竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

永き日や波の中なる波のいろ 五所平之助

2021-03-31 | 今日の季語


永き日や波の中なる波のいろ 五所平之助

作者はどのくらいの時間を波を見ていたのだろうか
波の動きや音、その風のありようは十分に味わいつくしたのだろう
ついに波の中のその色を見つめている
色の説明はいらない
日永ならではの発見だったのだ
(小林たけし)



【日永】 ひなが
◇「永日」 ◇「永き日」 ◇「日永し」
春の昼間の長いこと。また、その季節。春は冬の短日をかこった後なので日が長くなったという心持ちがつよい。

例句 作者

いくたびも少年に遇ふ日永かな 高島茂
いづれのおほんときにや日永かな 久保田万太郎
働いて永きひと日を使ひ切る 大滝時司
地を踏まず立つ足多き日永かな 桑原三郎
夕照りの天地の間の日永かな 田中里佳
文机にさす影あはき日永かな 水野二三夫
村人に永き日のあり歓喜天 有馬朗人
永き日のにはとり柵を越えにけり 芝不器男
鶏の座敷を歩く日永かな 一茶
永き日や寝てばかりゐる盲犬 村上鬼城
永き日に富士のふくれる思ひあり 正岡子規

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いつの間に樟の影置く春障子 川崎展宏

2021-03-30 | 今日の季語


いつの間に樟の影置く春障子 川崎展宏

現代俳句は叙情にはしっる句が多い
掲句のような句に遭遇すると救われたような気になるのは何故か
俳句の本質、原点はこうした感動の吐露なのではないか
(小林たけし)



【春障子】 はるしょうじ(・・シヤウジ)
日本古来の住居に欠かすことができない障子。春、差し込んでくる日差しに明るさが増し、夕方の日差しも伸びるようになる。

例句 作者

春障子閉ぢたる前に禰宜の沓 遠藤梧逸
妻の客ばかり来る日や春障子 皆川盤水
灯を消せば船が過ぎをり春障子 加藤楸邨
面影走る仏間明りの春障子 森本あやの
激流へ切貼多き春障子 岡本 眸

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たしか今二人のなかを亀鳴けり 小林実

2021-03-29 | 今日の季語


たしか今二人のなかを亀鳴けり 小林実

不信を抱き始めているのだろうか
男女の仲は直線ではない
曲り沈み飛び打ちひしがれる
別離の数はおびただしいほど
たしかに聞いた亀の声
破局の予兆に相違ない
(小林たけし)

【亀鳴く】 かめなく
亀は鳴かないと言われているが、藤原為家の和歌「川越のをちの田中の夕闇に何ぞと聞けば亀のなくなる」(夫木集)により、古くから季題として興がられてきた。 春の夕に聞こえてくる声・音を何ぞと疑問に思いながら季語としたところが一種の俳諧的な趣味となる。

例句 作者

つぎの世は亀よりも蛇鳴かせたし 桂信子
ふりをして亀は鳴くこと思案中 村田まさる
七掛けで生きし人生亀鳴けり 松本夜誌夫
不覚にも美女と呼ばれし亀鳴きぬ 鳴戸奈菜
亀が鳴くまで水たまりのままでいい 坂本敏子
亀の鳴くその一言を聴き洩らす 加藤光樹
亀鳴いて余命千年志す 持永ひろし
亀鳴かしすぎるぞ諸君俳兄よ 岩下四十雀
亀鳴かずとはいえ物語る地動説 旭太郎
亀鳴くかこつちの道がおもしろい 山岸由佳
亀鳴くと言へど未だに聞かざりし 桑垣信子
亀鳴くと首をもたげて亀の聞く 中原道夫

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耕や声のかさなる午後三時 たけし

2021-03-27 | 入選句


耕や声のかさなる午後三時 たけし



2021/3/26 朝日新聞栃木俳壇 石倉夏生先生の選を頂きました



自室の窓からの水田が

今田植え前の田起こしに忙しいところです



三時ごろになるとあちらこちらの田圃から

お茶の時間を告げる声が行き交います



春耕にはずむ声

老農ばかりとはいえ何代も変わらない春のシーンです
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むかしむかしのなみだのにほひさくらもち 恩田侑布子

2021-03-26 | 今日の季語


むかしむかしのなみだのにほひさくらもち 恩田侑布子

作者は桜餅を見るたびにあるいは食するたびに
昔日のあの日を思い出さずにはいられない
むかしむかしのリフレインなので幼年時代まで遡りそうだ
とすれば母の手になる桜餅ばぼは明快だ
涙を流しながら母に訴えている作者が映ってくる
(小林たけし)


【桜餅】 さくらもち
小麦粉・白玉粉を練って薄く焼いた皮に餡を入れて、塩漬の桜の葉で包んだもの。文政年間に向島長命寺で売り出したのに始まる。関西風は、蒸した道明寺糒を用いて作る。

例句 作者

うかれたる心も少し桜餅 星野立子
三つ食へば葉三片や桜餅 高浜虚子
桜餅闇のかなたの河明り 石田波郷
遊園の春とゝのひぬ桜餅 水原秋櫻子
さくら餅食ふやみやこのぬくき雨 飯田蛇笏
さくらより少し色濃し桜餅 森 澄雄
本郷に桜餅買ふ喪の帰り 沢木欣一
さくらもちボールペンがつまずくの 三富みきえ
みっつめは包んでもらう桜餅 香山つみれ
わが妻に永き青春桜餅 沢木欣一
われも老い妻も老いけり桜餅 田中冬二
一煎や曇り床几の桜もち 荻野千枝
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喪の家の焼いて縮める桜鯛 大木あまり

2021-03-25 | 今日の季語


喪の家の焼いて縮める桜鯛 大木あまり

喪明けは両親・夫は13ヶ月といわれ
他の人とは別格のようだ
ちなみに子供は90日
また忌明けとは区別される 
こちらは凡そが49日を忌明けとされる

掲句は喪中に桜鯛を焼いている景である
亡き人は鯛の塩焼きが好物だったのであろうか
その身が縮む様子がまた悲しい
(小林たけし)



【桜鯛】 さくらだい(・・ダヒ)
◇「花見鯛」 ◇「乗込鯛」(のっこみだい)
春、産卵のため内海の浅場へ群れてくる鯛。ちょうど花時に当たり、その色を賞味して、俗に桜鯛とか花見鯛とかいう。

例句 作者
天に浮くひとりのときの桜鯛 高橋修宏
安宿とあなどるなかれ桜鯛 森田峠
桜鯛かなしき目玉くはれけり 川端茅舎
桜鯛さて音階はなぽれおん 山本敏倖
桜鯛われは鉛筆書きである 山本敏倖
桜鯛フォッサマグナの北の岬 齊藤美規
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壺焼きの煮ゆるは海の滾つ音 尾崎青磁

2021-03-23 | 今日の季語


壺焼きの煮ゆるは海の滾つ音 尾崎青磁

<滾つ>がこの句の手柄だろう
海の滾つ音
いわれてみればなるほどと頷かざるを得ない
俳句の措辞は早く発見したもの勝ちとも言われる
この措辞はこの句以後どの俳人もタブーとなる
(小林たけし)


【壺焼】 つぼやき
◇「栄螺の壺焼」(さざえのつぼやき) ◇「焼栄螺」
栄螺を殻のまま火の上であぶり焼き、醤油などで味を付けた料理。また、前もって身を取り出し、刻んで銀杏・三つ葉などと共に殻に入れて焼いたもの。

例句 作者

壷焼の壷傾きて火の崩れ 鳴雪
壷焼を待てる間海の色変り 森田 峠
壷焼の煮ゆるに角も炎立つ 皆吉爽雨
壷焼や止むけしきなき雨の中 日美清史
壺焼や瑠璃を湛へし忘れ潮 水原秋櫻子
つぼやきやいの一番の隅の客 石田波郷


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鳥一羽抱いて芽吹の木となれり 浦川聡子

2021-03-22 | 今日の季語


鳥一羽抱いて芽吹の木となれり 浦川聡子

春を感じさせる風邪にふと庭の木を見上げると
枯れ枝だったところの冬芽が大きく膨らんで
色づいて見える
よく見ると高い枝に名の知れない鳥が止まっている
こんな情景を作者は一句に切り取った
(小林たけし)


【木の芽】 このめ
◇「木の芽張る」 ◇「木の芽山」 ◇「木の芽雨」 ◇「木の芽風」 ◇「楓の芽」(かえでのめ) ◇「蔦の芽」(つたのめ)
春の木の芽の総称で、木によって遅速がある。楓の芽・桑の芽・蔦の芽など、一括して名木の芽という。きのめとも言うが、一般には山椒の芽をとくに「きのめ」という。

例句 作者

木の芽風燈台白をはためかす 桂 信子
あけぼのゝ白き雨ふる木の芽かな 日野草城
隠岐や今木の芽をかこむ怒涛かな 加藤楸邨
朴の芽を鳥科植物とも思ふ 能村研三
木の芽雨分娩室に赤ランプ 渡辺幸恵
木々の芽や男振りなる那覇の波 橋本栄治
鯉に引く山水ゆたか木の芽風 宗像夕野火
木の芽雨ひびきわたれり桶の中 飴山 實
ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道 中村草田男
みがかれて亀売られゆく木の芽雨 渡辺輝子
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桃の花遅れぬために遅れてゆく 塩野谷仁

2021-03-19 | 今日の季語


桃の花遅れぬために遅れてゆく 塩野谷仁

難解な句に出会うと勝手に分かったつもりになって鑑賞する
掲句も同様だ
一定の時間内に間に合えば用が足りる
その時間に遅れないように行く
早いものはもうとっくに咲いている桃花だが
その花に遅れることはどうでも良い
(小林たけし)


【桃の花】 もものはな
◇「白桃」 ◇「緋桃」(ひもも)
バラ科の落葉小高木。中国原産。4月頃、葉に先立って淡紅色または白色の五弁の、蘂が長く鄙びた愛らしい花を開く。桜や梅にくらべて花が大きい。果実は大形球形で美味。古くから日本に栽培、邪気を払う力があるとされた。雛祭には欠かせない花である。

例句 作者

桃の咲くそらみつ大和に入りにけり 川崎展宏
箸墓のぼんやり見えて桃の花 名田西の鴉
桃の花家半ばまで陽が入りて 森 澄雄
海女とても陸こそよけれ桃の花 高浜虚子
ふだん着でふだんの心桃の花 細見綾子
葛飾や桃の籬も水田べり 水原秋櫻子
ゆるぎなく妻は肥りぬ桃の下 石田波郷
百姓に今夜も桃の花盛り 永田耕衣
野に出れば人みなやさし桃の花 高野素十
桃咲いて隣りに赤子生まれさう 山本洋子

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挿し芽せし日にはじまれり菊日誌 田島星景子

2021-03-18 | 今日の季語


挿し芽せし日にはじまれり菊日誌 田島星景子

句意は明解
おそらく作者はこの挿し木が初めての経験だろう
きっと上手にできたのだろう
胸のときめきまで感じられてくる
(小林たけし)

【挿木】 さしき
植物の無性繁殖法の一。果樹・花木などの枝を切りとり、直に地に挿し根を生じさせる分栽法で、柳・茨・枳・葡萄・茶などの繁殖に利用する。挿す部分を挿穂といい、彼岸前後から八十八夜頃までに行う。
例句 作者

出そびれて家にゐる日やさし柳 永井荷風
一枝の葉の凛として挿木かな 高浜虚子
草木打つ雨の響きや挿木つく 原 石鼎
一と杓を傾け挿木をはりけり 後藤夜半

【接木】 つぎき
◇「接穂」 ◇「砧木」(だいぎ)
3月頃、芽の出た木を切って同類異種の木の幹に接ぎ合わせ生育させ、樹種の改良と繁殖をはかる。一般に果樹の栽培などで行われる。接ぐ方の芽や枝などを接穂、根のある方を台木という

例句 作者

湖の夕日さしゐる接木かな 山口青邨
柿接ぎし女人高野の深空あり 大峯あきら

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かたまりてゆらゆらと来る彼岸婆 関洋子

2021-03-17 | 今日の季語


かたまりてゆらゆらと来る彼岸婆 関洋子

彼岸会の寺に連れ立ってやってくる
年配の婦人たち
彼岸婆とは少々安易な呼び名だが
それとなく親しみおかしみがある季語である
とう遠くはない彼岸への挨拶をする心根かも知れない
(小林たけし)

【彼岸】 ひがん
◇「入り彼岸」 ◇「彼岸前」 ◇「彼岸過」 ◇「お中日」
春分・秋分を中日とした7日間。梵語の波羅の訳語。波羅とは、到彼岸の略で、生死流転に迷う此岸に対して、煩悩の流れを超えた悟りの境地を彼岸という。

例句 作者

かあちゃんよ今はどのへん春彼岸 五島治人
そこだけ明るいキツネの絵本彼岸過ぎ 吉岡純子
ひとつずつしがらみ消える彼岸明け 巽三千世
ジーンズの穴吹きぬける彼岸西風 金丸秀子
ビー玉の転がる板の間彼岸過ぎ 安部ひさし
人ごみに蝶の生まるる彼岸かな 永田耕衣
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春光や槌音はずむ地蔵小屋 たけし

2021-03-15 | 入選句


春光や槌音はずむ地蔵小屋 たけし

2021年3月12日 朝日新聞 栃木俳壇にて石倉夏生先生の選をいただいた

何年も朝のウオーキングで見かけている地蔵小屋
春耕ちかいこのおり
村人が集まって小屋の修理をしいぇいるところに遭遇した時の景

心象を詠む句が多いが
掲句のような句も捨てがたい

季節の挨拶句の感じもあると感じてもらいたい
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切株をたつ頬白の一呼吸 堀口星眠

2021-03-13 | 今日の季語


切株をたつ頬白の一呼吸 堀口星眠

切株の頬白を作者はどのくらい見ていたのか
おそらくは一瞬だったのではないかと推察する
切株にいた頬白は空を伺い一呼吸して飛び立っていった
作者はその動作を切り取った
(小林たけし)



【頬白】 ほおじろ(ホホ・・)
ホオジロ科の鳥。背面は大体栗褐色で、胸腹部は淡褐色、顔は黒色で頬が白い。日本では林縁から開けた場所に普通に見かける。雄のさえずりは「一筆啓上仕り候」と聞えるという。

例句 作者


頬白の移りゆく枝みな芽吹く 中村四峰
見上げられゐても頬白鳴き止まず 太田 嗟
たたずめば頬白の鳴く狩野なり 阿部ひろし
頬白やいつしんに巌ひかりいづ 加藤楸邨
頬白や下枝下枝の芽ぐむ間を 中村汀女
頬白や一人の旅の荷がひとつ 有働 亨
頬白の咽喉母のこゑ専らなり 石田波郷
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桃の花家半ばまで陽が入りて 森 澄雄

2021-03-10 | 今日の季語


桃の花家半ばまで陽が入りて 森 澄雄

長い暗い重たい冬がどうやら退いて
梅の花が咲く春が訪れた
その喜びを
開け放った縁側から座敷の半ばまで
日がさしこんでいる
待ちかねた春到来のよろこびが見事に表されている
(小林たけし)

【桃の花】 もものはな
◇「白桃」 ◇「緋桃」(ひもも)
バラ科の落葉小高木。中国原産。4月頃、葉に先立って淡紅色または白色の五弁の、蘂が長く鄙びた愛らしい花を開く。桜や梅にくらべて花が大きい。果実は大形球形で美味。古くから日本に栽培、邪気を払う力があるとされた。雛祭には欠かせない花である。

例句 作者

ふだん着でふだんの心桃の花 細見綾子
葛飾や桃の籬も水田べり 水原秋櫻子
鶏鳴も花桃ねむき彼方より 飯田龍太
ゆるぎなく妻は肥りぬ桃の下 石田波郷
桃花園へ降るふらんねるの太陽 伊藤敬子
にはとりが鳴き牛が鳴き桃の村 杉 良介
百姓に今夜も桃の花盛り 永田耕衣
桃咲いて隣りに赤子生まれさう 山本洋子
イヴ居ずや砂地に桃の咲き満てり 大高弘達


桃始笑
七十二侯は「桃始笑(ももはじめてさく)を迎えました。


桃の木はかつて中国で魔を払う力がある霊木とされてきたため、「兆す」の字をあてられています。理想郷やユートピアとしての「桃源郷」も、不老不死の桃の実がなる仙境の伝説からきていますし、鬼を退治にいく桃太郎伝説もここから来ています。

由来はともあれ、実際の桃の花や枝ぶりをみると、素直というか、無邪気というか、梅のような品格はなく、桜のような豪華さもないけれど、女の子のとびっきりの笑顔のような愛らしさがあります。

女の子の成長を祝う「桃の節句」のルーツは、中国最古の詩集『詩経』の「花嫁の歌」にあります。桃はいわば気立てのよい女の子の象徴で、古代の中国では旧暦三月の桃の咲く頃に結婚式を挙げる風習があり、嫁ぐ娘たちの幸せな門出を祝う歌だったようです。
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磯遊び波引くたびに足残り 大牧 広

2021-03-09 | 今日の季語


磯遊び波引くたびに足残り 大牧 広

春の浜辺ではだれもが波を追い波に追われる
いつか波に足は洗われる
はしゃいでいるのは子供だけではない
声も空の青さも聞こえる、見える
(小林たけし)


【磯遊び】 いそあそび
◇「磯祭」 ◇「花散らし」
春の大潮の頃、潮の引いた磯に出て遊ぶこと。陰暦3月3日頃、春の彼岸の大潮にあたり、1年のうち一番潮の干満の差が大きくなる。

例句 作者

磯遊び二つの島のつゞきをり 高浜虚子

紅き岩みどりの礁磯あそび 富安風生
子との距離いつも心に磯遊び 福永耕二
浪白くなりて寒しや磯遊 福田蓼汀

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