竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

がうがうと欅芽ぶけり風の中 波郷

2017-02-27 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(3)

がうがうと欅芽ぶけり風の中




欅(けやき)の大木が、あちらこちらで芽吹き始めている。大木になるために、小さな家の庭は勿論、小さな公園でも、又街路樹としても余り歓迎されない。「困」るという字には、元々、屋敷「□」の「木」が大きくなって「困」るという意味があるようである。狭い土地を更に分割して庇を寄せあって暮らしている人間を尻目に超然と、欅は、今年も、風を相手に蘇ってきている。(板津森秋)


松籟の武蔵ぶりかな実朝忌

日洩れ来し谷を急ぎて実朝忌

古葎美しかりし春の泥

冴返るわれらが上や二仏

多羅の芽の十や二十や何峠

飯盒の飯のつめたき霞かな

負へるものみな磐石や夕霞

放鳩やうすうす帰る雁の列

三月の鳩や栗羽を先づ翔ばす

囀やアパートをいつ棲み捨てむ  波郷

2017-02-24 | 波郷鑑賞
今回は石田波郷の春の句10句を鑑賞(2)

囀やアパートをいつ棲み捨てむ






春暁の睡たき顔を洗ふのみ

家近く帰り飯食へり春日落つ

早春や室内楽に枯木なほ

櫻餅闇のかなたの河明り

兄妹の相睦みけり彼岸過

神田より帰りて木あり楓の芽

初蝶やわが三十の袖袂

花吹雪ことしはげしや己が宿

木蓮や手紙無精のすこやかに

バスを待ち大路の春をうたがはず 波郷

2017-02-22 | 波郷鑑賞
今回は石田波郷の春の句10句を鑑賞



バスを待ち大路の春をうたがはず






昭和8年作。
 バスを待つ俳句というのはよく目にするが、とっさにこの波郷句を連想してしまう向きも少なくないはず。
 理屈で考えると、やや散文的な作品とも見えるが、散文か韻文かといえば間違いなく韻文なのである。「うたがはず」の断定的な切れの強さが、春到来の若々しい喜びを伝えてくるからだ。
 この句を見るとき、私は何となく、
  初蝶やわが三十の袖袂
という、後年の句を思い出し、大路に一つの蝶が漂っているさまを想像する。
 この年「馬酔木」では、自選同人制が実施された。そのメンバーに名を連ねたのは、軽部烏頭子、百合山羽公、瀧春一、篠田悌二郎、塚原夜潮、佐野まもる、高屋窓秋、石橋辰之助、五十﨑古郷、相生垣瓜人、佐々木綾香、そして最年少の波郷だった。俳壇では連作俳句、無季俳句などへの試みがさかんになってきた時期だった。
 そんな背景をこの句に重ねて鑑賞してみてもいいかもしれない。




煙草のむ人ならびゆき木々芽ぐむ

あえかなる薔薇撰りをれば春の雷

さくらの芽のはげしさ仰ぎ蹌ける

浅き水のおほかたを蝌蚪のもたげたる

蝌蚪死ぬ土くれ投げつ嘆かるる

春暁の壁の鏡にベツドの燈

春暁の川を煤煙わたりそめ

大阪城ベッドの脚にある春暁

嗽霞を見つつ冷たかりき