行く年やわれにもひとり女弟子 富田木歩
女性の弟子が一人いることをしもじみと思う作者
その女性への想いはただの俳道だけではないようにさへ思わせる
大晦日の師弟のワンシーンではつまらない
(小林たけし)
昔は、大晦日に師の家に挨拶に行く風習があった。正岡子規の「漱石が来て虚子が来て大三十日」の句は、つとに有名だ。まことにもって豪華メンバーである。そこへいくと木歩の客は地味な女人だ。が、生涯歩くことができなかった彼の境遇を思うと、人間味の濃さの表出では、とうてい子規句の及ぶところではない。たったひとりの女弟子のこの律儀に、読者としても、思わずも「ありがとう」と言いたくなるではないか。(清水哲男)
【行く年】 ゆくとし
◇「年逝く」 ◇「年歩む」 ◇「去ぬる年」(いぬるとし) ◇「年送る」
一年の歳月を惜しみ、振り返るような気持ちが込められている。そこには人間の生きる時間への哀憐の情も重なる。また昔は、年の終わりは冬の終わりの謂でもあり、そうした思いも底流にある。
例句 作者
忘れ傘預かり傘に年逝かず 鈴木真砂女
山国や年逝く星の充満す 相馬遷子
百方の焼けて年逝く小名木川 石田波郷
行く年や庇の上におく薪 一茶
行く年の汐汲みて船洗ひをり 鈴木雹吉
門川に年逝く芥ながしけり 安住 敦
行く年を母すこやかに我病めり 正岡子規
行く年や水に影おく稲架の骨 藤田あけ烏
余生とはうどんを吹きて年送る 石田玄祥
とんとんと年行くなないろとうがらし 草間時彦