竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

狼や睾丸凍る旅の人 子規

2017-01-31 | 子規鑑賞
狼や睾丸凍る旅の人




今回は「凍る」を季語とした子規26才^31才の俳句を抽出した
表題句は子規31才の作

下記は 整理番号/作品/年代/季節/季語 の順に表記した

683千足袋の其まゝ氷る株かな26冬時候凍る
684夜嵐や網代に氷る星の影26冬時候凍る
685蘆の根のしつかり氷る入江哉27冬時候凍る
686染汁の紫こほる小川かな27冬時候凍る
687染汁の紫氷る小溝かな27冬時候凍る
688谷川の石も一つに氷りけり27冬時候凍る
689ともし行く灯や凍らんと禰宜が袖27冬時候凍る
690今年中氷りつきけり諏訪の舟28冬時候凍る
691氷りけり諏訪の捨舟今年中28冬時候凍る
692手凍えて筆動かず夜や更けぬらん28冬時候凍る
693四辻や打水氷る朝日影28冬時候凍る
694歌の濱も上野の嶋も氷りけり29冬時候凍る
695靴凍てゝ墨塗るべくもあらぬ哉29冬時候凍る
696凍る田や八郎稻荷本願寺29冬時候凍る
697凍る手や栞の總の紅に29冬時候凍る
698蒟蒻も舌も此夜を凍りけり29冬時候凍る
699冷飯のこほりたるに茶をかけるべく29冬時候凍る
700漏らさじと戀のしがらみ氷るらん29冬時候凍る
701手凍えてしばしば筆の落んとす30冬時候凍る
702袴著て手の凍えたる童哉30冬時候凍る
703崩御遊ばさる其夜星落ち雲こほる30冬時候凍る
704狼や睾丸凍る旅の人31冬時候凍る
705凍え死ぬ人さへあるに猫の戀31冬時候凍る
706土凍てゝ南天の實のこぼれけり31冬時候凍る
707墨汁も筆も氷りぬ書を讀まん31冬時候凍る
708枯菊や凍たる土に立ち盡す32冬時候凍る
709凍えたる手をあぶりけり弟子大工32冬時候凍る
710凍えたる指のしびれや凧の絲32冬時候凍る
711精出せば氷る間も無し水車32冬時候凍る
712土凍てし愛宕の山や吹さらし32冬時候凍る
713星滿つる胡の空や角こほる32冬時候凍る
714頬凍て子の歸り來る夕餉哉32冬時候凍る
715道凍てはだし詣の通りけり32冬時候凍る
716割下水きたなき水の氷りけり32冬時候凍る
717凍てついて鼠に鳶の失敗す33冬時候凍る
718凍筆をホヤにかざして焦しけり33冬時候凍

冴ゆる夜の北斗を焦す狼烟哉  子規

2017-01-30 | 子規鑑賞


籔ごしやはだか參りの鈴冴る
門付の三味遠き夜やかねさゆる
冴る夜や大星一つ流れ行く
裏山や月冴えて笹の音は何
鐘冴ゆる夜かゝげても灯の消んとす
琵琶冴えて星落來る臺哉
星冴えて篝火白き砦哉
借り家や冴ゆる夜近き汽車の音
冴ゆる夜や女ひそかに劍習ふ
女房泣く聲冴えて御所の夜更けたり

冴ゆる夜の北斗を焦す狼烟哉


子規時代順に21才から30才までの季語「冴」の句である
鈴/鉦/夜/月/琵琶/泣く声など冴ゆるものの数多である




のろし【狼煙・狼烟・烽火】

敵襲などの変事の急報のために、高く上げる煙や火。古くは草や薪を燃やし、後には、火薬を用いた花火のようなものもあった。 「 -があがる」 〔中国で、狼の糞ふんを加えると煙が直上するといわれた〕

合図。信号。 「新時代の到来を告げる-」

月寒しことわられたる獨旅  子規

2017-01-29 | 子規鑑賞
月寒しことわられたる獨旅

月寒し宿とり外すひとり旅





いずれも子規25才
ひとりで旅をして宿をとるのに苦労した様子がよく分かる
宿泊を断られて何限目かの宿で許された安堵感も良く分かる

月寒し は単なる取り合わせだけではないのだ

くやみいふ口のどもりし寒さ哉 子規

2017-01-27 | 子規鑑賞
くやみいふ口のどもりし寒さ哉



子規25才
親しい人との永久の別れ
遺族への「お悔やみ」を伝える

小さな声で語尾の消えそうなお悔やみだが
口がどもってしまった

子規は寒さのせいにしているが
深い悲しみ、遺族への思いが
どもらせたに違いない

冬されて何の香もなし野雪隱 子規

2017-01-26 | 子規鑑賞
冬されて何の香もなし野雪隱





子規27才

今ではほとんど死語になっている雪隠
それも外にある野雪隠
あるいは野糞かもしれない

冬の寒さに景に色は消え
乾いた空気はものの匂いを消してしまう

雪隠の糞も香らないのだと
子規はダメを押している

雷鳥の白の極まる冬毛かな 丈士

2017-01-25 | 
雷鳥の白の極まる冬毛かな




冬の立山
雪壁の間をぬって何度かバスで訪れた

視界の全てが純白で
強めにほほを撫でる風までも白く尖っている

すぐ近くの雪の中に雷鳥をみた時の感激は
言葉にならない

めったに遭遇することはないと案内人は言っていた

極まる白
立山連邦の雪は雷鳥を護るために白いのかもしれない


入選 2017/1/25 朝日新聞 栃木俳壇 石倉夏生

藥のむあとの蜜柑や寒の内  子規

2017-01-24 | 子規鑑賞
藥のむあとの蜜柑や寒の内




子規34才
ほとんど病床にあえうものの句作は盛んであった
この句に鑑賞はいるまい

下に「寒」の代表句を添えた
子規の句の表現の軽さと内容の重さに比べるものはない


干鮭も空也の痩せも寒の内  芭蕉 「膳所歳旦帳」

のら猫の声もつきなや寒のうち  浪化 「有礎海」

海老焼きてやまひに遊ぶ寒の内  樗良 「樗良発句集」

美食して身をいとへとや寒の内  村上鬼城 「定本鬼城句集」

湯に透きて寒九の臍ののびちぢみ  加藤楸邨「吹越」

日影さす人形店や小六月  子規

2017-01-23 | 子規鑑賞
日影さす人形店や小六月



明治28年 29才
子規は日清戦争の従軍記者となって「陣中日記」を発表
帰国後喀血し神戸にて入院
退院して須磨保養所へそして松山 夏目金之助の下宿に映る
10月東京に映っている

この作品はその後のものだろう
激動の明治中期にあって漱石や鴎外との交わり
自身の喀血、入退院
高浜虚子へのホトトギス後継への依頼と拒絶になやんでいたころの作品

小六月は下記のように「小春」の傍題だ
【小春】 こはる
◇「小春日」 ◇「小春日和」 ◇「小春風」 ◇「小春空」 ◇「小春凪」 ◇「小六月」

陰暦10月の異称。そのころは春が甦ったかのような雨風の少ない温暖な日々が続くので、小春日、小春日和、小六月などの可憐な名をつけて称えられた。しかし俳句では、うららかな日和を称えて詠んでいる。

菊の香や月夜ながらに冬に入る  子規

2017-01-21 | 子規鑑賞
菊の香や月夜ながらに冬に入る



この句の中には,三つの季語が含まれています.
『菊』(秋の季語),
『月』(秋の季語),
『冬に入る』(『立冬』と同じ意で,初冬の季語).

【菊の香りが漂っている月光が明るい夜なのだが(感じられる季節感は秋なのだが),もう時節は立冬を迎えたのだ.】

正岡子規は,『菊』も『月』も「秋の季語」である事を意識した上で,「,感じられる季節感は『菊の香りが漂う月夜』,つまり『秋』だけれども,時期はもう冬に入ったのだ」という感慨を詠んだものと思われます.

所謂,『季重ね』ですが,不自然さを感じさせない,作者の力量を感じられるように思われます.

尚,句の意味から,三つの季語のうち,主たる季語は『冬に入る』で,『菊』,『月』は従たるものであると考えられます.

edelweiss_edelweiss87 参照

乏しからぬ冬の松魚や日本橋   子規

2017-01-19 | 子規鑑賞
乏しからぬ冬の松魚や日本橋



松魚は「ショウギョ」と読む
カツオの異名だそうだ

乏しからぬ が子規の生活状況だったのだと分かる
日本橋には魚市場があった
カツオを一本買い求めて気持ちの高ぶりが感じられてくる

すれ違ふ欠礼はがき十二月  丈士

2017-01-18 | 
すれ違ふ欠礼はがき十二月 



12月になると欠礼はがきが送られてくる
この枚数が年々増えてくる
千年は我家でも不幸があったので送付した
送った先からほとんど同じころに送られてきた葉書があった

本人から家族の不幸の通知が多いが
今年は当人の家族から当人の不幸を知らせてくるものもあった

こうして年賀状は送付先も頂くものも減ってくる


松手入れ梯子したから妻の指示  丈士

2017-01-17 | 
松手入れ梯子したから妻の指示




毎年、暮れになると遅まきながら
玄関わきの松の手入れをする

以前は出入りの植木職がやっていたのだが
仕事をはなれてからは見様見真似でやっている

瘤や傷も懐かしく愛おしい感じになっている

梯子を上るのもへっぴり腰
妻は梯子下でアレコレと指示役である

筆ちびてかすれし冬の日記哉  子規

2017-01-16 | 子規鑑賞
筆ちびてかすれし冬の日記哉



明治33年 子規33才

子規は「墨汁一滴」につづいて「仰臥漫録」の日記を残している
下記は「墨汁一滴」の実録


一月七日の会に麓ふもとのもて来こしつとこそいとやさしく興あるものなれ。長き手つけたる竹の籠かごの小く浅きに木の葉にやあらん敷きなして土を盛り七草をいささかばかりづつぞ植ゑたる。一草ごとに三、四寸ばかりの札を立て添へたり。正面に亀野座かめのざといふ札あるは菫すみれの如ごとき草なり。こは仏ほとけの座ざとあるべきを縁喜物えんぎものなれば仏の字を忌みたる植木師のわざなるべし。その左に五行ごぎょうとあるは厚き細長き葉のやや白みを帯びたる、こは春になれば黄なる花の咲く草なり、これら皆寸にも足らず。その後に植ゑたるには田平子たびらこの札あり。はこべらの事か。真後まうしろに芹せりと薺なずなとあり。薺は二寸ばかりも伸びてはや蕾つぼみのふふみたるもゆかし。右側に植ゑて鈴菜すずなとあるは丈たけ三寸ばかり小松菜のたぐひならん。真中に鈴白すずしろの札立てたるは葉五、六寸ばかりの赤蕪あかかぶらにて紅くれないの根を半ば土の上にあらはしたるさま殊ことにきはだちて目もさめなん心地する。『源語げんご』『枕草子まくらのそうし』などにもあるべき趣おもむきなりかし。

あら玉の年のはじめの七くさを籠に植ゑて来こし病めるわがため

のら猫の糞して居るや冬の庭 子規

2017-01-14 | 子規鑑賞
のら猫の糞して居るや冬の庭



荒れた冬の庭にはには
見るべくものは何もない
ふと何かが動く
のら猫が糞をしているのだった
それだけの報告句のようだが

なにもない これを切り取ったのだろう

余談だが「糞」は俳句では相当に嫌われる言葉のようだ
「まり」と読ませることもあるようだ