新月に大挙の抗議ほたる烏賊 2016-05-30 | 入選句 新月に大挙の抗議ほたる烏賊 新月の富山湾 ほたる烏賊の大群が押し寄せる 真っ暗な海 彼らの茉莉花はたまた恐怖か いにちがけの抗議のようにも思えてくる 発表 2016/5/30 朝日新聞 金子兜太選
昼顔のみさかいのなくからみをり 2016-05-27 | 夏 昼顔のみさかいのなくからみをり 昼顔はあの可憐な淡い色合いに似ず なんとも逞しい 炎天のなかで咲き続ける 水を欲しがる風でもなく 身を預けるものがあれば絡み付いて高みへと昇る 花が終わった後の蔓はこれまた強靭である ひっぱって手を痛めるほどだ 朝顔 夕顔 それおれにしっかりとした個性がある
なぞりたる古き碑青葉風 2016-05-25 | 夏 なぞりたる古き碑青葉風 古い碑が緑の風を受けている 刻字は読めないものの方が断然多いのだが 眼でなぞり時には指でなぞってみたりもする 気の遠くなるような長い年月 たくさんの風雨を乗り越えての今日 この先の年月のほんの一瞬である 風がやさしい
それぞれの夢も現つも庭花火 2016-05-24 | 夏 それぞれの夢も現つも庭花火 娘や孫との庭での手花火 赤ん坊だった末孫もいまや中学校3年生 長孫は大学3年目を迎えている それぞれが一点をみつめるが それぞれの夢も現実も 当然ながら交わることは無い
軍服を脱いでほんとのクールビズ 2016-05-23 | 夏 軍服を脱いでほんとのクールビズ サラリーマンの背広にネクタイ これは現代の背広だろう 仕事場は線上だ 夏になってクールビズがいわれるようになったが 常態戦場の気持ちは変わらない 退職してからこそがほんとうのクールビズだ
あつらえたやうに余生の籠枕 2016-05-20 | 夏 あつらえたやうに余生の籠枕 からっとした心地よいさわやかな夏の一日 甚平に身を包んでひと寝入り こんな時の籠枕はなんとも似つかわしい からっぽで軽く風を通す 余生の一日には御誂えの一品だ
花魁草雨には雨を装いて 2016-05-19 | 夏 花魁草雨には雨を装いて この花の命名の由来は知らぬ 「花魁草雨には雨に染まりけり」が昨夏の初案だったが 花魁草の自我を表現してみた 花魁と薄倖の響きに負けていない自我がいじらしい
なんどでもおなじあいさつ夕薄暑 2016-05-17 | 夏 なんどでもおなじあいさつ夕薄暑 朝のウオーキング、夕べの散歩 知った顔、見知らぬ顔と行き交う 同じように同じ挨拶を交わし合う 暑さ、雨、桜の終わり、熱気球など 同じ町に住んで同じ空気で暮らしている
旅行誌のほこりをはらひ夏の夕 2016-05-16 | 夏 旅行誌のほこりをはらひ夏の夕 春夏秋冬 旅行はいつだってシーズンだ 毎月送られてきる旅行誌をめくって思いをめぐらすが 気付けば季節はめぐっていて今年も半ばである ほこりを被った旅行誌を紐でくくってゴミにまとめる
夜夜中の蚊音なんども打ち損ね 2016-05-13 | 夏 夜夜中の蚊音なんども打ち損ね 寝付くころの蚊はなんとも憎らしい 結構な高温で耳元に襲い掛かってくる 打ち損ねるといよいよ憎い ついには起き上がっての戦闘だ
金色の植田に高き嬰の声 2016-05-12 | 夏 金色の植田に高き嬰の声 昨今の田植えは田打機がほとんどで 家族総出の昔のおもむきはない それでも老いた農夫の作業が終わるころには おばあちゃんが小さな子供を連れてやってくる おりから夕焼けて植田は金色に染まる 子供の声は高く鋭い
草むしる手の止まる先名無し草 2016-05-11 | 夏 草むしる手の止まる先名無し草 初夏の青葉は清しいもの 青葉からもれる木漏れ日もうれしい 足元には雑草が逞しい この季節の際限のない草とりの日課 名無し草の可憐な容に思わず手が止まる
ふぞろいの宮の石段新樹光 2016-05-10 | 夏 ふぞろいの宮の石段新樹光 寺社の石段が好きだ 見上げるような勾配があると登らずにはいられない 掃除もあまり行届いていないほうが自然で良い その石段が古びて不揃いでこばこに 若葉を通して日がさしていたら何をか云わんだ