『新・国債の真実』高橋洋一
さすがです。
amazonのレビューから
2021年9月21日に日本でレビュー済み
○「国債は借金だからダメ」というのは、「緊縮財政になって景気が悪くなってもいい」、あるいは「増税されてもいい」といっているのと同じ
○民間金融機関にとって安牌である国債は、「もっておきたい債券」
○日銀には政策の独立性があるが、政府がとる大きな方針に従って金融政策を行なう
○日銀が得る国債の利子収入を「通貨発行益」と呼ぶ
○日銀はその通貨発行益を丸々国に納める
○日銀が国債を買うと「円安」になる
○為替が決まるメカニズムは何かというと、「2つの通貨の交換比率」
○国には負債もあれば資産もある。国債発行だけを見て問題視するのは、経済のプロであれば決してしない、一面的な見方
○金利は上昇していないという現状を見れば、現時点での国債発行残高には何も問題ないということが、すぐにわかる
○政府から日銀へは国債の利子が支払わられるが、それは納付金として戻ってくるから、財政上の負担にはならない
○借金の利払いも返済も、政府に「支払い義務がない」のではなく、「支払い義務はあるが、財政負担にはならない」
○先進国で予算において国債を建設国債と赤字国債とに区別しているのは、基本的に日本だけ
○外国人が日本の国債に群がるような状態があるとしたら、それは日本の国債の信用度が高いことを意味する
○外国人保有率とデフォルトとの間には、何の相関もない
○財務省は一貫して「増税派」
○増税すると財務省の予算権限が増えて、各省に対して恩が売れて、はては各省所管の法人への役人の天下り先の確保につながる
○「日本国債は暴落する」といっている人が、何をもって「暴落」といっているのかは、よくわからない
○国債そのものの金利も低いし、破綻時に損失保証するCDSの保証率も低い
○一国の財務状態を「統合政府バランスシート」で考えるのは、海外では当たり前
○「日銀資産の評価損は、政府負債の評価益だから問題ない。もし気にするなら、政府と日銀の間で損失補填契約を結べばいい」
○日銀の「資産」である国債の「評価損」は、政府の「負債」である国債の「評価益」となるため、政府と日銀のバランスシートを合算すれば問題ない
○日本政府の金融資産は、じつは天下り先への出資金、貸付金が非常に多い
○「政府資産には、売れないものもある」というのは、せっかくの将来の落ち着き先がなくなっては困る、という官僚の泣き言に過ぎない
○個人レベルの道徳心など、経済政策に持ち込むな
○国債の発行を控え政府需要が減ることは、失業率アップにつながる
○国が国債を増発し、政府需要を高めるという財政政策と、日銀が民間金融機関から国債を買うという金融政策の「合わせ技」が必要
○国債の適切な発行額は、インフレになりすぎない程度
○「統合政府バランスシート」で考えれば、日本の財政再建はとっくに済んでいる
○本当に災害復興を目指すなら、国債を発行するのが、もっとも効果的
○災害時に税制をいじるなら、むしろ経済を活性化させるために減税するのが普通
○国債は「国の借金」には違いないが、それは同時に「投資」でもある
本書は、国債の仕組みに関する実務解説や所管官庁である財務省の権益擁護という問題点指摘から「教育国債」が国富の増大を生み出すという大きなテーマにまで及んでいる。豊かな日本の建設に国債の「投資機能」を生かすという構想は、我々に斬新な視点を与えてくれる。大変有益な啓蒙的書である本書の中から特に印象に残るポイントを幾つか記しておきたい。
「教育国債」: 国債は国の借金であり、公共事業等による失業減と景気回復をもたらすとともに「投資」機能も負っている。諸々の統計資料は、教育水準の高い人材は所得が高くなり、納税額も高くなって国への貢献度が増すことを示しており、教育投資は社会全体でかけた費用に対する公的便益は2.4倍との試算もある。更に、高等教育を受けたことで高くなった所得から得られる税収増は、日本が調査対象国22か国中断トツであるとのOECDデータもある。基礎研究や教育は、結果が出るまでに時間がかかること、財政破綻リスクが存在しない日本の債権の中で最も安全な債権である国債の多くの投資家の関心事は、償還に長期間を要してもより多くの利息を受け取ることにある点も踏まえると、100年~500年といった長期に亘る「教育国債」で賄うことが望ましいと筆者は主張する。教育国債は「出世払い」で、投資効果が出る将来世代に働いて返してもらうという考え方である。
尚、本書では触れられていないが、文科省傘下の研究所の調査に拠れば、日本は、2017~2019年3年間の年平均論文数では世界第4位(1位中国)、論文の質の高さ(他の論文に引用された回数で、分野毎に上位10%に入った論文数)では1980年代の調査開始以来最低の10位だという。10年~20年後位のタイムスパンで見れば、日本からはノーベル賞受賞者は誕生しないのではないか。日本の学術レベル低下を阻止する観点からも著者の主張する「教育国債」は大いに検討の価値があると思う。
財務省が国債発行でなく増税に固執する理由: 財務省は、国債残高がGDPの200%に達している状況を財政破綻が近いとして機会あるごとに増税の必要性を吹聴している。狙いは、増税分を各省庁に予算配分する見返りに財務省からの天下り先を確保するためである(財務省は、国債発行による資金調達は門外漢)。特定業界を増税対象にしない、或いは特定業界に「特例措置」を施すことも同様の目的によるものだ。更に、政府保有の金融資産1,000兆円には天下り先への出資金や貸付金が多いため、将来の自分たちの天下り先の資産処分に抵抗を示すという。天下り=「不適切な再就職」なので、組織の内側から正すことが難しい以上厳しい法規制が必要だ。筆者が言われる「官僚の再就職は、必ずハローワーク経由で行い、手続きを透明化する」等の規制措置は果たして可能か疑問ながら、日本の官僚に対する規律統制の厳格化は欧米先進国との一層の緊密化の過程で何時か求められるだろう。
「統合政府バランスシート」について: 日銀と政府は子会社・親会社という一体組織(企業会計で言う「連結グループ」)なので、資産と負債は背中合わせとなる。従い、日銀の資産である国債が大暴落した場合の当該国債の評価損は、政府の負債である当該国債の評価益となるため統合バランスシート上は差引きゼロとなり大暴落は生じないことになる。(マスコミは連結決算を理解できず、国債大暴落が生じるとニュースにした経緯あり。)
日本国債が世界で最も安全な債権の一つである理由: 総合政府バランスシート上、資産、負債とも1,500兆円で負債見合いの資産があること(負債から資産を差し引いたネットがマイナスでないこと)、有事に円高になること(2016年の英国の国民投票によるEU離脱決定時、2017年の朝鮮半島に対する緊張事態発生時に円高が生じた。円高は、安全資産である証拠)、金利水準が低いこと、金利水準が破綻時に損失補償するCDS(Credit Default Swap)の保証料より安いことによる。