竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

指先や大つごもりの水使ふ 井戸昌子

2020-12-31 | 今日の季語


指先や大つごもりの水使ふ 井戸昌子

一昔前の大晦日は正月の用意の不足を間に合わす支度で
母、妻、娘など家の女性はてんやわんやだった
掲句の「指先や」が印象的だ
読み手にその解釈はさまざまで
作者はそれを読み手に投げかけて説明は省略している
そこが憎い技といえよう
(小林たけし)


【大晦日】 おおみそか(オホ・・)
◇「大晦日」(おおつごもり) ◇「大三十日」(おおみそか) ◇「大年」(おおとし) ◇「大歳」(おおどし)
12月の末日のこと。陰暦の12月30日であるが、陽暦では12月31日。大晦日(おおつごもり)ともいう。元旦を明日に控えた一年の節目の日。いろいろな行事とともに様々の人生絵巻が繰り広げられる。

例句 作者

にんげんのはなしはしない大つごもり 松本照子
俎に大年の水走らせる 松本隆吉
大年の机上さながら海漂ふ 松澤昭
大年の汐騒松に韻きけり 根岸善雄
大年の没り日に犬と染まりけり 細貝文恵
大年やおのづからなる梁響 芝不器男
大年やぶらりと海に来てゐたり 林満子
大年や鎧のごとき佐渡箪笥 柳澤和子
大晦日犬が犬の尾垂れている 清水哲男
大歳の水薬を飲みつくしたり 藤木清子
巌が船つと押し出せる大晦日 清水睦子
母の待つおほつごもりの峠越ゆ 平賀節代
漱石が来て虚子が来て大三十日(おほみそか) 正岡子規
盛り場のおおつごもりが雪になる 石田素
知己ゆゑの葬に出づる大晦日 高木節子
飛行機雲大つごもりの黒冨士へ 髙梨久子

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音楽に涙湧きたり年惜しむ 沢木欣一

2020-12-30 | 今日の季語


音楽に涙湧きたり年惜しむ 沢木欣一

作者にとっての今年は特別の感慨の年だったようだ
あるいは年寄るごとにふりかえる来し方に深い想いがつのるのか
どの音楽を聴いてもその調べににひとつひとつのシーンが浮かぶ
涙をともなうものが多いのは何故だろう
その涙は悲しいものばかりではない
(小林たけし)

【年惜しむ】 としおしむ(・・ヲシム)
◇「惜年」
今年も残り僅かになったとの感慨を表す言葉。陰暦では「冬惜しむ」と同義に用いられたようだが、今では当てはまらない。しかし、過ぎ行く年を惜しむ心は、そのまま過ぎ行く歳を惜しむ心でもあった。

例句 作者

雨だれの大きなたまの年惜しむ 安住 敦
年惜しむ心うれひに変わりけり 高浜虚子
年惜しむことで足らひし誕生日 能村研三
鉄瓶の蓋切りて年惜しみけり 久保田万太郎
年惜しむあとは署名をするだけの 森早和世
来し方を悔い無しとして年惜しむ 原和子
窓あけて年を惜しめば沖に月 佐野まもる
窓ぬぐふ人惜しみ年惜しむとき 五十嵐秀彦

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住職がまじっておりぬ薬喰 川辺幸一

2020-12-27 | 今日の季語


住職がまじっておりぬ薬喰 川辺幸一

薬食と称して怪しい食材をこわごわと食することに解されるが
本来は肉食をひそかに味わうことだったようだ
掲句はその句意にふさわしい
また俳味もあって愉しめる
(小林たけし)


【薬喰】 くすりぐい(・・グヒ)
薬と称してひそかに獣肉を食すこと。肉食をしなかった時代の語。

例句 作者

たべ足りし箸をおきけり薬喰 富安風生
まつくらな山を背負ひぬ薬喰 細川加賀
蘭学の書生なりけり薬喰 正岡子規
ラヂオより浅間火噴くと薬喰 村山古郷
妻や子の寝顔も見えつ薬喰 蕪村
つくつと笑ひはじめぬ紅葉鍋 伊東辰之亟
ここよりは男入れず薬喰 白田哲三
シリウスの青眼ひたと薬喰 上田五千石
薬喰いつよりか身に闇及ぶ 久保純夫
薬喰女は指先より老いて 金山桜子
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日記買う同じ袋に明日のパン 瀬戸優理子

2020-12-26 | 今日の季語


日記買う同じ袋に明日のパン 瀬戸優理子

若妻の生き生きとした日常のワンシーン
同じ袋にの中七が上手い
(小林たけし)


【日記買う】 にっきかう(・・カフ)
◇「古日記」(ふるにっき)
来る年に使う日記を買うこと。年末に買うことが多い。「古日記」は年末となり残りのページが少なくなった日記のこと。また、その年の日記を書き終えることもいう。


例句 作者
まだゆとり残して十年日記閉づ 松嶋てる緒
十年は無理かも五年日記買ふ 松嶋てる緒
実朝の歌ちらと見ゆ日記買ふ 山口青邨
日記買ふそばの殺しの小説も 伊藤鯰子
日記買ふ水に油膜の美しき 柳生正名
来年の思い募らせ日記買う 安冨耕二

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邪険にはできない呼名雪蛍 たけし

2020-12-25 | 入選句



邪険にはできない呼名雪蛍 たけし



朝日新聞 栃木俳壇 石倉夏生先生の選をいただきました

雪蛍は綿虫の別称ですが

この呼名の美しさに

ついつい振り払うことを躊躇してしまいます

そんな気分の作品でした



今年は栃木俳壇にたくさんお取り上げ頂いてありがとうございました

来年にむけての励みになりました

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水仙や男をまたぎ水飲みに 小林貴子

2020-12-24 | 今日の季語


水仙や男をまたぎ水飲みに 小林貴子

水仙の咲いている池辺の二人だろうか
跨ぐというのだから男は寝転んでいるカタチか
冬の池べり これはありえない
この男との別離の心象だろうか
水を飲みに これが作者の結論なのだろう
(小林たけし)


【水仙】 すいせん
◇「水仙花」
地中海沿岸が原産地と言われる。高さ20~40cmの鱗茎を持つ多年草。花季は2~4月で、蕾は上向きだが、開花すると横を向く。寒い時にいさぎよく咲く、清楚な花である。牧童ナルシスが水面に映る自らの美貌に見とれて動かず、とうとうスイセンになったというギリシャ神話を思い出させる。


例句 作者

水仙や眼は愛にして濡れるなり 原子公平
水仙をどさつと活けて銃砲店 星野和子
水仙をまはり水底へ行く如し 藤田湘子
水仙をよくよく見たる机かな 桂信子
水仙を千切るこの世のうす濁り 竹本健司
水仙を手前に出まかせばかり 成宮颯
水仙を明晰という夜明けかな 堀之内長一
水仙を活けてしばらく正座する 大竹照子
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裂帛の少女の声や寒稽古 たけし

2020-12-23 | 入選句


裂帛の少女の声や寒稽古 たけし



2015年12月15日 毎日俳壇にて

いまはなき大峯あきら先生の選を頂きました

もう5年も以前のことになります

当時は五大紙の俳壇に投稿を始めた頃でした

選者を指定しての投句なので

自分なりに選者の傾向を考慮したつもりでしたが苦労したことを思い出します



掲句は孫娘が中学校の剣道部の朝稽古に

行く自転車を見送っていた時に上手んだ句でした



いつも小声の彼女の大きな声を聞いた思いでした

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垂り雪ここより時のさかのぼり たけし

2020-12-22 | 入選句


strong>垂り雪ここより時のさかのぼり たけし



2014年4月2日 産経俳壇 宮坂静生先生の選をいただきました

初学のころの作品でそのまんまなのがかえって良い

下五は「さかのぼる」とすべきだろう



垂り雪 の季語にこだわったものだった

ぽたぽたと落ちる雪しずくに

時空がゆっくりと遡って過去が蘇る感じを詠んだつもり




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霜降やなおざりの恩なほ深し たけし

2020-12-21 | 入選句



霜降やなおざりの恩なほ深し たけし



2013年12月4日 産経俳壇 宮坂静生先生の選をいただきました

俳句を始めてちょうど2年という時でした



選者は当時現代俳句協会の会長というぉともあって

嬉しさも格別

俳句をつづけるきっかけにもなりました



霜の夜

ふともう返しようのない幾多の

大切な方からのご恩を思った時のものです

「なおざりの恩」このフレーズで他に句を作りましたが

この句を超える作品はありません
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乾く音一本調子に炭切らる 山尾かづひろ

2020-12-20 | 今日の季語


乾く音一本調子に炭切らる 山尾かづひろ

炭を切る情景がよく見える
切られる炭の音まで聞こえてくる
昭和期の残像はまなうらに焼ついている
瞬間移動のようによみがえった
(小林たけし)


【炭】 すみ
◇「木炭」 ◇「堅炭」(かたずみ) ◇「白炭」 ◇「備長」(びんちょう) ◇「炭挽く」 ◇「粉炭」 ◇「佐倉炭」
樹木の幹、枝を蒸し焼きにしてつくった燃料。楢、樫などがつかわれる。

例句 作者

「準備中」炭で炭割る音がする 佐藤二千六
いつまでの戦火埋火深くする 鳥巣徳子
ぼやを焚く火の盛んなり母は亡し 太田継子

人間も宇宙も進化炭をつぐ 播磨穹鷹
埋み火を掘り起こしゐる妣を見し 八島岳洋
埋火に三行書きしままの文 船矢深雪
埋火に夕日の戻る頃のあり 杉野一博
埋火のほか父の眼を知らざりし 中村正幸
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うしろ手に閉めし障子の内と外 中村苑子

2020-12-19 | 今日の季語


うしろ手に閉めし障子の内と外 中村苑子

最近の住宅に少なくなった障子のある和室
独立した部屋でありながら外の気配を感じられる
外からもその室内をうかがえそうだ

掲句はなかなか深い味わいがある
うしろ手でしめた作者はまだ立っている
その手は障子にかかってもいるようだ
今までの喧騒、雑駁、きのすすまない会話など
障子を閉めたことで
すっぱりと遮断した
内と外とはそういうことか?
(小林たけし)


【障子】 しょうじ(シヤウジ)
◇「冬障子」 ◇「明り障子」
日本座敷を仕切る障屏具。新年を前に張り替えることが多いため冬の季語とされる。襖障子、唐紙障子、明かり障子など多種。主として明かり障子のこと。

例句 作者

あの人にかぎってという白障子 河西志帆
いのちなが白い障子に囲まれて 黛執
しづかなるいちにちなりし障子かな 長谷川素逝
ふりむけば障子の桟に夜の深さ 長谷川素逝
ふるさとや障子にしみて繭の尿(しと) 阿波野青畝
まぶしさは予定なき日の白障子 小池溢
むつかしく思わず障子開けに立つ 花谷和子
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絹ごしの風と光に寒牡丹 たけし

2020-12-18 | 入選句


朝日新聞 鳥義俳壇 石倉夏生先生の選を頂きました

3席ということで

選過分な評も頂き家人から「おめでとう」と言われ照れました(笑)



毎年のようにお正月に鎌倉八幡宮へ初詣します

その折には必ず開催の

牡丹の展示会を巡覧します



絹ごしの風と光に寒牡丹 たけし
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抱くほかはない白菜を渡される 田中いすず

2020-12-17 | 今日の季語


抱くほかはない白菜を渡される 田中いすず

渡されたのだから買ったのではなくいただいたものだろう
見事な立派な白菜である
持ち合わせの袋も篭もない
抱くようにして家路をいそぐ
作者のこみあげてくる笑顔が目に浮かぶ
(小林たけし)


【白菜】 はくさい
◇「白菜漬」
ハクサイの漬物は、冬の食卓には欠かせない。鍋物にも絶好の蔬菜である。農家の縁先や庭に並べ干されたハクサイの白さは、間違いなく日本の冬の風物詩といえよう。しかし、このように日常的な冬菜として定着しているハクサイではあるが、実は普及してまだ100年ほどにしかならないのである。

例句 作者

空広くなりし白菜漬けにけり 中村わさび
白菜を割る激浪を前にして 大野林火
白菜洗ふ死とは無縁の顔をして 寺田京子
洗ひ上げ白菜も妻もかがやけり 能村登四郎
真二つに白菜を割る夕日の中 福田甲子雄
白菜を抱へゆく肘やはらかく 石原舟月
何のむなしさ白菜白く洗ひあげ 渡辺千枝子
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皹(あかぎれ)といふいたさうな言葉かな 富安風生

2020-12-16 | 今日の季語


皹(あかぎれ)といふいたさうな言葉かな 富安風生

日本語の見事な表現にはいつも感心させられるg
「あかぎれ」とは
掲句はその言葉のひびきだけで1句をものにしたもの
だれもがうなずく他はない
(小林たけし)


【胼】 ひび
◇「胼薬」 ◇「あかがり」 ◇「皹」(あかぎれ) ◇「霜焼」(しもやけ) ◇「霜腫」(しもばれ)
手足の皮膚に出来る細かい亀裂を「胼」、皮膚の裂傷を「皸」、また軽度の凍傷を「霜焼」という。いずれも寒気で血液循環が悪化することによる。

例句 作者

霜焼の柔かき手にたよられし 安部みどり女
闇ふかくにほへり妻の胼薬 栗田九霄子
妻の手のいつもわが辺に胼きれて 日野草城
買ひためて信濃の子等へ胼薬 加藤楸邨
皸の娘のほてる手に触はられぬ 飯田蛇笏
胼の手をあはせて拝むほとけかな 橋本鶏二
皸といふいたさうな言葉かな 富安風生
谷に夜が来て胼薬厚く塗る 村越化石
霜やけの子どもねむればねむくなる 飴山 實
アカギレを知らず月光仮面を知らず 鈴木砂紅
一段とおしゃべり今夜の皸 鈴木砂紅
燃えろかんてき妻とはこんなに荒れた指か 阪口涯子
皸や動きはじめた汽車があり 杉野一博

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いささかの塵もめでたや事始 森川暁水

2020-12-13 | 今日の季語


いささかの塵もめでたや事始 森川暁水

事始は正月の仕事始めなどとは違って
正月の用意をすることだという
あえて「正月事始め」として区別される季語
掲句は煤払いの様子だろうか
塵もめでたいとは大仰な とは筆者の感想だ
(小林たけし)

正月事始
正月事始/しようがつのことはじめ/しやうぐわつのことはじめ

事始の餅/事始
十二月十三日、一年を締めくくり新年の準備を始める日。歳暮の 挨拶もこの日から始まる。京都では、本家、師匠、日頃世話にな っている人の所へ、挨拶に行く。祇園の花町でも、舞妓や芸妓が 師匠宅に挨拶に出かける。江戸時代からのものと言われる

例句 作者

能杖を買や宗祇の事はじめ  嘯山「葎亭句選」
胡鬼売の声し初めけり事始  亜笛「発句題集」う
かとしてまた驚くや事はじめ  松瀬青々「妻木」
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