田水張り方形の空列びおり 2016-04-29 | 春 田水張り方形の空列びおり 田植え前の水を張った田圃 真四角な水面が空の雲をとらえている 送電線を支える鉄塔の四肢がさかさまに映る 幾世代もの農村の風景は平和の象徴だ
腹のなかなんにもなくて鯉のぼり 2016-04-28 | 春 腹のなかなんにもなくて鯉のぼり 初孫の初節句には兜と金太郎の人形を購買した 鯉幟もその年から10年以上庭に柱を立てて泳がせたものだった いつのまにか本人は見向きもしなくなって張り合いがぬけた 孫の成長の証なのだjからどうということはないのだが少し寂しい気分を味わった 子離れのつぎは孫離れじゃ 彼は今年21才になる
またひとつ失くすしがらみ若葉風 2016-04-26 | 春 またひとつ失くすしがらみ若葉風 若葉の季節の到来だ この時期が一番のお気にいりだ 毎年樹木は再生する 私も来し方のしがらみを毎年脱ぎ捨てて 行き交える心地がする 失った惜しむしがらみはひとつとしてない
亀鳴くや聞かば三途の渡し舟 2016-04-25 | 春 亀鳴くや聞かば三途の渡し舟 のどかな春の日を浴びながら夢うつつにまどろんでいると 聞くはずのない亀の鳴き声が聞こえてくる 一度も聞いたことのない声が亀の鳴き声と分かるのが不思議だが 黄泉への旅立ちともなれば不思議もありだ 渡し賃六文をたしかめてみる こんなにも満ち足りたおだやかな気分ははじめてだ
春の雨忍野のむかし湖の底 2016-04-22 | 春 春の雨忍野のむかし湖の底 富士裾野を1年かけて歩いたことがあった 裾野1周は凡そ200km 毎月日帰り温泉を利用しながら歩いたのだった 春夏秋冬の富士を眺める楽しみがあったのだが 天候に芽踏まれないと藤は隠れてしまうこうのは運次第 春の雨にうたれながらの忍野ヶ原の遊行が忘れられない
泥蛙四足を伸ばす鍬の先 2016-04-21 | 春 泥蛙四足を伸ばす鍬の先 田圃は田植えの準備がさかんである 田起こしもすんで昨日は用水路の相似をしていた 鍬やスコップでさらう 突然に若いお嫁さんの嬌声 鍬の先に泥の容の蛙だった
菜の花の飽きない苦み母じこみ 2016-04-20 | 春 菜の花の飽きない苦み母じこみ 毎日 菜の花をいただいている お浸し 炒め物 お肉との合わせもの どんなに形を変えてだされても飽きることは無い 不味いと思ったことは一度も無い あの独特の苦味にはまっているのだ 幼年時代から培われた我家の味なのだ 母仕込みと思ったが実は父の好みだったに違いない
しゃぼんだまする子昭和を踏み越える 2016-04-19 | 春 しゃぼんだまする子昭和を踏み越える スマホ使いこなす小中学生 何人かが集まっていても会話がない こんな子供社会はおかしいと思う しゃぼん玉に感じる郷愁そして共感 日本人のDNXを信じたい 私は昭和の子供だが踏み越えてほしい 踏み砕いてもらってはこ、ありのだ
仕草まね善人となり仏生会 2016-04-15 | 春 仕草まね善人となり仏生会 年に一度だけの灌仏会 にわか仏教徒が仕草をまねる お釈迦様のひろい心はすべてを受け入れてくださる どれに甘えるように この日はみんな善人であることに疑いはない
花菜漬その送り手の訃報来る 2016-04-14 | 春 花菜漬その送り手の訃報来る この季節 この句が蘇る 毎年贈ってくれる山菜の漬物だったが その年はその荷を解かないうちに その送り手の友の訃報が届いたのだった
トラクター孕雀の従きまわり 2016-04-12 | 春 トラクター孕雀の従きまわり 春耕である 田植えの前の田圃は日ごとに姿を変える トラクターが土を返す 眠りからさめぬ土中の生き物があわてて飛び出す トラクターのあとを雀がおいかける 春は人も他の生き物も大忙しだ
花は葉に一人の似合ふ東慶寺 2016-04-11 | 春 花は葉に一人の似合ふ東慶寺 桜の季節もおわり すこしの間は新緑の季節をまつようになる 千本桜の賑わいは日本人のだれもが好むが ふなびたお寺さんに1~2本の桜も素晴らしい 歴史のある駆け込み寺といわれた 鎌倉東慶寺 花のおわるころの佇まいが好ましい
清貧の怯まぬかたち犬ふぐり 2016-04-08 | 春 清貧の怯まぬかたち犬ふぐり 「清貧の思想」を詠んだのは 自営の仕事が業績を伸長させている時だった これで良いのか 人生の成功は富と栄誉なのか こんな疑問が湧きだしたころだった 富も栄誉も手には選らなかったが 他に迷惑をかけず無事に生きている
桃まつり嬰の耳には日の透けて 2016-04-07 | 春 桃まつり嬰の耳には日の透けて 嬰児の肌はみなやわらかだが なかでも耳は格別だ 日を通して透けていることもある 嬰児だった吾子を空に掲げての桃まつりもあった
静かなる留守居の主役冷奴 2016-04-06 | 入選句 静かなる留守居の主役冷奴 冷奴は好物だが 夕餉の主役には少し物足りない 家内の留守にひとり膳の際は それは紛れもない主役におさまっている 入選 2014/9/30 朝日新聞 栃木俳壇 石倉夏生選