異なる優先順位を掲げてきた。
彼らはまず日朝間に連絡事務所を設けるべきだと主張する。
拉致に関してはそこで拉致被害者は何人か、どこにいるのか、どんな仕事をして生活しているのかなど諸々のことを調べて対策を取るという。
冗談だろう。
北朝鮮は他国の国民を国家権力で拉致したのだ。
帰国を果たした被害者の話から、拉致された日本人は北朝鮮で厳しい監視下に置かれていることがわかる。
今更調査しなくとも、北朝鮮当局は拉致された日本人の動向など全て把握している。
連絡事務所設置は北朝鮮側にとって拉致解決を先送りする格好の口実となる。
「調査しています」と言って時間稼ぎをする。
その間に日朝国交正常化をなしとげ、日本から兆円単位の援助を引き出す算段だ。
結果として日本側は取られるばかりで拉致被害者の救出は叶わずに終わってしまう可能性がある。
石破茂首相はなぜかこのような日朝連絡事務所開設に熱心だ。
早紀江さんが語った。
「実は訪米の前に、石破さんから電話がかかってきました。恐らく連絡事務所設置についてのご説明だろうと想い、私は総理が仰る前に、『駄目です』とはっきり申し上げました。これまでの経験から、連絡事務所の話は向こう側か交渉すると言っては日本を騙す舞台になってきただけで、日本はずっと騙され続けてきたという事実を申し上げました」
早紀江さんの先制パンチに石破氏はもったりした口調で言った。
「それでもやってみないことには分からない、やってみる意味はあるなどと仰いました。それで私も申し上げたのです。連絡事務所についてはすでに過去の経験から分かっていることもある。同じ間違いをしてさらに時間を無駄にすることには強く反対します。これは家族会全員の総意です。これだけは受け入れられません、と」
明弘さんが亡くなったように、ご家族にとっては本当に時間がないのである。
早紀江さんの切実な思いを石破氏はきちんと受けとめただろうか。
石破氏との電話会談は短時間で終わったそうだ。
「救う会」会長の西岡力氏が石破氏の連絡事務所へのこだわりについて語った。
「相当、思い入れがあるようで、連絡事務所設置には『メリットがある』『有効だ』と国会答弁で言い始めています。日朝議連幹事長代理の平沢勝栄氏が去年11月に北朝鮮側と接触していたとの情報もあります。石破内閣には日朝議連の幹部が勢揃いしています。岩屋毅外相は日朝議連副幹事長、中谷元防衛相は幹事長です。石破さんと日朝議連は、7月の参議院選挙までに拉致問題でこんなに汗をかいているという『やってる感』を出し、国民にアピールしたいのだと思います。支持率を上げて、選挙を有利に運びたい。勝って自分たちの足場を固めたい思惑でしょう」
危惧を強める情報
外形的に拉致問題解決が進みつつあるというイメージを作れれば、選挙にも有利だと考えているのであろう。
しかし、そのイメージ通りに拉致問題が解決に向かうとは思えない。
ここに危惧を強める情報がある。
2月18日、『世界日報』がI面トップに掲げた記事である。
「金正恩氏『拉致』固執しないなら対話」「北朝鮮幹部会議で対日方針」の見出しがついている。
ソウル発の北朝鮮消息筋による情報では、金正恩氏が1月30日に幹部を集めて以下の要点を語ったという。
①最近、日本国内で対北正常化を巡るムードが変化してきた
②国会議員を中心に、「拉致問題解決が最優先」から他のアプローチを模索する声が上がっている
③石破氏は過去の歴史に対する贖罪に言及してきた。その事実に注目する
④日本が拉致問題を前面に出さないなら、われわれも対話を拒む理由はない。
ここから北朝鮮の思惑に石破氏が呼応している流れが鮮明に見て取れるのではないか。
日本にとって最重要の、国民を取り戻す、拉致された国民を家族の元に帰らせるという国家としての意思の欠落は明らかだ。
実は北朝鮮側は岸田文雄前首相との間で交渉を続けていた形跡がある。
それは拉致の解決を前面に置いたものだったと思われる。
しかし、昨年3月時点で、突然、金正恩氏の妹の与正氏が「日本が相変わらず拉致を前面に置く限りにおいて、交渉はしない」と言い始めた。
そして今、正恩氏が同様のことを語っているわけだ。
事実上の日朝議連内閣と言える石破内閣が、拉致された国民を置き去りにしようとしているのではないか。
首相の対北朝鮮政策のいかがわしさに私たち国民が心からの憤りをぶつける局面だ。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、至上の国宝である事を証明している。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
石破氏の北への大幅譲歩が心配だ
「恵子には、もう少し頑張って待っとけ、必ず救い出すから、といつも(心の中で)言ってるんです」
そう語っていた有本恵子さんの父、明弘さんが、2月15日、亡くなった。
96歳だった。
恵子さんの母、嘉代子さんも5年前、94歳で亡くなった。
そして42年前、英国留学中に23歳で北朝鮮に拉致された恵子さんはいま65歳のはずだ。
40年を超える歳月は、拉致被害者とご家族が日本国の能力の限界の前でも打ちひしがれることなく、国民の力を結集して闘い、それでも結果を出せずにきた苦しい日々だった。
横田早紀江さんは、誰よりも早くから恵子さん救出に向けて頑張ってきた有本さん夫妻に深い敬意を払う。
「お二人は私たちが家族会を結成する前から動いていました。地元の政治家(土井たか子氏)に、娘が平壌にいる、何とか救出してほしいと頼みましたが、(土井氏は)有本さんたちの訴えを無視しました。当時の日本社会党は拉致には極めて冷淡で、北朝鮮を賛美していましたから。外務省も人権委員会もまともに取り合ってくれず、お二人は孤立無援だったと思います。それでも私たちより前からずっと頑張ってこられました」
東京で開かれる拉致被害者救出を訴える集会に、明弘さんは遠くから駆けつけた。
私達は固い握手を交わしたが、娘の帰国を切望する父の手は、いつもとても冷たかった。
「お父さん、体を大事にしてくださいね」と心配して言うと、うんうんと頷く。
けれど日本国のふがいなさを訴える明弘さんの弁は、誰よりも熱かった。
そうした中、最初から有本夫妻の要請を真っ正面で受け止めたのが、若き日の安倍晋三氏だった。
総理となってからは、金正恩総書記との首脳会談を呼びかけ、米国の協力も仰いできた。
日朝関係の最大の課題は全拉致被害者の一括帰国を実現することであり、国交正常化はその後だと、安倍氏は心に定め、その目標に向けて一歩一歩詰めてきた。
本当に時間がない
他方、一部の国会議員は日朝国交正常化推進議員連盟を軸に、別の路線をとってきた。
彼らの目標は日朝国交正常化であり、拉致された国民の救出は事実上二の次で、安倍氏とは異なる優先順位を掲げてきた。
彼らはまず日朝間に連絡事務所を設けるべきだと主張する。
拉致に関してはそこで拉致被害者は何人か、どこにいるのか、どんな仕事をして生活しているのかなど諸々のことを調べて対策を取るという。
冗談だろう。
北朝鮮は他国の国民を国家権力で拉致したのだ。
帰国を果たした被害者の話から、拉致された日本人は北朝鮮で厳しい監視下に置かれていることがわかる。
今更調査しなくとも、北朝鮮当局は拉致された日本人の動向など全て把握している。
連絡事務所設置は北朝鮮側にとって拉致解決を先送りする格好の口実となる。
「調査しています」と言って時間稼ぎをする。
その間に日朝国交正常化をなしとげ、日本から兆円単位の援助を引き出す算段だ。
結果として日本側は取られるばかりで拉致被害者の救出は叶わずに終わってしまう可能性がある。
石破茂首相はなぜかこのような日朝連絡事務所開設に熱心だ。
早紀江さんが語った。
「実は訪米の前に、石破さんから電話がかかってきました。恐らく連絡事務所設置についてのご説明だろうと想い、私は総理が仰る前に、『駄目です』とはっきり申し上げました。これまでの経験から、連絡事務所の話は向こう側か交渉すると言っては日本を騙す舞台になってきただけで、日本はずっと騙され続けてきたという事実を申し上げました」
早紀江さんの先制パンチに石破氏はもったりした口調で言った。
「それでもやってみないことには分からない、やってみる意味はあるなどと仰いました。それで私も申し上げたのです。連絡事務所についてはすでに過去の経験から分かっていることもある。同じ間違いをしてさらに時間を無駄にすることには強く反対します。これは家族会全員の総意です。これだけは受け入れられません、と」
明弘さんが亡くなったように、ご家族にとっては本当に時間がないのである。
早紀江さんの切実な思いを石破氏はきちんと受けとめただろうか。
石破氏との電話会談は短時間で終わったそうだ。
「救う会」会長の西岡力氏が石破氏の連絡事務所へのこだわりについて語った。
「相当、思い入れがあるようで、連絡事務所設置には『メリットがある』『有効だ』と国会答弁で言い始めています。日朝議連幹事長代理の平沢勝栄氏が去年11月に北朝鮮側と接触していたとの情報もあります。石破内閣には日朝議連の幹部が勢揃いしています。岩屋毅外相は日朝議連副幹事長、中谷元防衛相は幹事長です。石破さんと日朝議連は、7月の参議院選挙までに拉致問題でこんなに汗をかいているという『やってる感』を出し、国民にアピールしたいのだと思います。支持率を上げて、選挙を有利に運びたい。勝って自分たちの足場を固めたい思惑でしょう」
危惧を強める情報
外形的に拉致問題解決が進みつつあるというイメージを作れれば、選挙にも有利だと考えているのであろう。
しかし、そのイメージ通りに拉致問題が解決に向かうとは思えない。
ここに危惧を強める情報がある。
2月18日、『世界日報』がI面トップに掲げた記事である。
「金正恩氏『拉致』固執しないなら対話」「北朝鮮幹部会議で対日方針」の見出しがついている。
ソウル発の北朝鮮消息筋による情報では、金正恩氏が1月30日に幹部を集めて以下の要点を語ったという。
①最近、日本国内で対北正常化を巡るムードが変化してきた
②国会議員を中心に、「拉致問題解決が最優先」から他のアプローチを模索する声が上がっている
③石破氏は過去の歴史に対する贖罪に言及してきた。その事実に注目する
④日本が拉致問題を前面に出さないなら、われわれも対話を拒む理由はない。
ここから北朝鮮の思惑に石破氏が呼応している流れが鮮明に見て取れるのではないか。
日本にとって最重要の、国民を取り戻す、拉致された国民を家族の元に帰らせるという国家としての意思の欠落は明らかだ。
実は北朝鮮側は岸田文雄前首相との間で交渉を続けていた形跡がある。
それは拉致の解決を前面に置いたものだったと思われる。
しかし、昨年3月時点で、突然、金正恩氏の妹の与正氏が「日本が相変わらず拉致を前面に置く限りにおいて、交渉はしない」と言い始めた。
そして今、正恩氏が同様のことを語っているわけだ。
事実上の日朝議連内閣と言える石破内閣が、拉致された国民を置き去りにしようとしているのではないか。
首相の対北朝鮮政策のいかがわしさに私たち国民が心からの憤りをぶつける局面だ。