富士山が好きだ。
子供のころ(5~6歳くらいだったか)父の愛車日産ブルーバードSSSに乗せてもらって
富士五湖を走破した思い出。
今は大人になってエクシブとかに当たり前の様に宿泊して眺めてる富士よりもあの時の富士が
一番だ。
漫画が得意なのでスケッチブックを持って何枚も描いた。
でも文才がないので富士山の魅力を伝えるのがとても苦手だ。
これだけは言える。
富士山は登るものじゃない。
眺め、畏怖し、仰ぐもの。
そしてこの短編には富士の魅力全開のコピーライティングが満載だ。
太宰が恩師井伏鱒二の紹介で結婚を決める前のエピソードだ。
凄いなといつも思うのだ。
人間の心理描写のほとんどを行動描写や情景描写で表現しているのだ。
有名な「富士には、月見草がよく似合う。」もそうだし。
ラストの一文、甲府の富士は、山々のうしろから、三分の一ほど顔を出している。酸漿に似ていた。
その他 パノラマ台へ登ったが生憎の霧で肝心の富士山が見れない時に寂れた茶屋の老婆が
一生懸命晴れ渡った時のここから観る富士の素晴らしさを身振り手振りで一生懸命、井伏と太宰に語るシーンが何とも言えず良いのだ。
実名で登場してくるので実話に近いと思いきややはりそこは太宰治先生のこと創作した物語だろう。
狐火漂う妖艶な富士。
色んな富士の顔を描く太宰。
井伏の紹介でお見合いをすることになり相手先の甲府へ赴きそこの自宅で見た、富士山の鳥瞰写真図が飾られていたシーン。そして、この人に決めた。あの描写がたまらない。
心象風景のお手本の様な短編。
その他旅館の娘との微妙な交流のところとか、訪ねてくる青年たちとのやりとりとか…
面白いエピソードがつまっている。
話しを膨らませようとすれば太宰の力量なら簡単に出来長編にしても良いくらいだと思った。
しかし文章を切り詰めて削ぎ落としこんな素敵な短編を紡ぎ出した。
「富嶽百景」
井伏鱒二は御坂峠のさびれた宿で仕事をしながら川釣りに行ったのだろうか。