ロシア外務省は21日、北方領土交渉を含む日本との平和条約締結交渉について「現在の状況で続けるつもりはない」と、事実上拒否する方針を発表した。ウクライナ侵攻を受けた経済制裁への対抗措置だ。北方領土の共同経済活動に関する交渉や元島民らによるビザなし交流なども中断する。岸田文雄首相は22日の参院予算委員会で「全てロシアのウクライナ侵略に起因して発生した。日露関係に転嫁する対応は極めて不当で断じて受け入れることはできない」と非難した。北方領土を巡る交渉は暗礁に乗り上げることになる。
ロシア外務省は声明で、日本政府が「ウクライナの状況に関し、明らかに非友好的な性質の一方的な制限措置を導入した」と非難。平和条約交渉について「我が国の利益を害そうとする国と2国関係の基礎となる文書の調印を協議することはできない」と主張した。
2016年12月にプーチン大統領と当時の安倍晋三首相が交渉開始で合意した北方領土での共同経済活動についても「対話から脱退する」と宣言。1992年に始まった日本国民と北方四島の島民が旅券や査証(ビザ)無しで相互訪問する「ビザなし交流」や、元島民や家族が簡易な手続きで居住地跡を訪問できる「自由訪問」も中止するという。
ロシア外務省は「2国関係や日本自身の利益を損なう全ての責任は、相互協力や善隣関係の発展の代わりに反露路線を意識的に選んだ日本政府にある」と主張。自国がウクライナに侵攻した責任には触れずに日本を一方的に批判した。
これに対し、岸田首相は予算委で「北方領土問題を解決して、平和条約を締結するという基本的な我が国の立場は変わってはいない」と述べた。外務省の森健良事務次官は同日、ロシアのガルージン駐日大使を同省に呼び、抗議した。【大前仁、田中裕之】