嘘と恥かたちにすれば唐辛子 丈子

赤っ恥・真赤な嘘に唐辛子の取合せ
言葉遊びの嫌いもあるが
妙にしっくりした

晩節の始めは知らず桐一葉 丈子

先日傘寿を迎えた
まちかいなく晩節の最中であるが
さてこの晩節
いつからだったのだろう　
思い当たる節がない

丹精は昭和のことば糸瓜水 丈子

糸瓜水は祖母愛用の化粧水だったが
うま見ることはなくなった
同時に「丹精」という言葉も聞くことはない

秋日射し鑿あと深き石の蔵 丈子

栃木は蔵の街
石造えいの古い蔵にたくさんの鑿の痕跡
秋の日差しがその深みを鮮やかにみせていた

七竈芯の芯まで自虐癖 丈子

いつまでも燃え尽きることのない七竈
身を苛んでいる自虐のようだ
自分にもこんなところがある

草葎「まむし注意」の赤ペンキ 丈子

朝の散歩を再開しての境内への道筋の草葎に
赤のペンキでこの看板
ぞくっとするが有難い

慇懃に割り込んで来る秋日傘 丈子

たおやかな日傘は
ほほえましく風情もあるのだが
慇懃にして無礼な厚かましい
こんな日傘は反吐がでり

墓洗う不肖なるとも子はひとり 丈子

父性を殆ど記憶に持たない私だが
年に一度くらいは墓を洗う
火宅の父に不肖の私　

水澄めり蒼天映す身ごしらえ 丈子

猛暑が一段託して風も爽やかになってくると
水も澄み切って透明度が深まってきる
同じく澄み渡る蒼天を映す身ごしらえのようである

今年米嗅いで零してまた掬ふ 丈子

新米の有難味は格別だ
匂いを嗅いで手触りを確かめ
そしてまた掬ってみる

大口を開け選外の菊人形 丈子

菊人形の出来栄えを競う大会で
選外の菊人形は大きな口を
あんぐりと開けたまんま動かない

生身魂せつなきときは早く寝る 丈子

この生身魂は自虐の私
寂しいとは誰にも言えない
何も言わずに早く寝る

思ひ切り秋のほほずり富士裾野 丈子

富士の裾野を1年間かけて一周したことがある
その時の1句
朝日新聞俳壇で金子兜太・長谷川櫂先生に採っていただいた

来し方を諾いながら照紅葉 丈子

二桁も転んだ来し方だったが
振り返ればどれも今日の礎だと
諾える
秋の日に映える紅葉がなんとも美しい

この街を終と確かむ芒晴 丈子

今や傘寿、転地転職も何度か
この地に流れて三十余年、
どうやらここが終生地
芒をわたる風が心地よい、秋日和である